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状態統括者と境夏


 8時 14分

 窓から日差しの射す室内。“情報共有”と称した会議も終わり、俺は横一列に並べた椅子に寝転がって微睡んでいた。

 

 「あら? まだいらしたんですね」

 

 椅子では眠りにくいと寝返りをうった時に声をかけられた。見れば、車椅子に座った境夏が腕を組んでいる。

 

 「帰ってもやる事無いしな……。邪魔だったか?」

 「いえ、そういう訳ではありませんけど、足の方は大丈夫なのかなと思いまして……」

 

 特に痛みもないため、昨晩光輝に預けてからというもの、松葉杖を使わずに歩いている。

 

 「まあ、アンタの足よりはマシだよ」

 「そうですか。それは幸いですね」

 

 少々からかったつもりだったが、境夏は表情一つ変えない。

 

 「……」

 「……」

 

 特に話すことも無いのか、話はそこで詰まってしまった。

 境夏が再び口を開いたのは、俺が寝返りをうったときだ。

 

 「出来れば買い物に付き合ってもらいたいのです」

 「なんで俺が……」

 「見ての通り、私は1人で街に出るのも一苦労ですから、その手伝いをお願いしたいのです」

 「その位、あの“彼氏”に頼めばいいだろ」

 

 そう言うと、境夏はきょとんとした顔で首を傾げた。

 

 「“彼氏”とはどなたの事でしょう?」

 「まさか真とは既に夫婦の間柄なのか?」

 

 今の今まで、真を存在ごと忘れていたように境夏は「あー、なるほど……」と感嘆の声を漏らした。

 

 「別に真さんとは“そういう関係”ではありませんよ」

 「俺はてっきり“そういう関係”なのかと思っていたけどな」

 「確かに、現状で一番大切な方は真さんですよ? でも、私達の関係は“彼氏と彼女”みたいに綺麗で純粋なものではありませんよ」

 「綺麗で純粋ね……」

 

 “綺麗で純粋”。その言葉が妙に耳に残った。二人の言動は他者の目から見れば明らかに“カップル”のそれなのだが、境夏は否定したのだ。彼女の表情からは嘘だとは思えられない。それなら、彼らの関係は一体どういったものなのか。俺には想像することも出来なかった。

 

 「お出かけなら私が同行しますよ」

 

 扉をノックする音と共に現れたのはスーツ姿の女、蛍だった。

 

 「よろしいんですか? 逢莉ちゃんの近くにいなくて」

 「ええ、助けて頂いた上にベッドまで使わせて貰っていますから、お礼くらいさせてください」

 

 境夏は少し考えた後に、「それじゃあ……」と口を開いた。

 

 「荷物持ちをさせる訳ではありませんから。ただ、連れて行って頂きたい場所があるんです」

 

 

 

 8時52分

 

 「でも……、本当によかったんですか? 逢莉ちゃんを残して来てしまって」

 

 境夏の目的を済ませ、混雑した街道を進む二人。境夏の膝の上には少し膨らんだ風呂敷が載っていた。

 

 「大丈夫ですよ。万が一の為に矢黒さんが付いてますから」

 「初対面の人に女の子の看病を頼むのも如何なものかと……」

 「その点も大丈夫ですよ。矢黒さんは悪い事と無縁の真面目な方に見えますし、何よりも逢莉さんには鳳京様の能力がありますから」

 

 それは安心できる要素なのかと、境夏は首をかしげた。

 

 「情報共有の場でも言ってましたが、その鳳京さんの持ってた能力を何故逢莉ちゃんが使えるんですか?」

 「その点は私にも分かりません。でも、鳳京様と最後に接触した“能面”なら何かを知ってるはずなんです」

 

 ここでも“能面”か……と境夏は顎に手をやり、思考を巡らせる。

 

 「私が推測する限り、“能面”は“人を物に変換する”能力を持っていると思います」

 「まあ、そうでしょうね」

 

 蛍自信は“能面”の能力を見たことが無かったが、尭羅が言っていたように人を扇風機に変えたとすれば、彼女の推測もあながち間違いではないだろう。

 

 「それで、能力者を物に変換すれば、能力を宿した物質。つまり、能力物アノマリーアイテムになるんだと思うんです。ですから逢莉ちゃんは、何かの物質に変換された鳳京さんを所持しているから能力が使えるのだと考えたわけです」

