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自己時間停止少女と散産堂

今回から、文章の間を空けてみました



 13時26分


 「ここか」

 「そうだ。ここの三階だ」


 高宮と羽田慈が並んで古びた雑居ビルを見上げている。


 「簡単に口を開いてくれる相手だといいが……」


 私もビルの三階を見上げたが、カーテンで覆われていて、中の様子は一切見えなかった。


 「なーに、脅せばいいんだよ。脅せば」


 高宮はビルを見つめたまま、懐から1丁の拳銃を取り出した。


 「なんて物持ってきてるんです……」


 蛍はため息をついたが、拳銃に驚いた様子はない。


 「まあ、そうだな。君の能力なら脅しには十分だ」


 羽田慈も驚いたというより、むしろ呆れたといった感じだ。彼らにとっては拳銃などケイタイ感覚で所持する当たり前の道具なのかもしれない……。


 「行ってみりゃわかるさ」


 高宮は拳銃をしまい、ビルへと入って行った。私達もそれに続く。エレベーターを使い3階まで到着すると、“散産堂”の表札のかかった部屋の前まで来た。


 「この部屋だな?」

 「まあ、情報によるとそうだな」


 高宮がドアノブに手を掛け、ゆっくりと押した。老朽化した金具がギィィという音を立てる。


 「逢莉さんは私の後ろにいてください。万が一の為に……」


 蛍の言った通り、彼女の影に隠れるように身を潜めた。高宮の顔を見ると、1滴の汗が彼の頬を流れている。多かれ少なかれ、この場の全員が緊張しているのは確かだ。今から対面する相手は、自分達のボスを殺したかもしれないのだから当然だろう。

 部屋の中はゴミ袋が散乱していて、ゴミ屋敷の一歩手前といったところだ。高宮が一歩、また一歩と室内に入っていく。

 異様な程に静かな空間。女は留守にしているのでは? と少し疑った時“奴”が姿を現した。

 “奴”は社長椅子に腰をかけて、まるで水中の魚のように、物音一つ立てず静かに眠っている。腰まで伸びた黒髪と、夏にも関わらず、当然のように羽織るコート。情報通りの容姿だ。彼女で間違いない。

