影支配者とストーカー
13時02分
「ここが私のアパートっすね」
美伽に案内されるまま、彼女の自宅へとやって来た。特に豪華という訳でもなく、貧相と呼ぶにはどこか欠けている何処にでもある3階建てのアパートだ。…… 少なくとも、私の住んでる場所よりはボロくないのは確かだ。
「そう言えば、あの友達は?」
「友愛のことですか? それなら用事があるって帰りましたよ」
いつも猫の捜索で依頼に来る彼女は友愛と言うのか。思わぬところで彼女の名前を知ることが出来た。
「うち二階なんで、階段登りますけど。いいっすか?」
「ダメなんて言ったら上から釣り上げてくれるの?」
彼女も真面目に聞いてはなかったのか、私の発言は誰にも触れられることはない。
階段は螺旋状になっていて、腰程の高さのある手すりが付いていた。階段を登り始めると、突然光が視覚を刺激した。
「うおっまぶしっ!」
「すいません……。ここの階段のライト壊れてて、昼間でも人が通ると光るんすよ。しかも、馬鹿みたいに眩しいんす。階段使う時は注意してください」
「出来れば登り始める前に言って欲しかった」
何度もまばたきをしてみるが、視界に赤く青いモヤのようなものがかかっていた。 太陽を見た時にでるあれだ。二十数年生きているが、未だに何であれが出るのか分からない。
「大丈夫ですか?」
背後から光輝くんが心配してくる。
「大丈夫だけど……。光輝くんは?」
「優子さんが影になってくれたので大丈夫でした」
「部下に盾にされるとは……」
そう呟いて、階段を再び登り始めた。美伽はとっくに階段を登り終え、自宅の前で待っている。
「どうぞどうぞ」
美伽が扉を開け、促されるままに家の中に入る。背後の光輝くんがやけにソワソワしだしたのが気になった。
「なんでそんなソワソワしてるの?」
問うと、光輝くんは肩をビクッと震わせて、てれくさそうにした。
「いやー、女の人の部屋に入るのってはじめてだなーと思いまして」
「ん? 私が女に見られてない可能性が!?」
「あ……。じょ、冗談ですよ。あっはは……」
彼の乾いた笑いが冗談ではないと言っている。こうなるなら家に上げてやるんじゃなかった。
家の中はさほど汚れていなかったが、ダンボールが所々に転がっていた。この前引っ越したとか言っていたし、その影響だろう。
「一人暮らし?」
「そうっすね。この前実家から出てきたんで」
美伽は自分の脱いだ靴をしっかりと揃える。ガサツなタイプかと思っていたが、意外とまじめなのかもしれない。
「じゃあ、ストーカーについて説明してくれる?」
「ああ、分かりました」
美伽はそそくさと部屋の奥に進んでいき、ベランダに出た。私達もそれに付いて行く。
「あの辺で見てたんすよ。あの辺に」
美伽はアパートから数メートル離れた辺りを指さした。美伽が言うにはストーカーはそこからこの家を覗いていたらしい。
「あそこから部屋の中まで見れるの?」
「さあ? 分かりませんけど……」
「ちょっと光輝くん、確認してきてよ」
「はい。了解です」
そう言うと、光輝くんは部屋から駆け足で出ていき、あっという間に指定の場所までやってきた。真に頼んだらああはいかない。数分は駄々をこねるだろう。
「どう? なんか見えそう?」
彼に聞こえるように声を張り上げる。
「…………」
光輝くんが何も言わないと思っていると、突然走り出し、息を切らして部屋まで戻ってきた。
「ハア……ハア……特に…物が見える訳じゃないですね。せいぜい、部屋の明かりが付いてるかどうかっかわかる程度です」
息切れのハア…ハア…が最初に付いていると、彼がそのストーカーみたいだ。
「それで、依頼はうけてもらえるんすか?」
美伽は少し心配そうな顔になる。そう言えば、様子を見に来ただけで依頼の有無までは決めてなかった。
「とりあえず、数日感様子を見てみましょうか」
「いいんですか? 数日も私に構ってもらって」
「どうせ暇なんでね」
息を切らしていた光輝を見ると、目をキラッキラに輝かせてガッツポーズをしている。これが初めての依頼なのだから当たり前の反応かもしれない。…………下心とかないといいけど。
結局、週一なんですよね。しかし、今空いた時間で短編を書いてるので仕方の無いことなんです。許してください。