 「…………確かに有り得ない話ではないですが、逢莉さんがずっと所持してる物なんてありませんよ? それに目を瞑らないと使えませんから」

 「……じゃあ違うのかもしれませんね。なんだか堂々と推理してたのが恥ずかしくなってきました」


 境夏は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、手を団扇のようにして顔を仰いだ。

 

 「そう言えば、その風呂敷の中には何が……?」 

 

 彼女の膝の上に載せられた風呂敷は先程、人通りの少ない路地でヒゲを生やした男に渡されたものだ。傍から見れば、危ないお薬の取引に見られてもおかしくない風景だったので、蛍は何を受け取ったのか聞くのを躊躇していたのだ。

 

 「ああ、これですか?」


 蛍の心配をよそに、境夏は貰ったばかりのプレゼントを開ける子供のように風呂敷を解き始めた。

 彼女達の前を金髪の女性が横切ったのは、境夏が風呂敷を解き終わったその時だった。

 

 「………………真さん?」


 こぼれ落ちるように出た境夏の声。一瞬時間が止まってしまったように、境夏の動きは停止した。

 しかし、すぐに気を取り戻した境夏は、

 

 「蛍さん、今すぐあの方を追ってください!」

 

 と声を張り上げた。

 

 蛍には境夏の発言の意図は分からなかったが、彼女の声量でことの重大さは理解出来た。

 彼女達が進むスピードを上げると、それに気づいたのか金髪の女性も走り始めた。

 

 「―――逃がしませんよ」

 

 境夏は風呂敷から“銀色に光る何か”を取り出し、前方を走る女性に投げつけた。

 その“何か”は女性に向かって直進すると、彼女のすぐ近くにあった電柱に音を立てて刺さった。

 

 「うおっ!」

 

 女性は低い声を出しながら尻餅をつく。

 

 「ナ、ナイフですか?!」

 

 蛍は、境夏が投げ、そして電柱に刺さった物質が“ナイフ”である事に気付き、困惑と驚愕から冷汗が頬を垂れた。

 

 「はい、私ナイフ投げが得意なんですよ」

 

 見せびらかすように、風呂敷を持ち上げると中には銀のナイフが何十本も入っていた。

 

 「それで真さんは何故女装をしているのですか?」

 

 尻餅をついた状態のまま息を荒げる女性に境夏は尋ねた。

 肩ほどまであるブロンドの髪に、水玉のワンピース。顔に施された化粧は雑なものだったが、蛍には彼女が真だとは信じられない。


 「いや、俺が真って事で話が進んでるけど……」

 「違うんですか?」 

 「そうだけどなんで分かったんだよ」

 「何年一緒にいると思ってるんですか? 真さんなら横切っただけで分かります。それより、バイト中のはずですよね? まさか、そのような格好であんな事やこんな事。更には、「やっぱり日本人はクレイジーだな……」と外人の方々に呆れられる行為までやってしまうイヤラシイお仕事だったんですか? それなら、私も頼みたいので改めて連絡先を交換しましょう」

 

 境夏はすかさずケイタイを取り出すと、真の姿を連写し始めた。

 

 「いや違う! 勘違いしている。確かにバイトなんだけど、そういうバイトじゃない。今回が特別なだけで……っていうかお前いつまで撮ってんだよ!」

 「確かに1秒たりとも逃さぬよう連写にしていましたが、これでは動きがイマイチ分かりませんね。録画にします」

 「そういう問題じゃねーよ!」

 

 2人の掛け合いを見ていた蛍の頬に先程とは別の冷汗が流れた。

 

 「あー! もうやってられっか!!」

 

 真はカツラを脱ぎ捨てて地面に叩きつけた。

 

 「馬鹿にしやがって! こんなもん最初から無理があるんだよ!」

 

 カツラを何度か踏みつけた後、真は大股でズカズカと歩き始めた。今の彼を見て女性だと勘違いする者はいないだろう。

 

 「かなり怒ってましたけど大丈夫ですかね?」

 「そうですね……」

 

 風に転がされて、境夏の足元まで来たカツラを彼女は拾い上げた。

 

 「面白そうですし、付いていって見ましょうか」

 

 いつの間にか彼女の手元に戻ってきたナイフをカツラごと風呂敷にしまいながら境夏がそう言った。

∩(´;ヮ;`)∩ンヒィィィィィ

そろそろ伏線回収というか、散りばめすぎた組長と能面の件とかを解決しないといけないんですね

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