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BRAWL 2


 切りつけられた右腕を抑えながら、逢莉は苦痛を噛み締める。

 獲物を狙うような尭羅の冷酷な瞳に、逢莉の頬を1滴の冷汗が通った。

 

 『いきなり襲ってきた上に、決め台詞まで吐いたんだ。彼、相当やる気だ』

 『そんなこと分かってるわよ』

 『命令は僕が出す。君は一切のズレなく言われた通りに動くんだ』


 予想より速い尭羅の復活に“蛍”は「おおー」と歓声を上げた。

 

 「壁にめり込んでたのに、こんな速く復活してくるなんて君もなかなかのタフガイだな。前戦った時とは大違いじゃないか、筋トレとかした?」 

 

 挑発じみた“蛍”の発言にも尭羅は動じず、逢莉を睨み続けた。

 

 「蛍は後ろに下がってて!」

 「“蛍”ではないけどリングの外にいさせてもらうよ」


 炎を纏う少女と、空気を操る青年の戦いが静かに開戦した瞬間だった。

 

 

 

 16時13分

 

 割れたグラスを拾う翔也はバーカウンターから2人の戦闘を眺めていた。

 主張の激しいハイヒールの音が聞こえたと思えば、バーカウンターに白衣を羽織った女性が腰をおろした。

 

 「騒がしいと思ったら、何やってるのよアイツら」

 「ああ、前蔵時(ぜんぞうじ)か。医務室から出てくるなんて珍しい……。よく分からんが今の尭羅は“キレてる”ぞ」

 「へー……」


 白衣のポケットに手を突っ込みながら興味無さそうにタバコをふかしている前蔵時。 

 

 「あれ、 尭羅って“水”を状態変化させてるんでしょ? 片手に持ってるやつは何?」 

 「あれは“酸素”だな。アイツはやろうと思えば“あらゆる物質”を扱えるぜ。ただいつもはやらないだけさ」

 「なんでいつもはやらないのよ。“酸素”とか絶対強いじゃない」

 「さっき言ったろ? “キレてる”って。アイツは本気で怒ってる時しかつかわねーの」

  

 前蔵寺は「へー」と適当に相槌をうつと、何かに気づいたように腹を抱えて笑い出した。

 

 「じゃあ尭羅は、あんなガキンチョにガチギレしてる訳か? ハハッなにそれ傑作」

 「笑い事じゃないぞー。どっちかが倒れるまで続くだろうからな。俺としては店にこれ以上被害が出ないうちに終わってもらいたいよ」

 「えー、私アイツらの治療とかしたくないよー。金髪っ娘以外触れたくもなーい」

 

 そう言うと前蔵時は席を立ち、医務室へと歩き始めた。

 

 「あーあ、金髪っ娘が空から降ってこれば良いのに」

 「そんなラピュタみたいなことあるか!」

 

 我儘な医者にため息をつき、翔也はリングへと目を向けた。

 ちょうど、尭羅が少女に剣を振り下ろしたところだ。

 

 


 16時20分

 

 振り下ろされた剣をすんでのところで避けた逢莉。既に息は上がり逃げるのがやっと、という様子だ。

 

 『もう疲れてるのか……。これじゃあ攻めることも出来ない』

 『ずっと病院暮しだったんだから仕方ないでしょ……』

 

 「なあ、もう辞めにしないか」

 

 尭羅からの突然の提案に逢莉は肩を震わせた。

 

 「何言ってんのよ! 私が負けたらアンタ蛍を殺す気でしょ!」

 「少なくとも“能面”に復讐はさせてもらうな。でも、今のお前は逃げるのがやっとって感じで一向に攻めてくる気配もない。そっちの負けは時間の問題だろ?」

 『確かに今のままじゃ勝機は無いね。僕の言った通りに動けてない 』

 『鳳京はどっちの味方なのよ!』

 

 尭羅は剣をリングの床に刺すと、“氷”から“水”に状態変化させた。手のひらに出来たバスケットボール程の水の塊を弄んでいる。

 

 「どうせ従わないだらうと思ってたよ。だからこうさせてもらう。」

 

 尭羅は手の平の水を尭羅へと投げつけた。ちょうど水風船のように弾けたそれは、炎に包まれた少女の全身にかかった。

 

