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認識不能者と旧友

影山の能力は10話くらいで説明されてます


 22時42分


 「……そろそろ、向かうか」 

 

 スポーツバッグを肩にかけて玄関へと向かう。ふと振り返れば、何も残っていない殺風景な部屋。思い返すと3年もここで過ごしたのだ。

 

 今夜は風が吹いてるお陰か、すこし涼しく感じる。

 右手のひらを空へと掲げ、しばらく指の間から夜空を眺めた。そしてその手をアパートへと向け、そっと呟いた。

 

 「“解除”」

 

 目に見える変化は無い。しかし、今まで無くしていた物が戻ってきたような懐かしい感じがした。

 

 「なにをしてるのじゃ?」 

 

 皺枯れた声の方向に振り返ると、アパートの大家山辺 優枝だ。杖をつきながら近づいてくる。

 

 「こんばんは。ちょうどいい所でお会いできて嬉しいです。実はこのアパートを出ることにしました」

 「ほう……、それは急じゃな」 

 「はい。それでこのアパートに掛けた能力を解除したところです」

 

 優枝は「ああ……」と今までその事を忘れていたようにわざとらしく自身の顎を撫でた。

 

 「そう言えば、そんなのもあったの。確か能力の70%を使って、アパートの存在を認知出来ないようにしてたんじゃったな。…………そうじゃ、そのせいで優子の依頼人はワシの家に来るんじゃった」

 

 はっはっはと高笑いを上げる優枝。ボケ始めているのか、それとも元からこんな性格なのか。この老婆と話していると、全てが見透かされてる気がした。

 

 「そう言えば、家賃の先払い分は返した方がよいか?」

 「別に構いませんよ。……お金ならありますから」

 「そうかそうか。それなら優子の滞納した家賃にあてよう」


 少々無駄話がすぎたようだ。そろそろ向かわなければいけない。

 

 「それじゃあ、今までありがとうございました」 

 

 軽く一礼をして、アパートを後にする。

 

 「お主。これから何処に向かうのじゃ」

 

 敷地から出るところで、老婆が尋ねる。

 

 「……旧友に別れを告げにいくんです」

 

 

 

 23時22分

 

 五階建てのマンションでも、電気が灯っていなければ大きな墓標に見える。

 俺は篤金が居るであろう場所。“ガンマンション”に来ていた。

 

 マスターキーを使ってロックを解除すると、ガラス張りの扉が横にスライドした。

 向かうのは201号室。階段を登り2階に辿り着くと1号室の扉が開きっぱなしになっている。

 

 「よお。来るって信じてたよ」


 篤金は玄関に腰を下ろして空を見上げていた。

 

 「不思議だよな。ガキの頃はなんの面白みもなかったけど、今ならいつまでも見てられる。これは俺が大人になったからか? それとも今夜は満月だからか?」 

 「今日は満月じゃないよ。満月は明日だ」

 「お前のそういう細かいところ嫌いじゃないぜ。あの時もお前の忠告を聞いてればよかったけどな……」

 

 篤金は立ち上がると、部屋の中へと進んでいった。俺も後ろに続く。

 

 「懐かしくないか? この部屋、いやこのマンションでたむろしてよ。今でも埃は被ってるけど根本的にはかわってない」

 「そうだな。ところで、よく入れたな。鍵がないとフロントの扉は開かないはずだぞ」

 「お前が予備の鍵を409号室のポストに入れてるのも変わらないってことだよ」

 

 鍵の場所もお見通しらしい。リビングにつくと、篤金は椅子に腰をかける。

 

 「でもよ。俺はてっきり、このマンションを人に貸して、お前もここで暮らしてると思ってたぜ。維持費だってタダじゃないしな」

 「…………金ならいくらでもあったじゃないか。盗んだやつがさ」

 「…………それもそうだな」

 

 数年前のことだ。俺と篤金が大学生だった頃にこのマンションを購入した。金は簡単に稼ぐ……、いや盗むことは出来た。俺の能力をつかって互いの存在感を極限まで薄めれば何をやってもバレはしないのだ。窃盗も万引きも強盗も全部やった。今となっては消し去りたい過去だが、当時は楽しくて仕方なかった。あの日までは…………。

 

