影支配者とストーカー 2
22時12分
「―――お茶でも飲みますか?」
美伽が立ち上がり、台所へと向かった。彼女の金髪が揺れる。
「私は貰っとこうかな」
「じゃあ、僕も……」
ストーカー被害の依頼を受けたからには何かしら行動を起こさないといけないが、ストーカー自身がアクションを起こさない限り、こちらからは何も出来ない。そのため、今は依頼人である美伽の家で待機することにした。
ストーカーも美伽以外に誰かいると知れば、行動を慎むだろうから防止にもなる。
「にしても、本当にブラックバスなんですかね?」
光輝くんが唐突にそんなことを言いだした。ブラックバスとは満月に現れる殺人鬼らしい。金髪の女性だけを襲い、喰らうという、いわゆるカニバリズムな奴で、美伽はストーカーがそのブラックバスではないかと睨んでるようだ。
「どうだろうね。仮にそうだとしても、私じゃ殺人鬼と戦えないし。頼りになるのは光輝くんだね」
「いやいや、僕も無理ですよ。運動神経ありませんもん」
人間食べちゃうような殺人鬼に運動神経どうこうで対抗できるのかな……。
「本当にブラックバスだとしたら、私達じゃどうにもならんだろうね。そうじゃないことを祈るしかないよ」
「そうですね。普通のストーカーだと願いましょう」
私達が話を終えると、ちょうど美伽がお盆にカップを載せて、戻ってきた。彼女からカップを受け取ると、紅茶の暖かい香りが鼻まで届く。
「そう言えば、光輝くん……だっけ?は、高校生なんだよね?」
「はい、今は夏休みですけど」
「へー。じゃあ、バイトしてる感じ?」
「……そんな感じですね。優子さんの元で住み込みで働かせてもらってます」
光輝くんが照れくさそうに頬を掻いた。まだまともに仕事をさせてあげてないけどね……。それは私の力量不足だな。
「じゃあ、家には帰ってないんすか?」
「えぇ……と、それは……」
光輝くんが、私に助けを求める眼差しを向けてくる。家出のことは言い難いのだろうか。それなら、“住み込みで働いてる”とか言わなきゃ良かったのに。しかたない。私から説明してやるか。
「光輝くんは家出少年なんだよ。行く所が無さそうだったから、アパートの空き室貸してんあげたんだよ」
「そうなんすね〜。私も一回家出したことありますよ。…………たしか、親父と大喧嘩したんだったかな。行くところもなかったから、すぐに戻りましたけどね。それでも、どこいってたんだ!って怒られましたけど……」
それを聞いて光輝くんが、感慨深い表情を浮かべる。彼なりに思うところがあるのかもしれない。
「でも、帰って思いましたね。親は子供のこと考えてるもんなんだなって」
「そうなのかも……しれませんね……」
光輝くんは少し俯きながらお茶を啜る。
―――ピンポーン
呼び鈴が部屋に響いた。私はすかさず警戒大勢にはいる。
「この時間に訪ねてくる予定の人は?」
「いないっすね……」
「私が見て来るから、念のため奥にいて」
ゆっくりと玄関まで行き、恐る恐る除き穴から外を見る。そこには、中年でスーツ姿の男性が立っていた。顔は隠していない。
思い切ってドアを開けてみると、男と目が合った。
「だれ?」と睨みつけると、男は驚いたように目を見開いて、階段の方に逃げていった。
私も裸足のまま駆け出した。逃げ出すということはそれなりの理由があるはずだ。
足の裏からコンクリートタイルの冷たさが伝わってくる。夏でも、冷たいところはあるんだなぁと呑気に考えていた。別に急ぐ必要なんてない。ちょうど男が階段を降り始める。階段に着いたライトが男に反応して光った。
「命令する。“その場に止まれ”」
私が言ったのと同時に、階段を駆け下りていた男の動きが止まった。あらかじめ、階段の手すりを光遮物に変えておいたのだ。もうこうなってしまったら男が自由に動くことはない。
私は余裕を持ってゆっくりと近ずくと、男の背中に飛び乗り、階段の段に押さえつけた。男は顎を打ち、その音が階段に響いた。
「さて、何者で、何しに来たのかな?」
「待て! 私は怪しいもんじゃないんだ。美伽の父親なんだ!」
「それは貴方の願望でしょ? 嘘つくならもっとましなのつきなよ」
「本当なんだ! 財布の中に免許が入ってるから確認してくれ。財布はポケットにはいってるから」