 「悪いな!」

 

 そう尭羅が叫んだと同時、逢莉の身体に巨大な氷が形成した。逃げる間もなく氷は少女の全身を覆った。

 氷の重さにバランスが取れず、逢莉は床に転倒し、全身を覆う氷が床にへばりついて起き上がることすらできなくなってしまった。

 

 「氷なんて炎であっという間に……!」

 

 逢莉は全身に力を込めたが、氷が溶ける気配はなく、むしろ強度を増しているようだった。

 

 「その氷は俺の命令じゃないと溶けないようになってる。どれだけ燃やそうが無意味なことだ」

 

 身動きの取れない逢莉を無視して、尭羅は“酸素”の剣を片手にリングを降りた。

 

 「逃げなくていいのか? 手加減は出来ないぞ」

 「逃げようにも女性の体じゃ上手く動かせないんだよね。でも、足を怪我してた君になら逃げ切れるかもね」

 

 “蛍”を睨む尭羅の顔が険しくなる。

 

 「そんな怖い顔しないでよ。ほら、誰か入店してきたよ」

 「言ってろ。どうせハッタリだ」

 「それはどうだろうね。たしか、昨日僕をボッコボコにしたヤツだね。こっちに歩いて来てるよ」

 

 その瞬間、尭羅の背筋を悪寒が走った。振り返った時には、全身を形容し難い程の激痛が襲った。

 意識は失わなかったものの、尭羅は膝をつきその場に倒れた。

 

 「これはどういう状況だ? 逢莉ちゃんは氷漬けだし、蛍さんは“能面”付けてるじゃないか」

 

 リングの上で腕を組む黒刃。状況の複雑さに困惑しているようだ。

 

 「やあ、君昨日僕をフルボッコにした子だろ?」

 

 “蛍”が黒刃に向かって手を振った。それを見て黒刃は目を丸くした。

 

 「なんで俺の“玄波”が蛍さんには効いてないんだよ……」

 「いや、僕は“蛍”ではなく君らが言うところの“能面”だよ」

 

 黒刃は首を傾げた。

 

 「よく分からないけど、アンタには鳳京の居場所を聞きたいんだよ」

 「それなら教えてやるからこっち迄来なよ。あまり大声で言えた事じゃないんだ」


 黒刃は「仕方ねーな」と呟きながら“蛍”の元までやって来た。誰にも見えない能面で隠れた“蛍”の顔がニヤリと笑う。

 

 「それで何なんだよ」

 「一つ君に忠告しておこう―――無警戒に敵の近くに来るのは自殺行為だ」

 

 その瞬間、“蛍”が“能面”を外し、彼女の口から小さな球体が飛び出した。

 その球体は黒刃の口に吸い込まれるようにして入る。

 

 「―――?!」

  

 黒刃は体内に侵入した異物を吐き出そうと何度も胸を叩き、嗚咽を繰り返したが、もう手遅れである。

 何十秒か悶えた後、黒刃の動きが突然止まった。

 ゆっくりと髪をかきあげてホッとため息を付いた。

 

 「やっぱり男の体がしっくりくるよなー。あ、そうそう君も馬鹿だよね。いくら能力に自身があったって普通は敵の近くには来ないよ。まあ、いい勉強になったんじゃない? 聞こえてないだろうけど」

 

 黒刃は、気絶した蛍に付いた“能面”を拾うと自身の顔に付け直した。

 

 「待てっ!!」


 なんとか意識を保った尭羅が“黒刃”に叫んだ。震える腕で剣を向ける。

 

 「まだ勝負は始まっちゃいねえぞ」

 「はあ、君も物好きだね。良いよ勝負してあげる。ちょうど“新しい能力”を試したかったんだ」

 

 “黒刃”の右手から出た“玄波”が尭羅の体を何度も襲った。尭羅は声も漏らすことなくその場に倒れた。

 

 「やっぱり強い能力は強者が持つべきだよ。弱者の器に“玄波”は大きすぎる」 

 

 そう言って彼は能面の裏で笑った。

 

 

最近2週間に1度更新になってしまっている……。


話も結構クライマックスですからテンポよく行きたいですね

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