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The end of full moon


 23時 35分


 深海のように静まり返った“散産堂”。扉がゆっくりと開かれ、不知火がボロ雑巾のように帰宅した。

 床に散乱したゴミを足で掻き分けて進むと、お気に入りの社長椅子にドサッと体を沈ませた。

 

 「やっぱり能力(あれ)使うのはキツイなー。もう歳かな……」

 

 独り言を呟きながら、天井を眺めていると、扉をノックする音が聞こえた。

 

 「どなたです? 幽霊にしては少し早すぎるのでは?」

 「私だ」

 

 帽子を目深に被った中年男性が扉の間から頭部を覗かせた。

 

 「なんだ。“先生”でしたか。夜中に来るとは破廉恥な目的でもお有りで?」

 「仕事の依頼に来た」

 

 不知火がからかい気味に言っても、男は感情の無い低い声で答えるだけだ。

 男は室内に入ると、ゴミを適当にどかしてソファに腰を下ろした。

 

 「お久しぶりですね。郷助ごうすけはお元気ですか?」

 「私が“今のように”なってからは会っていない。それより、この部屋酷く臭うぞ。お前掃除はしているのか?」

 「してたらゴミなど溜まりませんよ。それに、そこまで臭います? 私は気になりませんが」

 「…………息子の影響かもな」

 

 男は鼻で笑う。

 

 「それで? 能力者嫌いの先生がわざわざ私にする依頼というのが気になるのですが」

 「この子を探してほしい」

 

 そう言うと、男はクリップで纏められた紙束を取り出し、不知火に放り投げた。

 不知火は紙にとめられた1枚の顔写真に気づき、目を見開いた。そして、不敵な笑みを浮かべながら「……ほう」と呟いた。

 

 「写真の子とはどういった関係で?」 

 「息子だ。 何に影響されたか先日家出した。連れ戻してほしい」

 「……そうですか」

 

 不知火は紙束を机に置くと、我慢しきれなくなったように、声を出して笑いだした。

 しばらく笑い続け、男が、気でも違えたかと思い始めた頃にピタリと笑うのをやめる。

 

 「いやな偶然ですね……」

 

 不知火は首を横に曲げながら窓を見る。外では雨が降り始めたようで、ガラスには雨粒がつき、水滴が地面に弾ける音が聞こえる。

 

 「最近降っていませんでしたからね。この雨、続くと思いますか? ねえ? 一ノ瀬 光平さん…………」

 

 男は返事をせずに、ただ天井を見つめていた。

 

 

 

 23時 56分

 

 日付が変わろうという頃、bar radianでは翔也が文句を言いながらガラスの破片を拾い集めていた。


 「たくよお、あいつら暴れるだけ暴れたらすぐ帰って片付けはぜーんぶ俺だ。幼稚園児の方がまだ利口だよちくしょう」 

 

 愚痴を言いながらもコツコツ片付けをしていると、前蔵時が入口と医務室を忙しなく行ったり来たりしている事に気づいた。

 

 「おい、前蔵時。 走り回ってる暇があったら手伝ってくれよ」

 

 前蔵時が目の前を通った時に声をかけると、彼女は目を輝かせながら興奮気味に返事をする。

 

 「お前こそ掃除などしとる場合じゃない! 医務室に来てみろ」

 

 前蔵時自ら医務室に招くなど前代未聞のことで、翔也は驚きを超えて混乱してしまった。

 前蔵時の後を追って、促されるまま医務室に入る。大半の人間が医務室(ここ)には入れてもらえないため、室内にある家具や薬品の全てが新品に見えるほど清潔だった。

 室内を一瞥した後、ベッドで少女が横になっている事に気づいた。

 人形のような綺麗な顔立ちと金色の髪をしていたが、体からの出血と泥の汚れがついて、綿が飛び出して壊れた人形のように思えた。 

 当たり前のように眠っている少女を見て、翔也はしばらくポカーンと口を開けていたが、事の異常性に気づいて悲鳴をあげた。

 

 「どうしたんだよこの子!」

 「店の前に落ちてた」

 「んなわけあるか! ひどい出血じゃないか……。はやく治療してやれよ!」

 「いや、私が見つけた時にはもう治ってた」

 「は?」

 

 目の前で眠る少女はどう見ても血まみれでまる。翔也は前蔵時の発言に首を傾げた。

 

 「そりゃあ私なんだから、こんな好みの金髪っ娘が重症で倒れてたら真っ先に生きてるか確認するよ。そしたら脈は正常だし、なんなら傷口もほとんど塞がってたんだよ」  

 「…………つまり、この子は“再生能力”とかそれに近い能力者なのか!?」

 

 翔也は予想を述べたが、前蔵時は首を横に振った。

 

 「違う、能力者じゃない。この子のはもっと単純に“そういう体質”なんだよ」

 

 一向に話が読めない翔也をよそに、前蔵時は話を続けた。

 

 「……私が研究所に勤めてた頃に噂だけは聞いたことあったけど、まさか本当にいるとはね…………」

 「なんだよ。勿体ぶらずに言えよ」

 

 前蔵時は自身から湧き上がる未知への興奮と、目の前で眠る少女を愛撫したい衝動を深呼吸でグッと抑えて言った。

 

 「この子は、本来この世界に存在しないはずの生命体。研究所では、“異来種”と呼ばれていた」

 「宇宙人ってことか?」 

 「違う。この世界とは異なった、別の次元から来た生物ってことだよ。私も専門家じゃないからよく分からないけど」

 

 翔也は眉をひそめながら、金髪少女の顔をジーッと睨んだ。どう見ても普通の人間の女の子である。

 

 「お前の言うことが正しいとしたら、この子は人間じゃないってことだよな? こんな可愛い子だぜ?」

 「人間が動物の着ぐるみを着るようなものでしょ。 その子は人間の入れ物に押し込まれてるだけで、中身は別物なのよ。…………多分」

 「曖昧だな…………」

 

 翔也は前蔵時の適当さに頭を抱えてため息をついた。

  

 「その辺は今後の観察と研究でわかってくるでしょ」

 「え? まさか、この子を居座らせるつもりじゃないだろうな?」

 「こんな私好みの子なんだもん。そうするに決まってるじゃん。それともこのまま外に捨ててくる? それって非人道的にも程があるんじゃない?」


 猫でも可愛がるように金髪少女の髪を撫で回す前蔵時。彼女はペットをねだる無垢な少女のような瞳で翔也を見つめた。

 

 「ああ!もうわかったよ。 好きにしろ! でも店には迷惑かけんなよ」 

 「その辺は重々承知してるからお構いなく。良かったね! 金髪異来種ちゃん。これから楽しくなりそうだよ」

 

 前蔵時がうっとりと少女を見つめると、少女はうなされるように「うぅ……」と唸るのだった。

何だかんだ18日もこれで終わりです。


ロマが主人公の話にするつもりでしたが、最期しか出て来ないという微妙な活躍に終わりました。


引き際に色々と設定を盛り込まれましたけど、その辺の話はまた別の機会に書きたいですね

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