 「なあ、やっぱり“あの事”恨んでるのか?」

 

 恐る恐る尋ねると、彼の細い目がじっとこちらを見つめた。身体中に緊張がはしる。しかし、篤金はプッと吹き出し笑い始めた。

 

 「恨んでるわけないだろ? 俺は昔みたいに戻りたいだけなんだよ。だからお前に会いに来たんだ」

 

 何も言葉が出なかった。俺のせいで逮捕されたと言っても過言ではないというのに、彼はそれを許すというのだ。彼のような聖人がいるだろうか。

 彼に対して畏敬の念を抱くと同時に、心が剃りつぶされる程痛くなった。

 

 「そして、お前もここに来てくれた。俺達が組めば怖いものなしだぜ? また学生の時みたいに楽しもう」

 「………………そうだな」


 たったの四文字言葉にしただけで、こんなに罪悪感があったのは初めてだった。 

 

 「今後の予定なんだが、とりあえず街を出ようと思ってる。お前がついてるとは言っても不安だからな」

 「…………なら早く行こう」

 

 椅子に座る彼に手を差し出した。

 

 「おう! 頼りにしてるぜ」


 篤金は俺の手を取って立ち上がる。…………ごめんな。

 

 

 

 23時 42分

 

 「それじゃあ行こうぜ」


 1階に来た俺達は歩調を合わせてフロントに向かった。

 

 「…………篤金。靴紐解けかけてるぞ」 

 「お、悪いな」

 

 彼は片膝をついて、紐を結び直し始めた。俺はあえて、彼を見ないようにしながら先に進んだ。自動ドアが機械的に開き、そして、閉まった。

 篤金はキッチリと紐を結び直し、フロントに立つ俺の元に掛けてこようとした。

 しかし、開かない自動ドア。篤金は顔をガラスにドンッとぶつけた。 


 「ん? どうなってんだ? 電源切れたのか?」

 

 ゆっくりと深呼吸をして心を落ち着けた。そして、彼をの方を観る。

 

 「悪い。お前と一緒には行けない」

 

 呆気に取られている彼をよそに、謝罪にも似た告白を始める。

 

 「“あの時”と同じだよ。自動ドアが反応しなくなる程の能力をお前に使った」

 「訳分かんねえよ……」

 「能力がお前をここに閉じ込め、お前は俺の能力を自身の内に閉じ込めるんだ」

 

 篤金に能力を使うことで、彼の存在を極限までに0にする。篤金に能力がかかっている限り、俺は能力をまともに使うことができない。


 「お前に能力の90%を使った。もう俺以外の人間は完全にお前を認知出来ない。ほぼ幽霊と同じだ」 

 「こんなことしてなんになるんだよ! 俺が“あの事”を恨んでるってまだ疑ってんのか?!」

 「いや、俺は篤金を信じてるよ。でも、俺達は罰を受けるべきなんだ。能力が篤金を閉じ込め、篤金が元凶である俺の能力を閉じ込める」

 「そんな事どうだっていいだろ?! 俺はただお前と一緒にいたいんだよ。昔みたいに騒ぎたいんだよ!」

 

 篤金はガラスを叩き続けるが、現状を打開出来るはずもない。

 目の奥が熱くなっていくのを感じる。……もう限界かもしれない。

 

 「じゃあな篤金。 死んだら会おうぜ」 

 「うるせえ!俺は決めたぞ。俺に掛かった能力を返上して何もかも元に戻してやる。絶対だからな!」


 フロントから出れば、篤金の怒鳴り声もガラスを叩く音も聞こえなくなった。

 スポーツバッグを肩にかけ直す。……あの能力は俺が持っていてはいけないんだ。

 

 空に浮かぶ月を見上げた。

 

 「そうだな……篤金。ずっと見ていられる」 

前回で17日も終わった感じもしますが、今回の影山で終わりになります。


元々篤金は悪いヤツっぽく書こうとしてたんですが、結果として友達思いの中途半端にイイヤツが出来てしまいました。そのせいで影山がとことんクズみたいになってますね。まあ、本来クズなんでいいんですけどね。


次回からの18日は序盤からずっと書きたかった話なので、自分のイメージをうまく文章にできるよう頑張ります

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