自己時間停止少女と忠告
全身を包むような浮遊感は心地のよいものだ。微睡んでいると、手の先からだんだん暖かくなってくるのが分かり、今にも眠ってしまいそうな―――と思ったが、こんな感覚になるという事は既に夢の中にいるわけで、目を開けると案の定、いつもの草が生い茂った荒地に寝転んでいた。
「やあ、おはよう。こうして会うのも3度目くらいかな? いつもは僕が話しかけて始まるけど、バリエーションを増やすために、敢えて君が起きるまで待っていたよ」
横になっている私を見下ろしながら青年、もとい鳳京が私に声をかける。
「昨夜は凄かったね。まさか本当に僕を行使するなんて」
「私は目を閉じただけじゃない。結局なんで私は貴方の能力をつかえるのよ」
「そんなの僕に分かるわけないだろ。
よく分からないけど、君の身体に僕が居て。
よく分からないけど、君が能力を使えて。
よく分からないけど、“能面”がこの“よく分からない”を全部解決してくれるんだよ。…………よく分からないけど」
「何一つとして分かってないじゃない…………」
昨晩の出来事を順に思い出していく。たしか“能面”との戦いが始まって…………、
「そうよ! 組合の皆はどうなったの?! “能面”は?!」
「悪いけど、なんとも言えないね。たしか君が気絶したんだ。僕の記憶もそこで終わってる」
「でも、なんで気絶なんてしたんだっけ……」
私が首を捻って曖昧な記憶をたどっていると、鳳京が大げさに溜息を吐いた。
「黒刃だよ……。何故かあいつが来たんだ」
「そうそう、その“黒刃”って何者? 貴方相当キレてたわよね?」
鳳京は口に手を当ててしばらく黙った後、少々躊躇いながら硬い口を開いた。
「敢えて、曖昧な表現をさせてもらうと、アイツとは色々あった。みたいな感じかな。本来なら今も服役中のはずなんだが……。それに、アイツは能力者じゃなかったはず。いや、それよりも僕に会いに来たって事は不知火の所にも…………」
口を濁らす鳳京を見ると、語りたくない過去があるのは容易に想像できた。
「とりあえず、今のヤツはかなり危険だ。僕と関わりがあると知った以上、君にもちょっかいを掛けてくるはずだから注意しておくといい」
「注意しておくも何も、その人の顔も分かんないんだから注意のしようがないじゃない」
「…………それもそうだな」
鳳京はその場にしゃがむと、生い茂る草をむしり取って、はげた地面に誰かの顔を書き始めた。
「こんな感じの黒髪で、見た目はイイトコのぼっちゃんみたいな感じかな。悔しいけど割とイケメンだから惚れたりするなよ」
「誰が惚れるか! でも、万が一の時は、また目を閉じれば貴方が何とかしてくれるでしょ?」
「ああ、その事なんだが……」
間の悪いことに、いつものサイレンが鳴り響く。これが鳴ったということは私がもう起きてしまうという事だ。
鳳京は右腕の袖を捲ると「もうこんな時間か……」と呟く。
「その時になったら教えるよ。それじゃあ、またね」
その瞬間、シーツの感触を背中に感じ、私の意識は現実に引き戻されて言った。
最近忙しいので、短い話が続きそうです。
本当は黒刃の話まで書きたかったのですが、如何せん時間が足りんわけです。




