The end of summer
11時 15分
唖然とした。
それは、眉間に拳銃を向けられているからなのか、それとも彼女が言った言葉になのかは分からなった。
「どういう、ことですか」
ハッキリとした声で訊ねる。意外にも堂々としている事に自分で驚いた。
「先生……、いえ、君のお父さんからの依頼よ。家出した息子を連れ戻すように頼まれたの」
「頼まれたっ……?! あの人は能力差別者です。依頼するにしても能力者である貴方に頼むはずがない!」
「あの人も好きで能力差別者な訳じゃないのよ。先生にもややこしい事情があるの」
一瞬にして、父という人間が分からなくなった。僕の知っている父は、大の能力者嫌いのはずである。しかし、彼女は昔の父を知ってる口調だ。
互いの思い浮かべる父の姿が一致していない。
「お喋りがすぎたわね。詳しくは本人に聞きなさい。 君が家に帰ればいい。それで仕事はおわり。私とて無知な高校生に発砲はしたくないの。言いたい事、わかるよね?」
「大人しく付いてこい。……ってことですか?」
女は返事をしなかったが、彼女の目からいってそういうことである。
どうする? 従うべきか? 拳銃を向けられてる以上、僕が圧倒的に不利なのは明確だ。抵抗するにしてもたかが知れてる。でも_______________
「……嫌です。僕の家はこのアパートです」
女はため息をついた。
「出来れば無傷でとか考えてたけど、そりゃあ先生の息子なら拒むよね」
女は呆れた顔で銃口を僕の足に向け直した。
「はい、ストォォォプ!!」
明るい声が聞こえたのはその時だ。
肩に少しかかる黒色のミディアムヘア。脚を開いて堂々と立ち、ピンと伸びた左腕の先に構えた懐中電灯。
僕はその姿を2度とわすれることはできないだろう。
「優子さんっ!」
「状況は分かんないけど、とりあえず光輝くん、そこから離れようか」
つまづきそうになりながら優子さんの後ろへとかけて行く。彼女の華奢な背中がこれ程頼もしく思える日が来るとは……。
コート女の体は一切動けないようで、僕が居た場所に銃口を向けたまま静止していた。
しかし、今日は雨である。太陽がなければ影が出来ることもない。優子さんは、光遮物の影に入ったものを支配する能力である。
「優子さん懐中電灯向けただけで能力つかえたんですか?!」
「いや使えないよ。あらかじめ、光遮物にしておいたシールを懐中電灯のレンズに貼っておいた。だから、懐中電灯向けてる相手を支配できる」
つまりは、懐中電灯の光を灯すことで、レンズに貼られたシールの影ができるという事か。
「それより、高校生に拳銃むけてた人がいるんだもん。相当な理由があってのことだよね?」
「…………仕事よ」
優子さんの問いかけに、女は端的に答えた。
「それより、│能力解除してくれない? せめて銃位はしまいたいの」
「やだよ。貴方の能力者が分からない以上、一切の要求を飲むつもりは無い。光輝くんを飽きられめて帰るなら解除するけど」
「言ったでしょ……。仕事で来てるって」
「じゃあ、今から断りなよ」
「私はプロよ?」
一向に終わらない子供じみた論争。優子さんも鬱陶しく思い始めたのか、大きくため息をついた。唸りながら頭をかいていると、なにか思いついたように卑しく微笑む。
「出来れば無傷でとか考えてたけど、そりゃあ“プロ”なら拒むよね〜」
わざとらしくコート女の真似をして、優子さんが言う。
「命令する。銃口を自分の太ももに当てて」
優子さんがよく通るハッキリとした声で言うと、コート女はその通りに動いた。
「脅しじゃないよ。光輝くんは私の部下だし、守る義務があるんだ。どうしても去らないなら引き金を引かせる」
コート女の顔は長い髪で遮られていたが、一切怯えていないことは明白だった。
どうせ出来ない、とたかを括っているのだろうか。
「やれば……」
「それじゃあ、遠慮なく」
「……それで事は済む」 「命令。引き金、引いて」
発砲音。銃口から漏れる煙。
そして、硝煙の香り。
しかし、コート女の足から血が溢れてくることは無かった。
「だから、言ったじゃん」
コートが憐れむように言った瞬間、僕らの前方の空間に、握りこぶし程の黒い小さな穴が開いた。
「えっ?」
優子さんが声を漏らしたと同時に、穴から小さな塊が飛び出し、懐中電灯のレンズに命中した。臭いで理解したが、あの塊は銃弾である。
光が消えれば影も消える。当然のことだが、この局面において、その事実は非情だ。
優子さんの能力が消えた今、コート女を縛るものは何も無い。
一瞬にして僕達に接近すると、唖然とする優子さんを抵抗する間もなくねじ伏せ、足で地面に押さえつけた。泥水が跳ねて優子さんの髪を汚す。
優子さんに向けられた銃口。僕が状況を把握した時には、事が済んだ後である。
「形勢逆転……かな」
自ずと手を挙げてしまった。コート女は悟れ、とでも言いたげな冷たい目線で僕を見つめた。
