高校生能力者の商売 3
8月 15日 11時06分
清々しい朝。と言うには遅すぎる時間だ。昨日と同じように駅の広場で机を広げ健康診断という訳だ。ここまでに至る経緯は昨日同様、優子さんに仕事を求めに行っても仕事が来ていなかったのでこうしているわけだ。
それにしても暇だ。これなら能力を役立てるとかいう縛りをやめて普通にバイトした方が良くない?という本末転倒な事を考えてしまう。そもそも僕はなんで家出し―――
が、その思考は目の前を通った男に打ち切られた。その男にどこか見覚えがあると思っていると昨日唯一のお客さんだった。昨日と全く同じ服を着ていたためすぐ分かった。しかし、体勢は猫背になっていて、目は充血し生を感じられず、口元は小さく動き続けて何か呟いている。要するにおかしい訳だ。
彼は僕に気づくことなく歩き続けている。知り合いという程では無いが見かけたのだし昨日のお礼をしておこうと思った。
席を立ち彼の方へと早歩きで近づいていく。が、肩に手が触れようとしたその瞬間、鼻に異常な刺激を感じ反射的に手で塞いだ。
彼はそのまま歩き続けているがすれ違う人々が臭いを気にしている様子はない。つまり僕にしかわからない臭いということだ。
その匂いは理科室にある薬品の臭いのような強烈なもので、手で仰ぐようにしないと危険なタイプのやつ。風呂に入っていないとかワキガのようなそういう類いのものではない。これは能力の臭いだ。しかし、昨日と比べて強すぎる。そして、他の臭いを全て肥料にしたかのようにあれ以外のものを一切感じなかった。
一体あの人に何があったのだろう。想像もつかなかったがおぞましい事が起きたのは察することができた。
11時45分
「やあ、また会ったね」
声をかけられ目が覚めた。どうやら肩肘をついて寝ていたらしい。
見上げるとタキシードを着た男と目が合ったが、まだうつらうつらで頭がうまく回らない。
「ほら、君は一昨日位にスーパーにいた子だろ?」
「あ、氷の人ですね」
「俺はそういう風に覚えられてるのか。その後氷の調子はどうだい?」
男は目の前の椅子に腰掛け足を組んだ。
「どうだいも何も、あなたが離れたらすぐ溶けちゃいましたよ」
「そりゃあ、そういう物だからな」
そう言って男は1人で笑い出す。こっちは何が面白いのかわからない。
「結局あれは何なんですか?冷たくはないしすぐ溶けてしまった。一体どうやったんですか?」
そう聞くと男の印象はがらりと変わり、彼は不敵な笑みを浮かべ低い声で自慢げに話し始める。
「実は俺は能力者でな」
「知ってます」
「なんで知ってるんだよ」
「僕も能力者だからですよ」
突然の告白に男は言葉が詰まり二人の間にしばしの沈黙が流れ、思考が追いついたのか口を開いた。
「つまりお前は、誰が能力者かわかる能力をもっているわけか」
「条件はありますけどここを使えば」
自分の鼻を指で数回小突いた。こういうのは頭とかにやるものだと自分でも思うが、実際頭より鼻の方が役割としては重要だ。
「なかなか面白い能力じゃないか、お前の能力について詳しく―――」
男の発言は電話の呼出音によって遮られた。僕のではない。彼の携帯のものだ。
男は僕にも聞こえるほど大きな舌打ちをして電話に出た。彼は携帯を耳に当てたまま黙り続けると、すぐ行く。と言って会話を終えた。
「悪いな、仕事が入ったみたいだ」
「仕事ってスーパーでやってたあれですか?」
「あれは本業、今からのは副業。平和に貢献してくるんだよ」
冗談っぽく言うと席を立ち机に紙切れをほかった。
「俺の名刺だ。暇な時に電話しろ、お前の能力について詳しく聞きたい」
と言い捨てて男は早歩きで立ち去った。
名刺には「八神 尭羅」と書かれていてその下には電話番号らしき数字が羅列されている。
能力について詳しく聞きたい。なんて素晴らしい響きだろう。そしてなんだろうこの必要とされてる感は、これはもしかしたら能力が役に立ったりするんじゃないか?
有頂天になり受け取った名刺を財布の中に大事に保管することにした。
日付をまたいで15日に突入しました。14日ではいなかった尭羅も登場して今回のシリーズはどんどん盛り上がっていく予定です。
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