高校生能力者の特訓
16時24分
「なかなか起きないな」
「割と深くやられてたからな。そのうち気がつくだろ」
尭羅さんと翔也さんの声が聞こえ、薄く目を開けた。 歓声が聞こえないからリングから離れた場所だろう。少し暗がりな場所で横になっていた。
「起きたみたいだな」
横になっている体を起こそうとすると腹部に激痛を感じる。多分テレポーターとの戦いでのダメージがのこっているのだ。
「ここは……どこですか?」
ベッドの上で寝かされてるのかと思ったが、パイプ椅子を並べただけの簡易的な物に置かれていただけらしい。寝ている間に凝ってしまったのか、負傷していないはずの背中まで痛い気がする。
「すまないな。 医務室に運ぼうとしてたんだが、うちの医者はどうも差別的でな女以外は入れてもらえないんだ。だから包帯だけ貰って俺らで巻いた」
言われてみれば巻かれている包帯がやけに雑だと気づいた。 これでは包帯本来の役割を果たしているのかも怪しい。
「僕、どうなったんですか?」
「案の定ボロ負けしたぞ」
「案の定何ですね……」
尭羅さんにそう即答される。惨敗したのは分かっていたが言葉にされるとなんだか落ち込むものだ。
「でも、最初にしては悪いものじゃなかなったぜ。 お前喧嘩とかもしたことないだろ?」
翔也さんにフォローされ、ゆっくりと首肯した。
「漫画の主人公とかなら初戦でも勝つのにな。ちなみに俺は初戦勝ったぞ」
「少しは慰めてやれよ……。それに尭羅はradianに通う前から喧嘩慣れしてただろうが」
2人の掛け合いを見ていると、慰めてるはずの翔也さんまで皮肉でそう言ってるように思えてしまう……。
「根本的に、彼の能力は戦闘向きじゃないだろ。よく戦わせようと思ったよな」
翔也さんが余っていたパイプ椅子に腰をかけながら不満そうに言った。
「別に勝敗は気にしてない。 今回の勝負はこいつがどれだけ出来るかを測りたかっただけだ」
「さっき初戦が云々言ってたじゃないですか……」
尭羅さんの言う通り、先ほどの試合は僕の能力の可能性と限界を知るためという名目で、一回実戦してみれば意外な力に気づくかもしれないという暴論の元で行われたものだ。
「それで、どうだ? なんか新しい何かに目覚めた感じあるか?」
「あんなに殴られればマゾにでも目覚めるだろ」
わざとらしく高笑いをする二人をよそに僕は先程の試合について思い出した。
「そう……ですね。 特にこれと言って成長を感じる所はありませんでしたけど……、なんて言うか最後の方目をつぶって、ニオイを嗅いでるだけなのに相手の実像が見えたような気がしました」
「…………と言うと、どういうことだ?」
「つまり、嗅覚だけで視覚を賄ったってことじゃないのか?」
再度説明され、尭羅さんは、なるほどと手を打った。
「光輝の勘違いじゃないとすれば結構すごい事じゃないか? 視覚がいけるなら他の感覚器官も補えるだろ」
「確かにな……。いや、俺がこいつに求めてるのはそういう能力じゃない。なあ、光輝。嗅いだだけで相手の能力が詳しく分かったりしなかったか?」
「どうでしょう……。嗅ぐ前にテレポーターだって気づきましたからなんとも言えないですね」
尭羅さんは顎に手をやり、うーんと唸りながら何か考え始めた。
「まあ、尭羅。 そんな深く考えなくてもいいじゃねーか。できるか分からない物より、現段階で成長してる物を養った方がいい。そしたら、そのうちお前が望む能力を光輝が手に入れてくれるかもしれないぜ?」
「そうだな……」
尭羅さんは納得したように、よし!と手を叩き、椅子に腰掛ける僕に手を差し出した。
「そうとなれば始めるぞ。 さっ、立つんだ」
「立つんだ、と言いますとこれから何かするおつもりで?」
何となく、というかほぼ予想は付いていたが念のために問いかける。
「嗅覚だけで五感を賄えるようにするんだよ。掴みかけた感覚はすぐ反復した方がいい。 勉強でもなんでも同じだ」
「一応言っておきますが、僕の体は結構ボロボロなんですよ。それを聞いても考えは揺らぎませんか?」
「揺るがん揺るがん。命まで奪おうってわけじゃないから大丈夫だ」
今更ながらに来るんじゃなかったと後悔する。このままじゃ体がもたないだろう。しかし、radianから出る方法も分からないから逃げ場もない。多分、あのトイレに入った時点でこうなることは決まっていたんだろう……。
先週はすいませんでしたね。さらに、今回も短い話でしたが 、今週中にもう1話投稿しようと思うのでそれで許してください。
次話から17日も後半戦です。 脱獄した2人、孤児院、radian、それぞれの目的を果たしていくでしょう