「…………分かりました。付いていきます。だから優子さんを離してください」
「物分りが良くて大変よろしい。もうちょい早く決めていれば尚よろしい」
女は拳銃をコートにしまうと僕に背を向けて歩きはじめた。何も言わないが、付いてこいということだろう。
歩き出す前に優子さんを見下ろした。気を失ってしまったのか動こうとしない。
「…………」
心の中で別れを済ませるとコート女の後を歩きはじめた。
アパートの敷地を出ると黒色のミニクーパーが止められていて、コート女はフロント部分にもたれかかっていた。
「乗って」
鋭い目で命令され、言われるがまま後部座席の扉を開いた。
首に衝撃を受けたのはその時だ。
「うっ……!」
鈍い声を漏らすと、僕の身体は後部座席のシーツに倒れた。
「悪いわね。気絶させておく約束なの」
何時間気絶していたのだろう。
意識はハッキリとしているのに、瞼に開かない。体も動かない。不思議な状況だ。
薬品の臭いがするからどこかの病院だろうか。何故か嗅覚だけは残っているようでそれだけは分かった。
「正気なのか公平!?」
扉を開ける音と共に、誰かの声が聞こえた……いや、正確に言うと嗅ぐことが出来た。
公平は父の名前である。この場にあの人がいるということなのだろうか。
「ああ、正気だよ。 だからお前をここに呼んだ」
次に嗅いだのは父の声である。どうやら父と誰かが口論になっているようだ。
「2歳の時だ。光輝が能力者だと気づいたのは。お前にはあの時と同じことをしてもらいたい」
「ああ、そうだったな! あの日も光輝くんの“能力者である記憶”を消したよ。でも別の能力に目覚めた」
「光輝の嗅覚は能力じゃない。あれは私達が測り得ない神秘的なものだ」
話の全貌が一向に掴めなかったが、僕の話題であることは分かった。しかし、僕が能力者だと自覚したのは忘れもしない4歳である。2歳の頃など記憶にもない。
「頼む。光輝は私のように、能力に近づいて欲しくないんだ。私の過去を知ってるお前ならわかってくれるだろ?!」
「分かるとも。でも問題を先延ばしにしているだけだ。いつかは僕の能力も解け、彼自身が自覚する日が必ずくるんだぞ!」
「それでも今じゃない。私だって嗅覚まで消せるとは思わない。だけどせめて……、せめてこの夏に起きた記憶を消してほしい」
はあ?!! と叫びたかったが声は出ない。
「………………わかったよ。でも記憶操作はこれで二回目になる。前よりも効き目は薄いし、最悪の場合、前回の分まで戻る可能性もある。……それでもやるのか?」
「……ああ、頼む」
額に大きな手が被さった。シワのある男の手である。
「ごめんよ……光輝くん。全て思い出したら僕を恨んでくれ」
強烈な能力の臭いがしたと思った瞬間、温かい光に照らされたように頭がゆっくりと温まって行くのを感じた。
「お前、こんなこと光輝くんのためになると思うのか?」
「それでも仕方ないことだ。これが俺の事情なのだから」
能力者達の能力事情 第一部 完
くぅ〜疲れましたw これにて完結です!
実は(ry
とまあ、おふざけはこの辺にして。
最終回ですから思うところもあるのです。興味のない方は評価と絶賛コメントをつけて速やかに去りましょう。
能力者達の能力事情は今回で完結となります。
キャラやストーリーはガバガバだし、題名とあらすじに至っては5分くらいで適当に決めたものでした。
なによりオムニバスでもないという致命的な作品です。
完全に趣味で超マイペースでおおくりした今作。約一年半くらいですね。気づけば週一連載だし1話が短いため、普通なら半年位で完結しそうなんですけどね。
第一部完結とあるように一応続きはあるのです。連載途中で決めたコンセプトだと、光輝が家出をしてから家に帰るまでの話にする予定だったのでとりあえずここで区切りをつけました。
二部の話は結構出来ているのですが、如何せん処女作が長かったもので、他に書きたいものが山ほどあるのです。
でも、キャラ設定とかそういうのを纏めたヤツを投稿するかもしれません。
名前だけ出たキャラなどを使った短編なんかも考えていますが、次の作品は全く関係の無いものになると思います。
しばらくは準備段階に入りますので次回作はもう少しあとになります。
最後に、開始当初から読んでくれた方(雀の涙ほどもなさそうですが……)や完結後から一気読みした方も、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
テンポなんてまったく考慮してなかった序盤や、意味不明な文章が多々あったはずの全編をよく耐えてここまで辿り着いてくれました。
あとは、ダンゴムシくらいの人気しかないのに連載を続けた私を褒めたたえてください。
では、近いうちに会いましょう。
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