能面
日曜、月曜と完全に寝落ちしました。申し訳ないです……。
光輝、真、光輝 の順番で視点が変わります。
病院から出たところで、目を閉じて、鼻に意識を集中させる。
昼間の戦闘で、黒刃の能力は嫌というほど浴びた。現在、“能面”が黒刃だとするなら、彼の“能力の匂い”を辿ることができるかもしれない。
大きく鼻で息を吸うと、あたり一面のあらゆる香気が鼻に届いた。
後ろに立つ真さんや、地に広がる土、そして、茂みの中で鳴く虫の音さえ嗅覚で感じ取れた。まるで全ての感覚を嗅覚で賄えてしまっているようだ。
自身が全知全能という錯覚に陥るほどに清々しく、神々しい感覚が鼻から全身に駆け巡っていく。
邪悪そのものであるかのような匂いを南から感じ取ったのはその時だ。
間違いないと確信して、糸を手繰り寄せるように、その匂いを辿っていく。
「真さん、こっちです」
目は閉じたままだったが、足を進めるのに一切の恐怖も感じない。今の僕には視覚を使わずとも物質との距離を把握でき、真さんがちゃんと後を付いてきているのもなぜか嗅覚で理解した。
こんな感覚は初めてである。今まで使ってこなかった“能力”が爆発したかのようだった。
8月 19日 0時02分
校庭の中心にくると、朝礼台に座る男が“能面”を付けていることに気づいた。
向こうも俺に気づいたのか、無表情な面が俺の方を向くと、“能面”はピョンっとグラウンドに降りた。
「夜の学校って、なかなかいい所だろ? 静かだし、ノスタルジックで気分も落ち着く」
返事はしない。黙って睨みつけた。
「…………そんな怖い顔しないでよ。でもちょうど良かった。“新しい体”にまだ慣れてなくてね。練習代にさせてもらうよ。 …………“玄波”」
“能面”の右手から“玄波”が飛び出す。
“嗅覚”で察知すると、しゃがんでそれを避けた。
「ありゃ? そんな簡単に避けられる代物じゃないとおもったんだけどな」
「今の俺には、全部“嗅げる”んだよ」
俺はここに来るまでの道のりを思い返した。実に数分前の出来事である。
光輝に促されるまま歩き続けると、冷たい雨滴が頬を掠った。そんなことはお構い無しに光輝は進み続ける。
「…………着きました」
光輝がそう漏らしたのは日付が変わる直前のことだ。張り詰めていた集中力が切れてしまった光輝は、その場に座り込むと深呼吸を繰り返した。
「……ここか」
寝静まった住宅街に頭一つ飛び出した建物。壁についた汚れが暗闇と混じって悲壮感を滲み出している。俺たちの前にそびえる門には、暗がりでよく見えないが“〜〜〜小学校”と掘られた石板が備えられていた。
「なんでまた学校なんか に……」
「僕にも分かりませんけど、黒刃の能力はここから出てます」
「…………そうか」
指の骨を鳴らし、短く息を吐いた。
「ここまで連れてきてくれてありがとよ。光輝はそこで休んでてくれ」
「ちょっ、ちょっと待ってください! 僕も行きます」
光輝はふらふらな足どりで立ち上がるもすぐにバランスを崩して尻餅をついた。
「気持ちは嬉しいけど、これは俺達と“能面”の問題だ。だから、俺が決着をつける」
光輝の目線に合わせてそう説得すると、彼はしばらく黙ったのち、納得したように小さく頷いた。
「それでも、お願いがあります。真さんの能力で、僕の鼻を“共有”させてください。きっと役にたちますから」
「それは……」
「じゃないと、しがみついてでも付いていきます」
熱意のこもった瞳に見つめられ、俺はゆっくりと首を縦に振った。
「わかった。有難く使わせてもらう」
数秒間、光輝の鼻に触れた後、その手を自分の鼻に持っていった。
