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自己時間停止少女と能面

今回の話を読む前に1通り“自己時間停止少女”の話を読んでおくといいかもしれません。


 19時32分

 

 異変に気づいたのは組合本部に到着してすぐの事だ。

 

 「おかしいですね……。この時間なら役員がいてもおかしくないのに、誰1人としていません」

 

 蛍の言う通りだ。通路ですれ違うことはなかったし、一階のエントランスまで来たが誰もいない。全ての役員が何人いるのかは分からないが、人の気配すらしないというのは妙だ。

 

 「みんなで食事でもいったんじゃない?ほら、先の電話も“行くよ”って伝える目的でかけたんじゃない?」

 「有り得ない話ではありませんが、駐車場に車が残ってましたよ?」

 「歩いて行ける距離だったとか?」 

 

 互いに憶測を投げあっていたが、明確な答えに辿り着けるわけもなくそのまま2人で考え込んでしまった。

 

 物が崩れ落ちるような音を聞いたのはその時だ。雪崩のようなその音は会議室の方から聞こえた。見ると会議室の扉が半分だけ開いている。

 

 「どうやら誰かはいるみたいよ」 

 「そうですね。行けば分かるというやつでしょう……」

 

 蛍は2階の会議室に行くために、階段へと駆け足で向かう。彼女にとって今の現状が不可解過ぎたのか、私の事など眼中にはないようだ。

 しかし、いざ階段を上り始めようというところで蛍は足を止めた。“足を止めた”というよりは、“立ち尽くすしかない”と言うべきだろうか。蛍は口を小さか開いたまま、額には汗が浮かんでいる。

 

 「どうしたの? 階段になにかあったの?」

 「い、いえ……なんでもありません……。それよりあっち側の階段を使いましょう……」

 

 蛍は私の肩を握り、無理やり方向転換させる。彼女が“何か”を隠そうとしているのは明白だった。

 

 「やめてよ!」

 

 蛍を振り払って、彼女の隠そうとしたその“何か”を目撃するために階段へと走った。

 

 「な、何よこれ…………」

 

 蛍が隠そうとしていた“何か”を生で見るのは初めてのことでその場に固まってしまった。

 その“何か”の原型は日頃から見ているはずなのに、今の状態を……、その無残な状態を目の当たりにして青ざめたのが初めてのことで……。

 その噎せ返るようなドス黒い悪臭を嗅いで体が震えだしたのも初めてのことで……。

 床と壁に飛び散った肉片とそこから垂れる赤い液体を視界に入れて息が荒くなったのすら初めてのことで……。

 

 「逢莉さん! 気を確かに持ってください!!」

 

 今にも発狂してしまいそうな私を、蛍が後ろから抱きしめた。


 「ね、ね、ねえ 蛍?これってさ……映画とかで……とかで使う小道具なんだよね? ほら血糊?っていうの……かな? 」 

 

 蛍は何も言わなかった。しかし、一段に強くなった抱きしめる力が何よりも雄弁な回答だ。

 

 「本来ならエントランスに来た時点で気づくべきでした。今思えば臭いだって充満しているのに…………」

 「じゃ、じゃあさ? 組合の皆がこうなっちゃったの? 羽田慈とか高宮とかは??」

 「おそらくですが、先程の電話は私達に危険を知らせるものだったのでしょう」

 

 悲しいからなのか、怖いからなのか定かではないが涙が頬をつたった。気道が細くなるのを感じた。

 

 「逢莉さん。ここはいったん撤退しましょう。さっきの音からして犯人はまだこの場にいます。見つかる前に身を隠して体勢を立て直すべきです」

 

 体中から熱を感じた。火照るような、蒸発するような激しいものだ。

 

 「そんなこと出来ないよ……。誰だか分からないけど皆にこんな酷いことしたヤツが目と鼻の先にいるんだよ?“会いに行かない”なんて選択肢存在しない」

 「何いっちょまえに責任感じてるんですか!? 本当の組長でもない貴女が挑んでどうにか出来る相手じゃないんですよ!」

 「何言ってるの? 私を組長に選んで、わざわざ病院まで迎えに来たのはあなたでしょ?」

 

 蛍の返事はなかったが、代わりに抱きしめる力が少しだけ弱くなった。

 

 「私が会議室にいる間、蛍は生きてる人がいないか探してきて」

 

