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衝撃復元者と能面


 19時58分

 「たしかここが本部だったと思うが……、誰もいないな」

 

 組合の本部までやって来た黒刃だったがあまりに人の気配が無く、ガッカリしていた。

 

 「予定狂うな〜。見つけたヤツから順番に痛めつけて、最後に残った鳳京をなぶり殺すつもりだったんだけど」

 

 エントランスに響くように大声を出したが、その声に反応する者すら現れない。あまりに静かでがらんどうとしている。

 人が見つからなくても、何かしらの情報は得られるだろうと、黒刃は組長本部の中を縦横無尽に歩き始めた。

 

 「鳳京さーん♪どっこいるのー♪」

 

 自作の曲を口ずさむながら廊下を進んでいるとお目当ての“物”はすぐに見つかった。

 顔を俯かせて通路の壁にグッタリともたれかかっている男が1人。黒刃はわざと足音をたてて近づいたが、まるで反応がない。

 

 「もしもーし。起きてる?」

 

 黒刃は男の前にしゃがみこんで、彼の頬を軽く叩いた。すると、男の頭が肩を転がって地面に落ちる。

 

 「…………どうやら先客がいるらしいな」

 

 膝に手を当てて立ち上がり、接続不良品の頭パーツを蹴りあげる。予想より重い感触が足にきた。

 

 

 轟音とともに地面が揺れたのはその時だ。地震のような自然的な物ではない人工的な振動がした。

 

 「どうやら2階に何かあるみたいだね」

 

 

 

 黒刃が2階に来るとある一室から炎が溢れて出し、廊下にまで燃え移っていた。ビル全体に火が回るのは時間の問題かもしれない。

 

 「あの炎……。間違いないね」

 

 黒刃がその部屋に近づくにつれ、彼の肌は熱気でジワジワと焦がされていった。 

 

 「鳳京!!」 

 

 部屋に突入した瞬間に“玄波”を飛ばした。

 “玄波”の影響で、室内にいた人間は床に崩れるようにして倒れ、建物そのものは復元された衝撃のせいか悲鳴をあげるように揺れた。

 

 炎に覆われた部屋の中に復讐の対象はいないことに気づいた。代わりにいたのは、先程まで交戦していたと思われる覆面をつけた人物と少女。

 

 「どういう事だよ……」

 

 理解が追いつかない。部屋中を埋め尽くしている炎は明らかに鳳京の能力で創造されたはずだ。しかし、その炎を纏っているの人物は明らかに鳳京ではない。


 炎弾が黒刃の頬を掠る。少女を見ると、うつ伏せの状態で顔だけ黒刃を向き、何故か目を閉じている。

 

 「誰? “能面”の味方?」

 「君こそ誰だよ。 何で鳳京の能力を使ってる」

 「私だってよく分からない。でも、鳳京がアナタは危険だって言ってる。私が抑えてないと今にも殺そうとするでしょうね」

 「余計分からなくなった……。どうやって鳳京と会話してるんだよ。訳分かんねぇ……」

 「私だって分かんないって言ってるでしょ……。それを知ってるのがあの“能面”なのよ」

 「“能面”? 覆面つけてるやつならいるけど」

 

 “覆面”もとい“能面”のいた場所を見る。

 

 「おいおい……。バケモノかよ」

 

 “玄波”に触れた対象は、過去に受けた衝撃がすべて同時に復元される。つまり、転んだ時の衝撃も、打撲や骨折。頭痛、腹痛も含めてあらゆる衝撃が同時に身体を襲うのだ。大体の人間は気を失う。この少女の意識があり、会話できることすら驚くべき事なのだ。

 しかし、“能面”は何事もないように起き上がり、準備体操とでも言いたげに手首足首を回している。根性だとか気合でなんとか出来ることではない。

 

 「お前“玄波”が効かないのか?!」

 

 “能面”は返事の代わりに“持ち運び用扇風機”を構えた。

 

 「まあいい。鳳京の事を含め尋問するまでだ」

 

 黒刃の右手に“玄波”が集まり始める。

 

 「鳳京の能力が使える君。今から“玄波”を連発するから尋常じゃないくらい痛いと思うけど我慢してほしい」

 「嫌って言ってもやるんでしょ」

 

 少女に断りを入れると、黒刃は宣言通りに“玄波”を連続で飛ばした。床や天井に当たる度に建物全体が揺れた。当の“能面”も片膝をついたが、未だに意識はあるようですぐに立ち上がろとしている。

 

 「やっぱりバケモノだな……」

 

 黒刃はダメ押しとばかりに“能面”との距離を縮めていった。

 “能面”が“扇風機”のトリガーを引いたのはその時だ。天井に向けて放たれた風の塊は、“玄波”の影響で弱っていた天井を破壊し、コンクリートの塊が隕石のように部屋中に降りはじめた。

 むろんコンクリートの塊は黒刃の前にも落ち、“能面”への行く手を阻んだ。

 

 「“能面”より先に建物が音を上げたか……」

 

 今も建物全体に燃え移ろうとしている炎。そして、今まさに崩壊を始めた天井。ビル自体が倒壊するのは時間の問題だろう。 誰が見ても安全とは言い難い。

 

 「流石にこれはキツイね」

 

 ビルごと犬死してはいけないと、黒刃は天井の崩壊がこれ以上悪化する前に部屋から脱出することにした。

 出入口を跨ごうとしたタイミングで、倒れた少女が目に入った。流石に気を失ったらしくとても静かだ。

 

 「君も一酸化炭素中毒で死ぬ前に逃げた方がいいよ」


 もちろん返事などあるはずが無い。しかし黒刃は言い訳でもするように語り始めた。

 

 「人道的に君を助けるべきかと思う。鳳京について何かしらの情報は持っていそうだしね。でも、本当に君が鳳京の能力を持ってるならこの位で死ぬとも思えない。それを確認する為に敢えてほっとくよ」 

 

 ビルから出ると、予想より火の手がまわっていたことに気づいた。2階より上の階はほとんど炎に包まれている。

 何も知らない人々にはただの火事に思えるのだろう、小さな野次馬が出来ていた。黒刃はその中に目立たぬよう潜り込み事の次第を見ていくことにした。

 

 黒刃が野次馬の一員になるのと同時に1人の青年がビルへと飛び込んだ。慈善活動のつもりだろうか。ああいった奴がいるから被害者が増えるのだと黒刃は思った。

今更ですが“玄刃”を“黒刃”で表記していました。

しかし、“黒刃”の方が使用回数も多いため、これからも“黒刃”の表記でいきたいと思います。


別人だと思っていた方には申し訳ないです。他にも逢莉や逢莉の名前も違う時があるかもしれません。見つけても気にせず同一人物と考えてください。

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