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19時04分 前編(散産堂)

今回は二話同時投稿になります。

題名が他と違って、とある時刻になっています。




 18時 58分

 

 とある雑居ビルの一角にある“散産堂”。その中は無数のゴミ袋が散乱し、ロングコートを着た女が社長椅子にもたれ掛かりながら静かに睡眠をとっていた。

 

 老朽化した金具が音をたてながら扉は開き、目にかかるほどの黒髪を生やした青年が足音をたてながら入ってきた。

 

 「最近はノックしないのが流行りなの?」

 

 人の気配を感じた女は来訪者の方を見て肘掛に肘をついた。

 

 「さあ? どうだろう。数時間前まで刑務所にいたものだから流行りには疎くてね。アンタのおかげだよ」

 

 そこで来訪者の正体に気づいたのか、女は目を見開き「黒刃くろば……」と青年の名を呟いた。少し声が震えているのは驚きからだろう。

 

 「久しぶりだね。学生時代の女子の名前は全員忘れたけどアンタの名前だけは片時も忘れなかったよ」

 

 女は余裕を取り戻すように、「へえー、さては初恋なのかな?」と黒刃をからかう。

  

 「それよりもよく出所できたね。お袋さんにはもう連絡した? 天国にもインターネットが有るならメールが届くかもよ?」

 「アンタのそうやって余裕ぶって人を馬鹿にするところ大っ嫌いだよ」

 「そこは、『僕のママは地獄にいるから天国に送っても意味無いんだ』とか返してくれると嬉しいんだけどな」

 

 両者は睨み合い、沈黙の時間がしばらく流れた。今にも争いが勃発してしまいそうな空気の中、女は大きく口を開けて欠伸をした。

 

 「それで、まさか依頼に来たわけじゃないでしょ? 要件は何よ」

 「犯罪者が自分を逮捕した奴に会ったらやる事は“復讐”くらいしか無くないかな?」

 「更生してるなら1杯くらい奢ってくれるんじゃない?」

 

 そう言いながら女は左手に隠し持っていた拳銃を黒刃に向けた。

 

 「残念だけどこれで終わり。さっさと刑務所に戻るのね」

 「そうやって拳銃向ければ俺が怖がると錯覚してる所とかホント嫌いだよ」

 「無能力者のアンタに何が出来るわけ? 妙な行動しないで大人しく両手上げなさい。あと、それ以上近づいたらどうなるか分かってるよね」

 

 「はいはい……」っと黒刃は言われた通りに両手を挙げた。しかし、彼の顔にはどこか余裕があり、口元は明らかに緩んでいた。

 

 「言われた通りに手を挙げたよ。これでいいんだろ? 安心だろ? でも、もう“妙な事”はやり終えてる」

 「何を馬鹿いっ――――――」

 

 室内に甲高い叫び声が響き、女は腹部を押さえて椅子から転げ落ちる。その表情は歪み、顔は一瞬のうちに汗が吹き出し、意識を保つのすら困難な様子だ。

 

 「驚いたか?驚いたよな? 俺も能力者になったんだよ。しかも、復讐にピッタリな能力だ」

 

 黒刃が得意げな口調で話すも、女の返事はない。意識は何とか保っていたが、黒刃を睨むのだけで精一杯だ。

 

 「なあ! 不知火しらぬい!! お前に復讐するのをどれだけ待ったか分かるか!? 」


 黒刃が1歩不知火に近づこうとした瞬間、銃声が室内に鳴り渡った。

 黒刃を狙ったはずの弾丸は目標に掠るどころか、床に散乱しているゴミに当たる。

 

 「銃もまともに扱えないようじゃ、あの“穴”も発生させれないよな」

 

 薄ら笑いを浮かべながら確認するように黒刃が尋ねるが、呻き声が聞こえるのみで変わらず返事はない。「聞くだけ無駄か……」と呟き、大きくため息をついた。

 

 「こうなったら面白くないな………」

 と黒刃が頭をかき、彼は不知火の様子から何かを見取った。

 

 「アンタ、さっきから腹部―――いや、下腹部を押さえてるな。俺の能力を使った時も“下腹部そこ”にだけ他と比べものにならない程の衝撃を感じ取れた…………」

 

 黒刃は自分の推理を整理するためか、それとも悟るまでの過程を不知火に見せつけるためかゆっくりと語り始めた。そして“核心”に触れた瞬間、まるで勝負が決したように高らかに笑い始めた。

 

 「そうか。 俺は全て分かったよ」

 

 黒刃は笑う。勝利宣言にも似た笑い。

 

 「どういう感じなんだ? やっぱり鼻からスイカ出すのに似てるのか? 男には一生分からない感覚だから是非聞きたいものだ」

 「黙れ!!」

 

 絞り出したような枯れた声を不知火は出し、再度引き金を引くが黒刃に当たることは無い。

 

 「なあ、男か? 女か? まあどっちでも構わないさ。不知火よく聞けよ。 俺はお前を“今”殺さないことにした。どういう意味かは分かるよな」

 

 黒刃を睨みつける不知火の瞳がその問に、「やめろ」と告げている。

 黒刃はその場でしゃがみ込み、不知火に目線を合わせる。

 

 「アンタを殺す前にその餓鬼からる事にした。あわよくばお前の目の前でな」

 

 不知火の口の淵に泡がたまり、乱れた髪の一部が口の中に入り込んでいた。しかし、彼女は気に止めることなく力強く噛み締めて、唯一のできる対抗として黒刃を睨みつける。

 

 「まずは餓鬼の居場所を探すところからだが、鳳京辺りなら知ってるだろ。 丁度、次殺すのは鳳京アイツの予定だったからな。断末魔までにどうにか吐いてくれるとうれしいんだが……」

 

 立ち上がった黒刃はドアノブに手をかけた。

 

 「それじゃあ、次はセットで会えることを望むよ」

 

 黒刃の立ち去った“散産堂”に不知火1人だけが残される。

 

 「やっぱり、散々《さんざん》ね…………」


 不知火は呟く。鮮やかな髪が乱れ、弧を描いていた。

次の話とセットになります



今回の話は今までの中でも特別な感じがしますね。一話から出ていたコート女の名前が分かったり、最強みたいなオーラ出しといてフルボッコにされたり色々ありました。

ずっと書きたかった話の一つです。あと複数個残っていますが大体不知火関連ですね。そういう意味では彼女がこの物語の主人公なのかもしれません。




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