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自己時間停止少女と少女


 12時42分

 

 騙された……。蛍に言われた通り車で待とうとしたが、鍵を渡されて無かったのだ。平和だと謳われる日本でも流石に、車の鍵を掛けない馬鹿はいない訳で、しかもそれに気づいたのが車まで戻ってきてからの事だから、何度引っ張っても開かないドアとの緊張と車に到着するまでに気づけなかった自分への失望が同時に襲ってきた。

 

 車の近くで待とうかと思ったが、立華の言っていた“広場”に行くことにした。しかし、孤児院のどのあたりが広場で、どれがそれに該当する場所なのか分からない私は、孤児院の中をひたすらに放浪してやっとそれらしい場所までやってこれた。

 

 広場と言っても小さな公園のようになっていて、地面には砂が敷かれ、整備された花壇に、所々に遊具もある。この孤児院の子供達だろうか、数人の少年少女が遊具で遊んでるのが目に入った。その中に混ざろうと考えるわけもなく花壇の近くに設置されたベンチに座を占めた。

 

 「いいなぁ……」

 

 そう無意識に発した後で我に返った。何を言っているんだ私は。遊んでいる子供達に混ざりたいわけではないのに……。しかし、何故か焦がれてしまう。想像してしまうのだ。“健康だったら”、“能力さえなかったら”私もアソコにいれたのかと。人生の大半を病院で過した私には外で遊ぶことすら貴重な体験で、非日常だった。いや、今も変わらない……。

 身体は全く成長しないのに、精神だけ大人になっていく。 子供と見た目は変わらないのに、行動に移すには躊躇してしまう。容器は同じでも、私の中身だけ腐っているんだ……。

 “目を開けていると身体の成長が止まる”裏を返せば、“目を閉じてないと成長できない”。こんなの能力なんかじゃない。ただの呪い。

 

 「あれ?見ない顔だ。 今日来るっていう新しい子? なんだか暗い顔してるね、生まれつきなのかな?」

 

 話しかけられた方を見ると、1人の少女が、私の顔を覗き込んでいた。

 

 「私は……」

 「あ! もしかして鳳京ほうきょうさんのところの人? 」

 

 鳳京は、現在行方不明になっている組長の名前だ。どこで判断したかは不明だが、私を組合の人間だと察してくれたらしい。私は首肯する。

 

 「じゃあ、鳳京さん来てるの? 久しぶりに会いたいな」

 「いや、あの人は今日来てなくて……」

 「えー、そうなの?」

 

 鳳京は行方不明で、今は私がその代わりだ。などと言えるはずもなく、有耶無耶に返しておいた。

 少女の見た目は口調に比例して幼く、ふっくらとしたうりざね顔と、手入れのいきとどいた可憐な黒髪が特徴的だ。

 

 「なんだぁ……。鳳京さん来てないんだ。次来た時はお母さんのこともっと教えてくれるって約束したのになー」

 

 少女は私の横に座り、ぶーすかと文句をたれ始めた。

 

 「鳳京さんね、私のお母さんと知り合いなんだって。会ったことないんだけどさ、私みたいに綺麗な髪をしてるって教えてくれたんだ」

 

 少女は髪を撫でながら嬉嬉として語る。

 

 「そういえば、名前なんていうの? 私、絢七あやな

 「……逢莉あいりよ」

 

 こうグイグイくる人と話すのは苦手だ。特に相手が子供だと無視するわけにもいかないから対応に困る。そう思うと、蛍とはよく話せたものだ。……彼女はちょっとぶっ飛んだ所があったからそのお陰かもしれない。

 

 「あやなー、あやなー。ボール取れなくなっちゃったー」

 

 遊具のある方から子供の怒鳴るような声が聞こえてきた。

 

 「はいはい、取ればいいんでしょー」 

 

 絢七は「まったく……」と呟いて立ち上がった。

 

 「逢莉ちゃんも一緒に行こうよ!」


 そう言って絢七は私の手を取り、子供達の元へと駆け始めた。

 

 「ちょっと! なんで私まで連れて行くのよ!?」 

 「だって、座ってるだけじゃ暇でしょ?」

 

 全力で走ったことも無かったからか子供達の所まで来ると既に息が上がり、ふくらはぎに張ったような痛みがあった。たかが数メートルでこうなってしまうとは……。情けない……。

 

 「んで、私に何用?」

 

 1人の少年が木の上部を指さした。その先を見ると、枝と枝の間にボールが挟まっている。

 

 「あんなボールくらい自分達で取りなさいよ……。あんた達は子供なんだから木くらい登れるでしょ?」

 「あやなだって子供じゃん」

 「私はもう中学一年生なの、小学生のガキンチョとは格が違うっての」

 

 絢七は煽るように言いながらも、右手を上げ、手の平をボールに向ける。

 彼女の手に一瞬黒い何かが現れたかと思うと、ボールは絢七の手に吸い込まれるように弧を描きながら地面におちた。

 

 「ほら、次は自分達で取るのよ?」

 

 子供達は返事もそうそうにボールを手に取ると、どこかへ走っていってしまった。

 絢七は子供達が見えなくなると、小さくため息をつき、私の方に振り返った。

 

 「ごめん、ビックリさせちゃったかもね……。実は私、能力者なんだ……」


 絢七は重大な事実でも語るようにおずおずとそう言った。

 

 「別に珍しいものじゃないじゃない。……私だってそうだし」

 「えぇ! そうなの!?…………あ、でも考えてみれば逢莉ちゃん組合の人だもんね。そりゃそうか……」

 

 絢七はそうかそうかと、小さく頷く。能力者なんて私もばらす必要ないのに……。なんで言ったんだろう。能力者なんて言ったら―――。

 

 「じゃあ、どんな能力なの? 見して欲しいなあ」

 

 こう聞かれるに決まってる。しかし、私が答えれるのはたった一言だけ。

 

 「…………もうずっと見せてるよ」


 どういうこと?と、絢七は首を傾げる。彼女の長い髪が少しゆれた。

  

 



今回と次回もこんな感じで短いと思います。もしくは来週投稿できないかもしれません。


今年の夏までには完結させたいですね。

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