高校生能力者の歓迎会 前編
いつも通りの誤字脱字はお気になさらず。
6時41分
「まずは乾杯しようか、飲み物は何がいい?」
優子さんが立ち上がりながら言うと、台所へ向かった。
「炭酸水で」
「酒ハアルノカ」
「僕は何でもいいです」
全員が各々違った飲み物を注文する。
「おいロマーヌ、お前まだ未成年だろ」
真が机に片肘を付けてからかうように言った。
「ウルサイ、母国デハ飲ンデモイイ歳ダ」
ロマーヌもムッと眉を寄せて答える。
「ヒヤイズジャパーン、オーケー?」
真が英語というよりはむしろ日本語で煽るように言うと、当然のように右ストレートが真の顔面に入る。さっきよりも威力があったのか鼻血を出しながら倒れた。
「大丈夫ですか!?」
心配になり真へと駆け寄る。鼻血以外に目立った外傷はないがまだ起き上がってこない。
「イツモノコトダ、心配スルコトナイ」
いつも殴られてるのかよ、そっちの方が心配なのだが。
「でもロマーヌ、言い方はムカついたけど真の言う通りお酒はダメだよ」
台所から顔を出した優子さんがロマーヌを少し強めの声で制する。
「ソウダナ……、私モ炭酸デイイ」
ロマーヌもそれに応じるが、顔は少し寂しそうだ。やはりお酒が飲みたかったのだろう。少し可哀想なのでその後、帰ッテカラ飲ムカと呟いていたのは聞かなかった事にしておこう。
「じゃあ光輝くんも炭酸でいい?」
「あ、はい」
優子さんはお盆にグラスと炭酸飲料を乗せて持ってきた。
「はいどうぞ」
優子さんが机に炭酸飲料がなみなみと入ったグラスを置く。コップには泡が花火のように打ち上がっている。
「ほら真、乾杯するぞ」
倒れている真に優子さんは足で軽く押す。すると真は突然目を開け一瞬で起き上がった。
「嗚呼、姉御に足で触れていただけた。これだけで死ねる」
真の発言に嫌悪感というのか何だかそういう類の感情を抱く。その感情を抱いたのは僕だけでは無かったらしくロマーヌも
「本当二死ヌカ?」
と拳を胸の前で握る。
「ここで死んじゃうと乾杯が献杯になっちゃうんでやめときます。はい」
「オマエガ死ンデモ乾杯ダヨ」
「うるせえっ!」
「はいはい、乾杯するよ」
2人の言い合いも優子さんの鶴の一声で終わた。
優子さんはグラスを持ち立ち上がる。
「それじゃあ、私の探偵稼業とこのボロアパートに新しい仲間が加わったことを祝して…乾杯!」
「「「乾杯!」」」
そこにいた全員は互いのグラスを当て合う。
「さあ、食べよう」
「美味しそうですね、姉御。あ、これは姉御が美味しそうという訳ではなく姉御の料理が美味しそうという意味ですよ?でも姉御もきっと美味しいと思います」
そう言うと、真はかぶりつくように食べ始めた。犬食いとはまさにこのことだろう。箸がとまることが無い。
真の言う通り机には花畑のように色とりどりの料理が並べてあり、とても美味しそうだ。
「これ優子さんが全部1人で作ったんですか?」
「ん?全部1人で作ったんじゃなくて、全部デリバリーと冷凍食品だよ?私がやったのは温め直して盛り付け直しただけ」
衝撃の事実が明かされたその時、真の箸が止まった。
「これ……デリバリーと冷凍食品なんすか……いや、優子さんが電話したなら優子さんが作った料理だ!」
僕がおつかい前に嗅いだ匂いは冷凍食品だったのだろうか。
「作れるんことは作れるけど、クーポン沢山あったし、デリバリーにしたんだ」
「フム、ソレデモ上手イナ」
「よかった、お口に合って」
ロマーヌはキャラクターのイラストが付いた、いわゆる子供用のフォークを片手にムシャムシャと口を動かしている。子供用のフォークを使ってるのがまた可愛らしかった。
僕も箸をとり、適当に食べ始める。
「でさ、なんか光輝くんに質問とかないの?これから一緒に働く訳だしさ」
「あ、じゃあ」
真が手をあげる。まだ口に食べ物が残っていたらしく、飲み込んでから質問が始まった。
「単刀直入に言うぞ、どんな能力持ってるんだ?ここにいるってことは持ってるんだろ?」
何となく予想してた質問だ。同時に僕からもしたかった質問。
「光輝くんのは話すよりも見せた方が早いんじゃない?」
「そうですね、真さん腕を出して貰えますか?」
「腕?」
真は少し不安そうに腕を僕の方に伸ばした。
「失礼します」
「うわ、くすぐって」
真の手に鼻を近ずけ、鼻から音が出るほどの勢いで匂いを嗅ぎ、そして顔を上げる。
「真さん、一応、健康です。でも、猫?いや犬アレルギーがありますよね?」
「え?姉御犬アレルギーのこと、話したんですか?」
