高校生能力者の商売 2
10時12分
客が来ない。真さんと境夏さん以降も誰1人として客は来ていなかった。ここまで来ると僕は道端の石ころと何ら変わらなくて、みんな視界の端に入るだけでちっとも気にされない存在。
「やっぱり足のこと言うのはまずかったかな」
そう呟き境夏さんの事を思い出す。あまりにも言うことが無かったからつい言ってしまったが案の定触れてはいけない所だった。落ち着いて考えればわかっただろうに。しかし思わぬ豊作だったのは僕は過去の怪我等も匂いでわかるという事だ。境夏さんが特別だったのかもしれないけど、一応ノートにその事を追加しておこう。
そう言えば看板の一つも立てていなかった。今の状態では何屋か分からないだろう。ノートの新しいページに大きく【健康診断】と書き込んだ。値段は……始めたばかりだから100円でいっか。必要事項を書き終えると文字が見えるように机に立てた。案外看板があったら人が来るかもしれない。……いや、やっぱり来ないだろうな。
12時12分
「あの、すいません」
「Zzz...あ、はい!」
呼び掛けられ目が覚めた。
「健康診断を受けたいんですけど」
「は??あ、すいませんどうぞ」
客はスーツをきた痩せ型の男。嗅がなくても落ち込んでいるのを察した。
「あの、失礼ですけどなんでこの健康診断を受けようとおもったんですか……?」
尋ねると男は鼻で笑った。
「健康診断を受けたせいで会社をクビになってね、ならもう1度受ければ活路でも見つかるかな…って思ったんだけど」
僕がそうなったら一生健康診断なんか受けたくないけど。
「じゃあ、片手を出してください」
2度目ということもあり先程よりも手馴れた手つきで嗅ぐところまでもっていった。
「失礼します」
鼻でおもいっきり吸い込むと彼の情報が頭に流れ込んできた。
35歳、低血糖気味、鬱、と言うより相当落ちこんでいる。そして、微弱だけど能力者特有の匂いも持っいる。
「お客さんは低血糖気味で相当落ちこんでいます。……あと能力者なんですね」
客はしばらく何も言わず下を見ていた。やっぱり能力者とか言うのはまずかったかな。
しばらくして男はうっすらと笑い始めた。
「君も若いのに大変だな。こんな駅前で健康診断なんて。しかも顔を近づけただけでここまで分かる。君も能力者なんだろ?じゃなきゃ今のは説明がつかないからね」
「確かに、今のは能力を使いましたけど……」
「やっぱりか……フ、フフ……」
男は口元を抑え笑うのを必死で耐えている。
「何かおかしいですか?」
「さっき僕は健康診断のせいでクビになったとか言ったけど、本当は僕自身が能力者になったからだ。能力のせいで職を失ったんだ!しかし君はどうだ、能力で健康診断なんてやってる。僕は能力で仕事を失くして、君は能力で仕事を得た。そう思うとなんだか馬鹿らしくなってきたんだよ」
遂には抑えきれず高らかに笑い始めた。
しばらく笑い続けると急に冷めたように止んだ。
「……気を悪くしたらすまなかったね、ちょっと気がおかしくなっていたのかもしれない」
男は鞄から財布を取り出し千円札を机に置いた。
「ちょうど小銭が無かったしお礼とでも思ってくれ。活路は見つからなかったけど少し気は楽になったよ」
男は立ち去っていった。
僕って毎回最後が余分なんだよな。境夏さんも足について触れたし、今回も能力について言っちゃうし、終いにはお礼貰うし。でも初めて自分で稼いだお金だ。90%は違うけど10%は自分の稼ぎ。
嬉しい反面、能力のせいで職を失ったんだ!という男の言葉が頭から離れずにいた。
短い話ばかりですいません。最近は忙しくて書く時間があまり取れないのでどうしてもこうなってしまいます。次回は日曜日に更新する予定ですがまだどうなるか未定です。
読んで頂きありがとうございました。
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