 蛍の腕の中から抜け出して、階段を上り始めた。2階に着いたところで蛍から声をかけられた。

 

 「逢莉さん、ご武運を……」

 「大丈夫よ。私には“組長の能力”があるって貴方が言ってたんだから」

 

 強い意志のこもった瞳で互いを見つめ合うと、蛍は生存者を探しに掛けて言った。

 

 私は小さく深呼吸をする。

 

 「さて、やるしかないのよね」

 

 丁度昨日も会議室に向かっていたのを思い出す。会って1日の奴らに情を覚えるなんておかしな話だ。きっとアイツの影響もあるんだろう。

 

 会議室の中は階段で見た光景に酷似していたが、一切の恐怖心を抱くこともなかった。しかし、驚いたのは会議室の中心に作られた骸の王座。その上に腰掛けた人物の顔に付けられた“能面”。

 

 「貴方が“能面”って言われる存在ね?」

 

 私の存在に気づいたのか、代わり映えのないお面がゆっくりとこちらを向いた。

 

 「貴方には色々と聞きたいことがあったのよ。 組長の行方とか、私が組長の能力を使えることとか。きっと貴方なら知ってるんでしょ?」

 

 能面は何も言わずに、右手に持った“持ち運び用扇風機”をこちらに構えた。

 

 「詳しい事は後で聞くとして………………今は貴方を倒させてもらうわ」

 

 能面がトリガーを引くのと、私が目を瞑ったのは同時だった。

 

 来るであろう痛みは一切ない。その代わりに、全身を包み込むような温かさを感じている。

 

 『やっぱりだ。君が目を瞑ってる間なら僕の意識も復活するらしい。全く、お嬢さんも無茶するよね。これで “僕”の能力が行使されなかったらどうするつもりだったの?』

 

 頭の中に響く声は、夢の中に現れる青年のものだ。

 

 「どうするつもりもないわ鳳京。貴方が現れるのは知ってたから」

 『自己紹介もしてないのに名前で呼ばれるのは変な気持ちだ。しかも呼び捨てなのが気に入らない』

 「じゃあ、なんて呼べばいいの?」

 『そうだね。敬意を持って“鳳京さん、様”“組長”って呼ばれるのも悪くないね』

 「残念だけど“組長”とは呼べないわ。だって今は私が組長なんだから!」

 『生意気言うね。まあ、君の体に住まわせてもらってる身だ。好きに呼ぶといい。それより今は能面だよ。組合に喧嘩を売っただけじゃ飽き足らずここまで深刻な危害を加えたとなれば、奴が殺した分だけ、奴を殺さないと気が済まない』


 彼の口調は冷静だが、明確な怒りがこもっていた。しかし、私が目を瞑っていないと鳳京の能力は使えないわけで、如何せん今の状況が分からない。さらに、私は突っ立ってるだけなのだがそれで良いのだろうか? その事を鳳京に伝えると、彼は丁寧に現状報告をしてくれた。

 

 『君は目を瞑って立ってるだけで十分だよ。能力なら僕が操作してるから。現状……というとだね……。君は全身を炎に包まれてる。まあ、バリアとでも考えてくれ。能面にいたってはさっきから炎で攻撃してるんだが……なかなか致命傷にはなってない。どうやら複数の能力物アノマリーアイテムを所有してるみたいでね。動きがトリッキーだ。……えーっと残念なことに、僕の炎が室内に燃え移り始めた。もしかしたら建物ごと崩壊するかもしれない』

 「はあ!?」

 『大丈夫だよ。その前にケリをつける。あと、どうでもいいけど能面の“能面”が取れたよ』

 

 一瞬混乱したが奴の顔に付けている“能面”が取れたということだろう。

 

 「全然どうでもいいことじゃないわよ! 素顔が分かれば正体も分かるかもしれないのよ!?」

 『いや、無理だと思うな。だってまだ“覆面”も被ってるもの。笑っちゃうよね。しかも強盗が付けるような真っ黒の奴だから尚、阿呆みたいだ』

 

 “能面”の後ろに“覆面”を被るとかどんだけ用心深いんだよ……。自分の目で確認したかったが、一瞬でも目を開いてしまえば鳳京の能力は使えなくなってしまう。ここは鳳京が“能面”もとい“覆面”を倒すのを待った方が賢いだろう。

 

 

“能力物”が久しぶりに登場したので説明しておくと、名前通り“能力が宿っている物体”みたいな感じです。



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