影支配者への依頼
14時28分
住宅街にひっそりと建つ仮設住宅にクーラーが小さく音をたてていた。
「くぅ〜涼しいね〜」
優子は寝転がり大きくあくびをする。それを見て優子の祖母、優枝は呆れていた。
「なんでワシの家で涼んどるんじゃ」
「だってアパートはエアコン付いてないもん」
「だからってここに来なくてもええじゃろ」
「孫がせっかく会いに来たんだから感謝してよ〜」
誰に似たのかと優枝はため息をつき、テレビの電源をつけた。ちょうどニュース番組の中継が始まったところだった。
レポーターがマイク片手に状況説明をしていた。どうやら能力者が殺人事件を起こしたらしい。
「あーあ、また能力者のイメージが悪くなるよ」
優子が口を尖らせて言うと、テレビではインタビューが始まっていた。案の定、ほとんどが批判的な意見だった。
このような事件が増え続けているため能力者に対する風当たりは強い。日本人なら寿司が握れるだろと言われるようなもので能力者なら犯罪者だろと言う人も少なからずいる。
「ただでさえ能力者ってだけで白い目で見る人もいるのにこういう事件があるから私の仕事も繁盛しないんだろうなー」
と言い訳を言うのと同時にインターフォンの音が部屋に響いた。この家に優子以外で訪ねて来る人物はほとんどいない。そのため―――
「お客さんかな!?」
優子は玄関にかけていき、扉を開けた。
そこには先端にカールのかかった茶色の髪を持った女性が半べそかきながら立っていた。優子は彼女に見覚えがあった。というか、数日前に仕事の依頼に来た女性だ。
「あ、猫の」
うっかり前回の仕事内容で呼んでしまう。しかし、彼女は気にした様子を見せず、相変わらずべそをかいてるだけだ。
「今日はどのような御用でしょう」
口調を慣れない敬語にして話す。しかし、彼女は泣きかけてることもあり上手く話せない。何度も口を動かすだけだ。
「また……」
また?と優子は思った。「また」と言うことは今までに同じ事があったという事だろう。ここからマタタビや又小作などに繋がるなら話は別だろうが。
「また猫がいなくなっちゃいました」
知ってた。またなんて言うから猫がいなくなったのは優子自身予想がついていた。優子は彼女に聞こえないようにため息をつき、仕事が来ただけありがたいと思い込んだ。
「とりあえずお話を聴きましょう」
そう言って彼女を招き入れた。
話を聞くと先程の彼女の言葉が全てだった。また猫がいなくなったのだ。
前回の事もあり、優子はあまり乗り気ではなかった。しかし、断るわけにもいかない。渋々だが依頼を受けることにして、猫の捜索を始めた。
14時45分
優子と依頼人の女性は駅の広場に到着した。そして、折りたたみ式の机に片肘をついた少年のところへと向かっていく。
「調子はどうだい光輝くん。繁盛してるかな?」
「全くです…」
「そんな君に嬉しい情報があるよ。なんとお仕事の依頼が来ました〜」
優子がわざとらしく拍手をして、依頼内容を説明した。気力を失っていた光輝の顔にやる気が溢れる。
「やっとですね!!僕何でもやりますよ!」
「という訳でこの2人で猫を捜索したいと思います。見つけ次第連絡を入れますので」
依頼人はそれを聞くと不安そうにしながらも来た道を戻っていった。きっと自分でも捜すつもりだろう。
女性が見えなくなると、優子は机に腰をかけ大きくため息をついた。
「どうしたんですか?早く始めましょうよ」
「いや、やるだけ無駄だよ。賽の河原と同じ」
優子の言ってる意味がわからず光輝は「なぜですか?」と問う。
「数日前もあの人から同じ依頼が来たんだよ。あの時は誰かが届けてくれたらしいけど、毎日のように外に出てるらしいからちゃんと帰ってこれるくらいの知能は持ってる。でも前回のこともあるから飼い主もノイローゼなんでしょ」
「つまり?」
「私達は何もしなくても勝手に帰ってくるってこと。やるとすれば依頼人の家で待ち伏せして捕まえて、あたかも探してきたふりするとか?」
優子は猫のように大きなあくびをした。