真が問いかけるも優子さんは首を横にふった。
「これが一応、僕の能力ってことになってます……。匂いを嗅げば大体のことがわかります」
なんだか自慢するみたいで照れくさい。
「マジかよ、匂いでわかるのか」
「それで、真さんの能力は……」
「俺?俺のも見せた方が早いかな」
そう言うと真は自分の唇を手の平で触れて、目を閉じる。触れ続けた時間が一秒、二秒と過ぎ、三十秒ほどの時間が過ぎた。
「うん、まあこんなもんかな」
真は立ち上がり、部屋の隅にまで行き、壁に触れて、目を閉じた。今回も三十秒ほどの時間が過ぎた。
「これでいいだろ」
そう言うと、真は元の場所へと戻らずそのまま部屋を出て、玄関も出てしまった。
「……真さんはなんで外に行ったんですか?」
「多分、分かり易いようにするためかな?」
分かり易く?一体何を分かり易くするのだろうか。と考えていたその時…
『あー、あー、聞えますか?』
いないはずの真の声が部屋に響く。
「これどういう事ですか!?」
「真自身が言うんじゃないかな?」
優子さんがニヤニヤと笑いながら答える。僕が混乱しているのを楽しんでいるようだ。
『多分、光輝はびっくり仰天して訳が分からなくなってるだろうな。この声はさっき俺が触った壁から出てるはずだよ』
言われてみると、壁から聞こえてるように感じる。
『複雑なんだけど、俺の能力はこんな感じに、触れた体の役割を移すことが出来るんだ』
……役割を移す?
「よく分からないんですけど……」
「まあ、そのうちわかると思うよ」
『もしかして今、俺のこと褒め称えてる?真凄い!とかカッコイイ!とか?ごめんねー、口しか移してないから全く聞こえないんだ。帰ったら言ってくれハッハッハ!』
部屋に響く真の高らかな笑い声。それに影響されてか、食事をしていたロマーヌが机にバンっと手を叩きつけた。
「他ニモアルダロ?」
明らかにイラついた様子のロマーヌは立ち上がり、真の声がする壁の前に立った。
「あー、真?急いで戻ってきた方がいいかもよ?あ、聞こえないか」
「コッチハ飯食ッテンノニ、オマエノ声ハ耳障リナンダヨ!!」
その瞬間、ロマーヌは壁に殴る蹴るの暴行を始めた。ゲームを取られた引きこもりでもここまでは暴れないだろう。
『え!?痛いたいたいたい!やめろ!ロマー…痛いって!ちょ、本当にやめて……Mに目覚めるから…………』
「なんで痛がってるんですか?」
「痛みは共有されるからね、唇が相当痛いんじゃない?」
なるほど、それは痛そうだ。つまりは、唇だけをピンポイントに殴られてるのと同じことだろう。
真の願いは叶うことなく未だ暴行は続く。優子さんも気にしない様子でのんきに食事を始めた。
「うん、私が作るよりも旨いや」
「あの、そろそろ止めさせた方がいいんじゃないですか?真さんも黙っちゃいましたし」
「それもそうだね、おーいロマーヌ」
優子さんの呼び掛けにロマーヌが振り返った。全身汗だくで、振り返った時に汗が飛んできそうだった。
「ドウシタ?私ハマダマダ殺レルゾ!」
やるに言葉通り殺意がこもっていそうだ。本当に真は死んでるんじゃないか?
「ロマーヌはいいけど、壁が壊れちゃいそうだからそろそろ止めておいたら?」
「ソウダナ、コノママ続ケタラ壊レソウダ」
真の心配ではなく壁の心配とは、的外れのような気もするがロマーヌも止まったので吉としておこう。
ロマーヌが元の位置に戻りグラスの残りを一気に飲み干し、ため息を1つ付くとまた食事を再開した。
「真さん戻ってきませんけど……」
「そうだね、光輝くん様子見てきてもらえる?玄関前にいると思うからさ」
「は、はい」
言われた通り僕は立ち上って玄関へと向い、扉を開けた。そこには唇が腫れきっり、倒れ、ピクピクと震え真っ白となった真がいた。僕は急いで真を抱える。
「真さん!大丈夫ですか!?」
僕の声が分かったのか真は薄く目を開ける。
「……光輝か……」
死にかけたキリンの様な声で真が呟く。
「酷い唇です!喋らない方がいいですよ!?」
「ま、まるで……」
「まるで……?」
「まるでスズメバチにファーストキスを奪われた続けた様な感覚で少し興奮したよ」
その瞬間、真は目を閉じ、死んだように動かなくなった。
……別に死んだわけでは無いのだが。
真の能力は訳分からないと思います。書いてる私自身、たまに混乱しますからね。そのうちキャラの能力を解説しようかと思ってます。
次回で光輝の話は一時終了になるかと思います。
感想などございましたら遠慮なく「つまらない!」「訳分からん!」なり何なりとお書きください。