感覚共有者のデート 3
11時17分
空では太陽が輝き、地上は人で混み合っているのだから暑いに決まっている。水属性だったら一瞬で息絶えているだろう。
いつもは近所でデートしている真と境夏だが昨日歩いた道を再び回る気にもならず(主に真が)、2人は少し遠出してビルの連なるオフィス街に来ていた。
「流石にこの辺りは混んでるなー」
「そうですねー」
人混みを避けながら車椅子を押し続ける。その同じ行動に堪えたのか真からため息が漏れ、足が止まった。
「どうしたんですか?ため息なんてついて、もしかして退屈でした?」
「いや、退屈ではないし、境夏とはいるだけで楽しいんだけど。目的地もなく歩き続けるっていうのは流石に疲れてさ」
「いつも目的地なんて無いじゃないですか」
「いつもは良いんだよ。でも、今日は人が多すぎる。動くだけでも一苦労だ」
「……なるほど……」
境夏は右手に着けた小さな腕時計を覗き込んだ。
「少し早いですが昼食にしましょうか」
「お、いいねー。有名な店でも知ってるのか」
「……いいえ?そういうのには疎いですから」
当然のように答える境夏。期待したのが間違いだったと真は少し後悔した。
「まあ、目的が出来ただけいいじゃないですか、店なんて巡り合わせですよ」
「へいへい……」
返事をすると再び人混みの中を歩き始めた。
11時37分
「なんでしょうあれ」
境夏が指した先には数十人規模の人だかりができていた。その中の数人は中心へとスマートフォンを向けている。
「行ってみようか」
そう言って塊の方へと脚を進める。こういう集まりを見ると気になってしまうのが人間の性分である。そうして2人は野次馬の一員に加わった。
人を掻き分けながら進み、中心で行われている事件をどうにか覗ける位置に来る。
そこにはスーツ姿の男が2人いた。1人は目の充血した痩せ型でもう1人の男に暴言を浴びせ、そのもう1人はよく肥えており、少し逃げ腰になりながらも痩せ型の男を宥めている。それは暴動を起こした市民に命乞いをする貴族の様にも感じられた。
「コロ…ス……コロシテヤル……」
「君、止めるんだ!クビにした事を根に持っているのか?」
肥えた男がどれだけ言ってももう一人の耳には全く届いておらず会話が成立していない。
「コロス……これでコロシテヤル……!」
男は凶器でも取り出すのかと周りの誰もが息を飲んだが、結果は落胆するものだった。
男はナイフの1本も顕にすることなく、ワイシャツをたくし上げただけだったのだ。その姿は滑稽なものでその場の誰もが頬を緩ませた。
確かにここで終わっていたのならゴールデンタイムのくだらない番組にでも取り上げられていただろう。しかし、男の次の行動でその全てがひっくり返った。
男は空を見上げ大地が震えるほどのうなり声を上げた。すると彼の腹から鋭い風が音を立てて精製され、辺り構わず飛び出していった。
境夏はその風の異常さにいち早く気づいたが逃げることも出来ずその場で目を瞑り、来るであろう痛みと衝撃に備えた。
「境夏っ!」
しかし、どれだけ身構えても少しの痛みも感じない。境夏は恐る恐る目を開けるとそこにあったのは見るも悲惨な光景。
地面は野次馬の血で染まり、肥えた男がいたところには細切れになった肉が血を滲み出していた。
何故私だけ無事なのか、と境夏は疑問を感じたがその思考も足に感じる温かい感覚と重みに打ち消される。そこには背中に無数の傷を負った真。
境夏は何度も真の名を呼ぶが彼は反応を見せない。嘘だ……。嘘だ……。
「貴様……よくも!」
感情あらわに叫び、自身の懐から歪な形のナイフを取り出し、未だ点を仰ぎ立ち続ける男に投げつける。が、ナイフが飛び出す一瞬前に境夏の腕を何者かが掴んだ。腕から根本へと辿っていくとそこには真が静かに首を横に振っている。
「真さん……」
その時、男が再び発狂し獣のように唸りながらどこかへと逃走した。
追える者は誰1人残っていない……。
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