 高宮と羽田慈は目を合わせ、頷くと、高宮は女の正面に、羽田慈は真後ろに回り込んだ。


 「おい、起きろ」


 高宮は拳銃を女へと向け、椅子を蹴りつけた。


 「……ん?…………ふああ〜〜」


 女は欠伸をしながら、大きく伸びをする。まだ状況を把握出来ていないのか何度か目を擦る。


 「うわぁ! びっくりしたぁ。もう、入るならノックくらいしてよ!」


 彼女は勝手に部屋に入ってきた父親を怒るような口調だ。拳銃を向けられても臆した様子は見られない。


 「生憎だが、そんな余裕は無くてね」

 「私さあ、ノックって大事だと思うんだ。 貴方達も目が覚めたら、知らない人に銃口向けられてるの嫌でしょ? だからさ、入室からやり直さない?」

 「黙れよ。この状況分かってんのか」


 高宮が声を低くして言うと、銃口を女の額に近づける。


 「おー、怖い怖い。降参降参」


 女は態とらしく両手を上げ、高宮を虚ろな目で見つめていた。その態度は余裕を越えて挑発的だ。


 「今から幾つか質問させてもらうよ。嘘を付いても、目の前の男を怒らせるだけだから、オススメはしないよ」


 羽田慈が警告をしたが、女は「はーい」と気の抜けた発言で返した。


 「まあ、質問1。12日の夜、貴方が鳳京 和夫を殺害したのか?」

 「和夫? ってことは……君たちは組合の人間か。生憎だけど、和夫を殺したのは私じゃないし、正確には殺されてもないんじゃない?」


 高宮が、羽田慈の瞳に目を移したが、色は変わっていない。女が嘘をついていれば羽田慈の瞳は赤く光るはずだ。


 「まだ生きてるってことか?」

 「まあ、その前に私から質問1。そこで固まってる女の子2人は、この部屋のオブジェにでもなりに来たの? 何もしないよね」


 女は羽田慈の口調を真似て言い、横目で私を睨んだ。私は肩をビクッと震わせた。こっちに話の矛先が来るとは予想してない……。


 「質問できるのは俺達だけなんだよ。お前は黙って答えてればいい」

 「じゃあ、質問2。拳銃構えてる君は、さっき後ろの男に視界を移したよね。 彼が嘘をついたか判断できるの?」


 女は高宮の話など聞いちゃいない。質問者と回答者が逆転し始めている。


 「話聞いてたのかよ!? お前は―――」

 「じゃあさ、もしも私が、“やろうと思えば君達4人纏めて殺せない”なんて言ったらどうなるわけ?」


 高宮の発言をかき消すように、女は言った。


 「ふざけた事ばっかぬかしてると脳天ぶち抜くぞ!」


 銃口は遂に、女の額に接触する。しかし、女の余裕は未だに健在だ。


 「羽田慈! 腕なら1発かましてもいいよなぁ!?」

 「やめろ……」


 羽田慈が静かに、震え声で呟いた。


 「はあ? なん―――」


 高宮が絶句した。羽田慈の顔を見たからだ。冷や汗を大量にかき、小さく震えている彼を、彼の赤く光った眼を。

 “やろうと思えば君達4人纏めて殺せない”この発言が“嘘”だとしたら…………。反対にするだけだ。バカだってできる。私は無意識のうちに、蛍の服を強く握っていた。私だけじゃない。全員が本能的にあの女を恐れている。

 そんな私達に構うことなく、女は大勢を変えて椅子に乗り出し、羽田慈の方を向いた。


 「へー、目が赤くなる訳か。そこで判断してるのね。和夫もなかなか良い部下をもってるよね」


 女は羽田慈の頬を両手で持ち上げて、瞳を多様な角度から眺めている。


 「う、動くんじゃねえ!」


 高宮は必死に振り絞った声で叫び、銃口を女の後頭に押し付けた。


 「質問っていうか、忠告1。拳銃は無闇に近づける物じゃないし、さっきから構えてるそれ、安全装置ついたままよ?」


 そこからの出来事は一瞬だった。高宮が安全装置を確認しようとした瞬間、女は巧みに拳銃を奪い取り、高宮に銃口を向けた。


 「うわぁ、ブラフで言っただけなのに、ほんとに安全装置つきっぱなしじゃん。拳銃なんて扱ったことないでしょ? 脅すなら能力者らしく、自分の能力でやった方がいいよ」

 

 高宮は一瞬体が固まったが、すぐに鼻で笑ってみせた。

 

 「へっ、いいぜ。お望みなら使ってるよ。俺の力を……」

 「高宮、やめろ」

 「大丈夫だ。殺さねーように加減はする。ここまでされて黙っておけるかよ」


 今にも死闘が始まりそうなさなか、私の髪を風が撫でる。…………風? 空調のものではない。室内にも関わらず、風が吹いているのである。ましてや、その風は高宮の方へと向かっていき、段々強さを増している。


 「これは不味いですね……」


 蛍の頬を冷や汗が通過する。


 「逢莉さん、できるだけ体を小さくしてかがんでください」

 「え? 止めなくていいの?」

 「ああなった高宮さんは和夫様でもないと止めれませんよ。さあ、逢莉さんも早く」


 蛍は近くのソファーに身を寄せる。高宮を取り巻く風は部屋のゴミすらも巻き込んでゴオオオという轟音をたて始めていた。


 「いいねー。その殺気立った感じ。ついでに部屋のゴミも纏めてくれるなんて最高だよ」

 「減らず口を叩けるのも今のうちだぜ?」


 2人を止めなければ、という使命感にかられる。そうしないと甚大な被害が出てしまうだろう。それ以前に、自分の命の危険がある。でもどうしたらいい? 元組長の能力があると言われているだけで、使い方など全く分からない。

 

 “怖くなったら目を瞑りな”

 