その瞬間、とんでもない量の情報が鼻を通して脳に注ぎ込まれる。意味もわからず咳が出て、嘔吐しそうになった。
「これが……、これが光輝の“嗅いでる”世界なのかよ……」
もはや、“嗅覚”という枠を超えていた。ただ、“鼻”という器官から気体を通しただけで、万物の情報を手にすることが出来る。
│光輝は“この世界”で生きているのか……。常人ならば間違いなく破綻するだろう。
荒くなった息を落ち着けながら立ち上がると、校門に足をかけて飛び越えた。
ここで全て終わらせるのだ。過去のしがらみも全て……1人で……。
着地した瞬間、懐から1本のナイフがこぼれた。
拾い上げると念じるように強く握った。
「1人じゃなかった。お前も手伝ってくれるよな? 千春……」
かつて、“能面”にその姿を変えられた友の名を呼んだ。
「へー、よく分からないけどやる気はギンギンみたいだね」
“能面”の声が俺の意識を引き戻した。
すかさず、“能面”にナイフを向ける。
「一つ聞いておきたい。お前は、自身の能力を解除することはできるのか?」
「さあ、どうだろうね。君、どこかで見た顔だとおもったけど、何年か前に会ったことあるだろ。あの時のナイフは今持ってるそれか? 届けてくれるなんて嬉しいね」
「届けたつもりはねえ。むしろ返してもらいにきた」
「あの時は、なんにも出来ずにウジウジしてた癖に。よくもまあ、そんな強気になれるもんだ。
時間が経とうとも揺るがない圧倒的“差”ってやつを見せつけてあげるよ」
“能面”が言い終わるより速いか、大地を思いっ切り蹴り出した。
“能面”は見越していたように“玄波”を連発する。
“玄波”を掻い潜りながらスピードを緩めずに距離を詰めた。
拳を振り上げた瞬間、衝撃が体を走った。
「どれだけ避けれても至近距離なら意味、無いよね」
歯を食いしばって耐える。このチャンスを逃すことはできない。
無表情な面に向かって拳を振り下ろした。が、虚しくも拳は空を切る。
避けられた!と思った瞬間、鳩尾に“能面”の膝がめり込んだ。
吐血。俺の体は宙に弧をえがくと、グラウンドに全身を打ち付けた。
「もう終わり?」
“能面”は間髪入れずに、“玄波”を出した。
とめどない衝撃が全身で暴れ周る。
飛びそうになる意識を必死で保つ。“玄波”を浴びながらも、ゆっくりと着実に立ち上がった。
「まだ立つんだ」
「お前を倒すって境夏に誓ってきたんだよ……!」
肩で息をして、口のフチから血と唾液が溢れようとも“能面”を睨んだ。
“能面”は呆れたようにため息をつく。
「そんな一瞬でしたような決意なんて、一瞬で崩れるよ」
「一瞬なんかじゃねえ! 千春がナイフに変えられたあの日から、1度たりとも緩いじゃいない。│“能面”《おまえ》を倒して、全て元に戻すって。だから今俺は立ち上がるんだよ!」
叫ぶと同時に、ナイフを右手の平に突き刺した。鋭い傷みと共に、暖かい生血が手に溢れた。
「はぁ……。ついには自傷行為?」
飽きれる“能面”の肩をナイフが掠める。服を裂き、鋭い傷跡を残した。
俺が│千春を投げたことを今理解したようだ。
「…………千春の能力は、“傷を付けた物同士を引き寄せる” 。これの意味、分かるか?」
「何をいっ_____」
言い終わるのを待たずして、“能面”の足が地上から離れ、急激なスピードで俺に向かってくる。 “俺の右手”に引き寄せられるように。
「クッ…………! 止まれ!止まれ! とまれ!」
どれだけ喚いて“玄波”を使おうとも、加速がとどまることは無く、俺が倒れることも無い。
