高校生能力者と病院
23時 36分
暗い雰囲気が漂う病室。酸素マスクを付けてベッドで横になっている境夏さんを側で見守っていた。
黒刃に惨敗を果たした後、気づくと救急車で運ばれていて今に至る。
僕の場合は簡単な処置で済んだが、境夏さん、尭羅さん、蛍さんの意識は未だ戻らず、逢莉ちゃんは僕の横で落ち着きなくモジモジしている。
「蛍さんの病室行きます?」
逢莉ちゃんはビクッと方を震わせ、恥ずかしいのか小さな声で答えた。
「行きたいのはやまやま何だけどさ。ここ、私が脱走した病院なんだよね…………。だから、あんまりウロウロしてると見つかっちゃう……っていうかさ……」
自分の理解力を超えるスケールの話で少々唖然としたが、“ワケあり”ということで勝手に納得した。
廊下を走る音が聞こえた後、病室の扉が勢いよく開かれたのはその時だ。
「真さんっ!」
真さんは勢いよく病室に駆け込むと、境夏さんのベッドの傍らに座り込んだ。
「光輝……、これはどういうことなんだ?」
涙声で尋ねる真さんに、僕の知る限りすべてを話した。“能面”が現れ、黒刃が裏切った事。そして今は黒刃が“能面”だという事。
真さんは黙って聞き終えると、境夏さんの髪をそっと撫でた。
「それと……、“これ”を預かりました」
1本の歪なナイフを真さんに差し出す。
「ごめんなさい……。こうなったのは僕のせいです……。僕がもっと強ければ……」
「別にお前は悪くねえよ」
真さんはナイフを手に取ると立ち上がった。そして、病室の出口へと向かう。
「ちょっと、どこ行くつもりよ!」
逢莉ちゃんが呼び止める。
「決まってるだろ。“能面”と決着をつけに行く」
「決着って……?! 私や尭羅でも敵わなかった相手なのよ? 戦闘向きの能力じゃないアナタが太刀打ちで―――」
振動と音。
真さんが壁に拳を叩きつけたのだ。
「敵う、敵わないの問題じゃねえ。『大事な人を傷つけられた』それだけで戦う理由だろうが」
そう言い残すと真さんは病室から出ていった。真さんと入れ違いで白衣を着た男性が入ってきた。
逢莉ちゃんが小さく「ヤバッ……」と漏らした。
「あれ? 光輝じゃないか」
「え? 恒彦さんこの病院に勤めてたんですか?」
どこかで見たと思えば、父の後輩である。昔、よく父が家に招いていたので知り合ったのだ。
「どう? お父さん元気?」
回答に困った。家出をして数日……。体調が急変するようなことはないだろうけど、父の話をするのに抵抗があったからだ。
「ボチボチ……じゃないですかね」
「まあ、そんなもんだろうよ。いやー、懐かしいもんだ。小さい頃は『パパみたいなお医者さんになる!』って意気込んでたけどその夢は変わらないの?」
多分、僕が能力者だと自覚する前の話だ。当時は一切の不順もなく父を尊敬して、自分も大きくなったら父のようになろうと心に決めていた。
しかし今は……、今は自分の能力を役立てたいと思っている。父の意志に反してでも……!
でもどうしたら役立てる?
この数日で僕は何が変わった?
何を手に入れた?
僕に出来ることはなんだ?
「…………ごめんなさい恒彦さん。僕行かなきゃいけません」
渾身の力で蹴りだして、走り始めた。
何が出来るか考えるんじゃない。今出来る事をやるんだ。誰からの指図でもない。自分の意思で、自分が一番正しいと思うことをやらなければ、いつまでも4歳のあの日から変われない!
真さんの背中が見えたのは、彼がちょうど病院から出るところだった。
「真さんっ!!」
大声で呼び止める。
「僕にも手伝わせて下さい!」
真さんの瞳がジッとこちらを睨む。
「僕の鼻なら“黒刃の能力”を辿れるはずです! だからっ! お願いします!」
肩で息をする僕を、真さんはしばらく睨み続けた。
「ちょうど。“能面”の居場所を探ろうとしてたところだ。来い」
額の汗を拭い、真さんへと追いつく。夏の夜風が汗ばんだ体を涼める。
「本当に分かるんだろうな?」
「僕の能力、なめないでくださいよ」
そう言葉を交わすと、僕らは物静かな夜の闇に溶け込んでいった。
そろそろラストスパートです。 九月中には終わりそうですね。