 何故か夢で会った男の声が頭に響いた。目を瞑る? 今はそれしかない。夢で知らない男に言われた、などという馬鹿げた戯言に掛けるしかないのだ。これしか出来ない自分を呪いながら、惨めに思いながら目を瞑った。

 銃声が鳴ったのと同時に叫んだ。


 「やめて!!」


 …………成功しただろうか? 組長の能力とやらは発動したのだろうか? こうやって考えてるという事は、少なくとも生きているわけだ。“我思う故に我あり”というやつだろうか。


 「なんだ、オブジェじゃないじゃん」


 女の声がする。恐る恐る目を開けると、全員が私の事を凝視している。見たところ、私が何かした形跡は見えない。…………なにがおきたんだ。 


 「逢莉さん! やっぱり出来るじゃないですか!」


 蛍に肩を掴まれ、ブンブンと上下に振られる。


 「ちょっと、やめてよ。気持ち悪くなるでしょうが」


 蛍の言ってる事が分からなかった。


 「私は何もしてないでしょ?」

 「したよ」


 羽田慈がメガネを上げながら即答した。


 「僕は、いや、僕らは確かに見たんだ。君が組長の能力を使って2人を止めたんだよ」

 「はあ? どうやってよ」


 にわかに信じられなかった。


 「叫んだと同時に、君から炎が溢れ出たんだ。その炎が放たれた弾丸と、高宮を止めた」

 「じゃあ、私の出したその炎は?」

 「君が目を開けた瞬間に消えたよ。きっと、目を閉じてる間だけ使えるんだと思う」


 やはり、信じられない。しかし、あの2人が止まったのは真実で、怪我人も出ていない。とりあえずはそれでいいか。

 女が社長椅子にドサッともたれた。


 「なーんだ。せっかく私の能力をお披露目出来るとおもったのになー」


 女は伸びをした後、静かに目を閉じ用とした。


 「おい、寝るな! まだ質問の続きだ」

 「まだやるのー? なんか上手いこと終わる感じだったじゃん」


 女は文句を言いながら、机に肘をついた。


 「私は和夫を殺してないよ。殺したのは能面。いや、殺したのかはハッキリしないけど」

 「能面?」

 「そうそう、能面被った正体不明の奴。そいつが和夫をよく分かんない球体に変えて逃げてったの」

 「つまり、その能力者が犯人なのか?」

 「私が見た限りはね」


 羽田慈の瞳はいつの間にか黒に戻っている。女は嘘を言っていないようだ。


 「分かったらとっとと帰ってよ。能面については私も詳しくしらないし、私の居場所が分かった位なんだから、組合の情報網を使えば何かしらの情報が見つかるでしょ」


 女は欠伸をして、既に眠る体制だ。私達は顔を見合わせ、その場から立ち去ろうとした。


 「あ、一つ聞きたいんだけど……」


 皆が出口へと向かうなか、私は女に質問をした。


 「なんでコート着てるの?」

 「あっち側は寒いんだよ」


 あっち側? と私は首をかしげた。


 「逢莉さん、エレベーター来ますよ」


 蛍に呼ばれて“散産堂”を後にした。エレベーターのランプが3を示すと、ゆっくりと扉が開いた。それと同時に松葉杖の男がすごい剣幕で出てきた。事情はしらないが、相当怒りを溜めている事だけはわかった。

 

 

 

 13時 52分

 高宮、羽田慈、蛍、逢莉の4人は組合の本部への帰路についていた。


 「……なあ、羽田慈」


 高宮が、前方を歩く少女2人に聞こえぬように言った。


 「あの炎。本当に組長のだとおもったか?」

 「まあ、少なくとも僕には見えたけど」

 「普通なら、あのガキと組長は何か関係があるって考えるよな?」

 「まあ、そうだな。でも、あの女の言っていた能面。まずはそいつの情報を集めるのが先だ」


 羽田慈の発言に、高宮は静かに首肯した。

今回だけ無駄に長いんですね。

前書きでも書いた通り、間空けましたが、自分でも読みやすいですね。1話から修正していこうと思います。

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