めんどくさいなと思いながら、言われた通りに財布を調べる。確かに、“近藤 翔喜”と書かれた免許証がでてきた。
「………………ごめん、美伽の名字知らないや」
「お前こそ何者なんだよ!」
その時、美伽と光輝が部屋から出てきて、この光景を目撃した。
「あ、お父さんじゃん」
あ……、本当にそうなのね……。
「美伽か!? この上に乗ってる子にどくようにいってくれないか?」
「……あ、ごめんなさい。 言われなくてもどきます……」
能力を解除して、美伽の父親が立つのを手伝う。
「それにしても、最悪のパターンだよね。実の父親がストーカーって」
「いや、違いますよ!? ストーカーとお父さんは別人ですよ。……多分」
「一応、ボケてみたのに光輝くんが全否定してくれないと、父親=ストーカーの等式が成り立っちゃうよ」
私と光輝くんのふざけた会話は無視して、美伽とその父親は話し始めた。
「それで、父さんは何しに来たの? 持病のヘルニアが治ったの?」
「そんな持病もってないよ……。 母さんから、ここ最近美伽に電話が通じないって聞いたから心配して見に来たんだよ」
「ああ、ごめんね。電源切りっぱなしだった」
「それじゃあ電話の意味がないじゃないか。それに、さっきから“ストーカー”とか物騒な単語を聞くが大丈夫なのか? あと私に飛びかかってきた物騒な子は何なんだ」
「そのことは―――」
美伽はストーカー被害と、私達を雇った経緯を全て話した。
「何? ストーカーだ? それなら、実家に戻ってこればいいじゃないか。 ちょうど夏休みだし、母さんも会いたがってたぞ」
「でも…………」
美伽が私の方を見る。依頼したことを気にとめてるのかもしれない。
「依頼の方なら大丈夫ですよ。ご実家の方が安全だとも思いますよ。ね? 光輝くんも思うよね?」
「え? ああ、そうですね。家族といた方が何かと安全だと思いますけど……」
「…………じゃあ、そうしよかな」
23時04分
「……ごめんね。結局仕事なくなっちゃって」
「いいんですよ。仕方のないことです」
帰路を歩きながら、光輝くんと今日のことを話していた。
「……僕、父親と喧嘩して家出してきたんですよ」
「美伽が話してた時にそんな顔してたもんね」
「父は能力者が嫌いで、僕にも能力を使わせてくれなかったんですよ。でも、ある人に出会って自分も能力を使って人の役にたちたいなと思ったんです」
光輝くんは俯きながら、そう告白した。光輝くんの言う“ある人”は分からなかったが、彼にとっては偉大な人物なんだろう。彼に、なかなか仕事を与える事 が出来ない自分を情けなく思う。
「痛っ」
下を向いていたせいか、光輝くんが誰かとぶつかった。こんな時間に誰だと、見ると松葉杖を持った男がいた。
「あ、尭羅さん」
「いつぞやの駅前の奴か。何してんだよ。彼女とデートか?」
「違いますよ。仕事です。それに彼女じゃなくて上司ですよ」
光輝くんと知り合いなのか? よく分からないが、話は盛り上がってるようだ。
「そう言えば、お前能力者かどうか分かるんだよな?」
「まあ、ある程度なら……」
「その“ある程度”ってのはどのくらいだ? 例えば、どんな能力かは分かるのか?」
「そこまでは試したこと無いですね」
尭羅と呼ばれた男は、自身の顎に手をやるとしばらく考え、私の方を向いた。
「おい、お前。こいつの上司なんだよな?」
「そうだよ。毎日こき使ってるよ」
「明日以降こいつが居なくて困ることはあるか?」
「依頼が来たら必要になるかもしれないけど、来ないなら困らないだろうね」
「じゃあ、こいつ借りるぞ」
「えぇ!?」
最後に声を上げたのは光輝くんだ。本人がビビってどうする。
「ほら、ちょうどいいんじゃない? 能力で役に立ちたいとか言ってたし」
「でも、仕事の方は大丈夫なんですか?」
「依頼なんてそうそう来ないから大丈夫でしょ」
「という訳で、お前は明日から俺の手伝いだ」
尭羅は半場無理やり光輝くんを従わせた。彼の元に仕事が来たのはいい事だ。役に立てるといいが……。
優子の能力と、光遮物の説明は4話で確認できます。
今回で16日完結です。 ついに17日ですね。
17日は色々書きたい事が多いんです。話が大きく動く日でもあるます。




