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自己時間停止少女と孤児院


 「やあ、お嬢さん。これで2度目だね」

 

 既知感のある声がして、反射的に振り向いた。 予想通り青年がたっている。ということは、これは夢か。

 彼がいるから夢、と認識するのは不思議な感覚だが……、草の茂った荒地に私と彼だけという異様な状況。夢で間違いではないらしい。

 

 「それにしても、目を瞑ってないと“僕”を行使できないなんてあまりに悲劇的だよな。つまりは、“僕”という芸術品がみれないわけだろ? 」

 

 癇に障る口調は相変わらずのものだったが、そんな事を気にしている暇はない。 私は聞こうと思っていたことを尋ねる。

 

 「貴方って何者なの?」

 

 他にも聞きたいことはあったが、それが分かれば全ての疑問が解決する気がした。

 

 青年は何も言わずに目を閉じ、鼻で笑った。

 答えるつもりは無いのだろうか。私は質問を続けた。

 

 「瞼を閉じてる時だけ使える元組長だかの能力、貴方はその事について何か知ってるんでしょ?」

 

 サイレンの音が響いたのはその時だ。

 

 「おと、これが鳴ったらお別れの時間だね」

 「ちょっと待ちなさいよ。まだ何も答えてないじゃない」

 

 少し強めに怒鳴りつけるが、青年の調子は変わらない。

 既に、足先が浮遊感を帯び始めている。この感覚が全身に回ればもうここに居られない。

 

 「答え合わせなんて何時だって出来るし、目星もついてるんじゃない? ああ、言い忘れてたけど今度能力を使う時はもっと長期的に目をつぶっててほしいな。今の状態でどこまで出来るか試しておきたい」

 

 最後に青年がそう言って、私の視界は白く塗りつぶされていった。

 

 

 

 12時 12分

 

 ビクッと体を震わせて目覚める。どうやら眠っていたらしい。

 

 「大丈夫ですか? 逢莉さん」

 

 運転席に座る蛍が前方を気にしながら私を見る。

 

 「ええ、大丈夫……。ただ寝てただけ」

 

 助手席に座る私は目を擦りながらそう答えた。 まだ少し眠気が残っている。

 

 寝起きの鈍った思考で、なぜ車に乗っているのかを思い出そうとする。

 ルームミラーから後部座席に目をやると、年端もいかない少女が暗い瞳で俯いて座っている。抱きしめるように持ったリュックには“岩村いわむら 白華きよか”と名前が書かれていた。

 そうだ。この気まずい空間に耐えきれず、夢の世界に逃げたんだった。

 20数年の人生をほとんど病院で過した私は、車に乗るのもほとんど初めてだだたし、知らない少女が同席することで醸し出される“気まずい空間”というのは初めての経験だった。

 

 「これってどこに向かってるんだっけ? てか、あの子誰よ」

 

 少女には聞こえないように……、いや、多分聞こえていただろうが、出来るだけ小さい声で蛍に聞いた。

 

 「目的地はもう目と鼻の先です。 彼女の名前なら鞄に書いてありませんでした?」

 「いや、そういう事じゃなくて……」

 

 蛍に聞き直そうとしたところで車が停止した。窓から外を見たが、煉瓦塀に沿うように駐車されていた為どんな場所に到着したのかは分からなかった。

 

 「ほら、着きましたよ」

 

 蛍はシートベルトをはずして車から降りると、すぐさま後部座席のドアを開けた。

 

 「さあ、どうぞお嬢さん」

 

 少女の手を取り、エスコートするように車から降ろす。その姿はさながら白馬の王子を連想させる。

 私も車から降りたが、私の身長よりも大分高い煉瓦塀が見えるだけだ。

 そうこうしているうちに蛍が少女を連れて歩き始めてしまったので、その後を急いで追う。

 

 「結局どこなのよここ」 

 

 蛍は少女と手を繋いでいたため、私はその逆側に回った。

 

 「ほら、そこに書いてありますよ」

 

 蛍が指さした先を見ると煉瓦塀に“ワカサギ孤児院”と掘られた銘板が取り付けられていた。

 孤児院……。たしか身寄りのない子供を預ける所だった気がする………。ということは、少女をこの孤児院に連れて来るのが目的ってこと? 

 

 「孤児院に何の用があるの? そんな事より“能面”を探さないといけないんじゃない?」

 

 先日、元組長の鳳京の行方を知っいるであろう“能面”の存在が顕になり、組合はその足取りを追うために大忙しのはず。 決して、少女を孤児院に搬送する暇はないはずだ。

 

 「確かに今は忙しい時ですけど、これは組長の仕事の一つですので疎かにすることは出来ないんですよ」

 「孤児院に連れてくるのが仕事なの?」

 「…………まあ、そんなところです。鳳京様が自身で始めたことらしいので、私にも詳しいことは……」

 

 蛍も詳しく知らないなら仕方が無い。どうせ、組合の本部にいてもやる事も無いのだ。その“組長の仕事”とやらに付き合ってやろう。

 そう考えていると、煉瓦塀は途切れ大きな門が現れた。そこに力士のような丸々とした女性が腕組をして立っていた。

 

 「ん? 今日はあのバカが見当たらないね〜。風邪でも引いたのかい?」

 「鳳京様は別件がありまして……」

 

 組長は行方不明だ。なんて伝えれば話がややこしくなると考えたのだろう。蛍は予め用意していたであろう嘘をついた。

 

 「……ふーん、鳳京が来ないなんて珍しい。で、今回はどっち? まさか、両方なんて言わないだろうね」

 「いえいえ、逢莉さんは組合の人間ですよ。今回はこちらの白華さんだけです。……ていうか、資料送りましたよね? 確認してないんですか?」

 「見たような気もする」

 

 女は少女を顔を近づけると、上から下まで少女の全身を睨みつけた。“蛇に睨まれた蛙”をそのまま体現したような様だ。

 

 「ふん、岩村 白華ね。 私は孤児院ここの院長をやってる立華たちばなっていう者だ。別に覚えなくても構わないよ、好きに呼びな。あんたがどんな生活をしてたか知らないけど、ここに居る間は、ここのルールに従ってもらう。いいね?」


 少女は何も言わずにただ首肯した。

 

 「いい子だ。それじゃあ、施設について説明するから付いておいで。ほら、蛍。あんたも手伝いな」 

 

 女は門の中へとズカズカ進んでいき、少女もその後に付いていく。

 

 「じゃあ、私はまだ仕事があるので逢莉さんは適当に過ごしていてください」

 「え……、私も付いていくわよ」

 

 その声が聞こえたのか立華の目がギロっと動き、私を鋭く睨んだ。

 

 「余分な人手は邪魔になる。あんたは広場でも行って遊んでな」

 

 別にガキって年齢でもないんだけどなぁ……。見た目って大事。

 

 「そういう訳です。立華さん見ての通り怒ると怖いので、ここは大人しく従ってください。何なら車で待ってても構いませんから」

 

 蛍は拝むように手を合わせて軽く謝ると、スグに立華の後を追っていってしまった。

 

 見知らぬ場所で1人。 知り合いがいるはずも無く1人。…………やだなぁ。こういうのって苦手なのよ……。

 

孤児院に連れてこられた白華ですが、覚えてる方はいらっしゃいますかね、このキャラ今回が初登場じゃありません。 14、15に登場していますので、読み返してみてはいかがでしょう

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