“能面”と俺が接触する直前、過去の記憶が走馬灯のように頭を巡った。
これで……、この一撃で全てを終わらせる。
“能面”の後方、ちょうど│千春が落ちている辺りに、千春の幻覚が見えた。当時と一切変わらぬ姿で口を動かす。
『かませよ』
全身全霊を込めて振った拳は、予定調和のように、“能面”の体にめり込んだ。
その瞬間に叫ぶ。
「“共有”!!」
“能面”は地面で弾むと、後方に吹っ飛ぶ。
すかさず距離を詰め、“能面”の胸ぐらを掴んだ。
「お前と俺の痛覚を“共有”した! これで“玄波”は使えない!」
使ったとしたら、俺のダメージは“能面”にも与えられる。一種の運命共同体となったのだ。
しかし、“能面”は笑う。無表情な面も嘲笑ってるように感じた。
「だからなんだって言うんだ? コッチにはまだ手があるんだよ!」
“能面”は面を外すと、口から小さな球体が飛び出した。
“球体”は一直線に俺へと猛進し、口に入る…………その直前に、俺の手の平に止められた。
「そんな?! 馬鹿な!!」
「言ったろ? 今の俺は全てが“嗅げる”んだよ。本体が出てくるのも臭いで感じ取れる」
“球体”を逃がさないように強く握りしめ、胸ぐらを掴んだ手を離すと、ポケットに入れておいたアルミ製の空き缶を取り出す。
「今、│球体の痛覚を空き缶と“共有”させた」
「どういうことだ!?」
「つまりは、こういう事だ」
手の中で、“球体”の叫び声が響く。空き缶を徐々に握り潰しているのだ。
「わかった! わかった! それ以上はやめろ!」
「じゃあ千春を元に戻せ。そしたら楽にしてやる」
「むっ、無理だ! 元には戻せない。色々と事情があるんだよ!」
“球体”の切羽った声は嘘に感じられず、やり切れない感情がこみ上げてきた。いっそ“球体”を握り潰してしまおうという衝動に駆られた。
「でもっ、直せるかもしれない奴なら知ってる」
「だれだ!」
反射的に怒鳴りつける。
「俺の姿をこの“球体”に変えた奴だ。正体は分からない。ただ、“能力を暴走させる能力”の持ち主で巷ではZENって呼ばれてる」
ZENなど聞いたことも無かったが、この“球体”がデタラメを言っているようにも聞こえない。
「まあいい。お前の話は後でゆっくりと聞かせてもらう。それより、こいつだ 」
抜け殻のように地面で眠る青年。境夏を病院傷つけた罪を償ってもらうつもりだ。
「殺すのか?」
“球体”が問う。
「殺しはしない。それより恐ろしいことをするだけだ」
1時 04分
真さんが戦闘に行ってから約1時間が過ぎた。先程まで蔓延していた黒刃の能力の“匂い”は感じ取れなくなっている。
これが意味するのは…………と考えた瞬間、真さんが学校とは逆方向から帰ってきた。
「大丈夫ですか?!」
“匂い”を嗅ぐまでもなく重症な彼を支えるように肩を貸した。
「悪い。“後処理”に時間かかった」
真さんは痛みでもないかように声を出して笑ってみせた。
「………………勝ったんですか?」
「だからここにいるんだよ」
真さんの表情は何かから解放されたようにスッキリとしていたが、彼の匂いはそうじゃない。むしろ戦いに行く前より濁っていた。
「それじゃあ帰るか」
深夜の住宅街を青年2人が歩く。僕の能力は役に立ったのだろうか? 今はそれが気になって、聞き出すタイミングを伺っている。
本物のボス的なやつが登場しましたが、この話も終わりが近いです。
全く登場してないキャラもいますが、その辺は別の作品で使う予定があるんですよω・)و゛ ㌧㌧
……まあ、区切りを付けるだけで結局は続くと言うわけです
結局、火曜投稿になってしまいました……。




