高校生能力者とradian
8時 15分
公園には沢山の子供たち、散歩に来た老夫婦、ベンチに座る青年など沢山の人が来ていた。
尭羅さんに公園まで呼び出されはや1時間経ったが、一向に彼は現れない。
「まだ5日しか経ってないのか……」
感慨深くそう呟く。五日前、この公園で家出を決心した事を思い出したのだ。コートを着たあの女性。彼女は今どうしているだろう。
「よう、待ったか?」
前方から尭羅さんがやって来た。髪形はいつも通りボサボサで、昨日同様松葉杖を付いていたが、服は半袖のワイシャツを着ている。
「今日はタキシードじゃないんですか?」
「誰が好き好んで真夏にタキシード着るんだよ。あれは大道芸の衣装で、私服じゃない」
じゃあ、なぜ僕を呼び出したのだろう。てっきり芸のアシスタントにでも使われるのかと思っていたが……。
「ま、立ち話もなんだ。目的地に向かうか」
そう言って尭羅さんは公園内のトイレに入っていった。目的地向かうとと言っておいて早速寄り道してるじゃないか。まあ、生理現象は仕方ない。彼が用をたすまで外で待つか。
「なにしてる? 早く入れよ」
尭羅さんは、さも当然のように僕をトイレに手招きする。
「いや、僕はいいですよ。それに“使用禁止”って書いてありますけど?」
「馬鹿だな。“使用禁止”だから良いんだよ。それに目的地ってのはここの事だ」
尭羅さんは、僕の腕を掴むと無理やり個室に入れた。…………これってあれじゃないのか? ニュースとかで取り上げられるレベルの事をされるんじゃないのか? その後、僕の葬式で同級生がインタビューとかに答えるパターンじゃないのか!?
「やっぱり、2人だと狭いな」
尭羅さんは個室のドアを閉めると、自身の足を和式の便器に突っ込んだ。
「……すいません。理解が追いつかないんですけど」
「いいから早くしろ。説明するよりも体験した方が良いだろ」
確かに百聞は一見にしかずとは言うが…………。しかしここでゴネても仕方ない。僕は騙されたと思い、便器にそっと足を入れる。ピチャっという音と冷たい感触が足の裏に伝わる。
「よし、レバー引け」
「……はい」
言われた通りにレバーを足で押し込む。汚いなぁ、と思う時には既に視界はレンガの壁をとらえていた。
「…………は?」
テレポートした。というのはすぐ理解出来た。しかし、その原理が全くわからない。なぜ便器に足を入れなければいけなかったのか。そして、今自分はどこにいるのか。そんな問たちが頭の中を飛び回っている。
「よし、行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
呼び止めても尭羅さんは止まることなく、下へと続く階段を降りていく。
「ここはどこなんですか? ていうか、この下にはなにが……」
「そういうのは、おいおい話すとして。お前の能力をもう1度詳しく話してくれよ」
話が逸らされたが、後で説明する気はありそうだ。尭羅さんに言われた通り自身の能力についてもう1度説明する。
「匂いを嗅いだ人の状態が分かる……って感じですかね?」
「その“状態”とかいう抽象的な表現をもっと詳しく説明してくれ」
状態か……。今まで能力を使用した時の事を思い出そうとした。数える程しかないが……。
「まあ、病人だったら症状とか、年齢とか大雑把な感情とかですかね」
「で、能力者かどうかも分かるんだろ?」
「距離によりますけどね……」
「じゃあ例えば能力者の匂いを嗅いだ時、どこまでの情報が手に入る? “火を扱える”みたいな詳しい能力までわかるのか?」
そんなの試したことがない……。しかし、これまで能力者の匂いを嗅いだ時はそこまでの情報は入ってこなかった。……いや、意識してないだけで出来ないことでもないのかもしれない。
「よく……わからないですね」
「そうか。なら今から確かめよう」
気づけば階段を降りきり、“bar radian”とか看板のかかった扉がある。尭羅さんがその扉を開くと同時に、凄まじい怒涛が耳を貫通した。いや、それよりも―――。
「耳より先に鼻を摘むっていうのはなかなか変わってるな」
「臭いが……キツすぎます……」
今まで嗅いだことのない臭いだ。いや、嗅いだことはあるんだ。しかし臭いが濃すぎる。人間の密度が高すぎてその分臭いもこくなっているんだ。
「窓とか無いから籠りやすいんだろうな。ところで何の匂いがするんだ? 汗とかか?」
「汗もですけど、能力者臭いです……」
「能力者臭いか。そりゃあここにいるヤツらのほとんど能力者だからな」
尭羅さんは小さく笑いながら。bar radianの中へと入っていった。僕も鼻をつまみながらゆっくりと彼の後を追う。
radianの中はボクシングなどで使われてそうなリングが設置されていて、殆どの人はそのリングに群がるように押し寄せている。
「あれは何をしてるんですか?」
「能力者同士が戦ってるんだよ。地上でやったら一瞬で警察が飛んでくるが、ここならその心配もない。群がってる奴らは普通に観戦してるか、賭けしてる」
なるほど、洋画とかで見たことがある。まさか現実で見る日が来るとは……。まあ、僕には関係なさそうだ。
尭羅さんはリングを横切ると店内の縁に設置されたバーカウンターに進んでいった。
「よう、尭羅。昨日ぶりだな」
カウンターには赤色の眼鏡に金髪の青年が肘を付いて座っていた。すると僕の存在に気づいたのか、尭羅さんに尋ねる。
「誰だ? あのガキは。お前の息子とか言わねーだろうな?」
「冗談にしても笑えないな。ほら、昨日言ってただろ―――」
そこからは声が小さくて聞き取れなかったが、赤色眼鏡が僕の方を見て不敵な笑みを浮かべているのを見ると、話題が僕なのは明白だ。
話が終わると赤色眼鏡は僕に近づいてきて、品定めするようにジーッと眺めている。
「君、名前は?」
「…………一ノ瀬 光輝です」
「能力は?」
「え?」
「お前の能力聞かれてんだよ」
椅子に腰をかけた尭羅さんがそう付け足した。それはわかるのだが、なぜこの状況で聞かれるのだろう。
匂い嗅いだらその人の状態がわかります……と尭羅さんの時と同じように返答する。
「匂いを嗅いだらねぇ…………。ふん悪くない。早速試合を組んでこよう」
そう言って赤色眼鏡はリングへと掛けていった。
試合? なんのことだろうか? と何となく理解していることを否定するように考える。
「試合ってなんですかね?」
とぼけるように尭羅さんに尋ねる。
「簡単なことだ。お前があのリングで試合するんだよ」
マジかよ……。
「何でいきなり試合なんか……」
「ほら、火事場の馬鹿力っていうのか? 追い詰められるといつも以上に力が出るって言うだろ。それと同じように、1回実戦してみれば意外な力に気づくかと思ってな。ついでに、翔也に能力者を紹介しろって言われてたからな。」
「そんな無茶苦茶な……」
そう話していると赤色眼鏡が僕のところに戻ってきた。
「良かったな、一ノ瀬。空きができてたからすぐに戦えるぞ。お前がどんな戦法でいくのか楽しみにしてるよ」
どうやら後戻りは出来ないらしい…………。
久しぶりに光輝の目線でした。グダグダしてた彼ですがここからどう動くんでしょうか。まだ決めてません。




