感覚共有者のデート
相変わらず自動字下げが使えないので手動でやりました。そのためおかしい部分があるかもしれません。
8月14日 8時30分
人混みの中を俺は駆け足で進んでいた。左腕にはめた腕時計に目をやると約束の時間をもう10分も過ぎていた。これはマズいぞ!そう思うと足の動きは更に速くなった。
集合場所の駅裏の噴水に着くと俺は辺りを見渡し待ち合わせている彼女を探した。すぐに見つかるはずだ。
「真さん。ここですよ」
背後から聞き覚えのある声がしたので反射的に振り返る。そこにいたのは髪を三つ編みにしていて車椅子に乗り華奢な体躯をした少女。
「境夏!遅れてごめんな。ちょっと寝坊しちゃってさ」
「別に構いませんよ、さっき来たばっかりですから」
嘘でもそう言ってもらえると少し気が楽になる。
「じゃあ、行こうか」
俺は車椅子の手押しハンドルを持つとゆっくりと押し始めた。
傍から見たらデートとなるんだろうけど内容はそんな大層なもんじゃない。いつも予定もなく街を徘徊するだけだ。
「毎回街を徘徊するだけじゃ退屈じゃないか?水族館なりどこでも連れててやるぞ?」
「これがいいんですよ。こうして真さんと2人っきりでいられる。これだけで私は幸せなんです。それに水族館なんて行ったら私のことを見てくれないでしょ?」
境夏自身がこの調子なので仕方が無い。
「でも、今日は行きたい場所があるんです」
「おお!なんだ?どこでも連れてってやるぞ?」
8時36分
「行きたい場所って、ここ駅の広場じゃないか」
広場は集合場所から数分の距離にあり、夜になると路上演奏や靴磨きなどがよく行なわれている無法地帯のような所だ。行きたい場所と言うからもっと遠いのかと思っていたが的外れだったようだ。
「あ、あれです。あれ」
興奮気味の境夏が指を指した先には折りたたみ式の机と椅子を広げそこに肩肘ついた青年がいた。どこか見覚えのある顔だと思ってよく見ると、先日引っ越してきた光輝じゃないか。何やってるんだあいつ?
俺は車椅子を押しながら光輝の元へと向かった。
「何してんだよ光輝」
「ん?あ、真さん……それとさっきの……」
「真さん、お知り合いの方なんですか?」
境夏が俺の顔を見上げそう問う。
「ああ言ってなかったな、昨日アパートに引っ越してきた光輝っていう子だよ」
境夏に説明をすると、次は光輝が俺に疑問をぶつけてきた。
「真さんはえっと、その……車椅子の方とどういう関係ですか?」
どういう関係と聴かれると答えに迷ってしまう。女友達?幼なじみ?どれも当てはまりはするが型にちょうどはまるというわけじゃない。
「如月境夏といいます。真さんとはお付き合いをさせて頂いてます。結婚を前提の」
「それは言い過ぎだろ!特に最後!」
「でも、よく出かける異性をカップルと呼ぶのは間違ってはないでしょ?」
境夏がいたずらっぽく笑う。確かに間違ってはないが……、俺らの関係はそんな綺麗なものではないだろう。
「それで、光輝は何してるんだよ」
今度は俺から問うと光輝はここにいる経緯から健康診断を始める迄の事を説明してくれた。
「健康診断?客は来たのか?」
「予想はしてましたけど白い目で見られるだけで誰も来ませんね」
路上で健康診断なんてする奴いないだろ……。それなら物乞いでもした方が稼げそうだ。
「私も手品などなさるのかと思っていました……」
ここに来たがった境夏にまでそう言われたら光輝が可愛そうだろ……。
「なあ境夏、一応受けてみたらどうだ?」
「でも私悪いところありませんよ?いつでも健康体です」
「それをハッキリさせるのための健康診断だろ。光輝の能力すごいからさ」
「時間はかかりません。匂いを嗅げばすぐわかります」
「…………それじゃあ…」
「ありがとうございます!……えっと…どうしようかな……。じゃあ、右手をこちらに」
おどおどしく震え声で言うと、境夏は少し抵抗がありそうだが言われた通りに手を差し出した。光輝は境夏の手に顔を近づけるとその場でしばらく止まり、そして元の状態に戻った。
「えっと…境夏さんでしたよね?病気はありません………。その足は……生まれつきというわけではないですよね?だいたい……3、4年位前……違いますかね?」
「…………そうですね、あってますよ」
境夏は手を戻すと顔は俯きそれ以上何も話さなくなってしまった。光輝も彼女の態度に困惑している。
「じゃあ光輝、俺らは行くけど頑張れよ!」
そうやって急ぎ気味に別れを告げると車椅子を押し始めた。
「大丈夫か?」
「……大丈夫ですよ。ちょっとあの時の事を思い出しただけです……」
あの時……忘れもしない3年前の事だろう。あの日が俺らの全てを変えた。それからも彼女はしばらくは俯いたままだったが突然顔を上げた。
「なんて、落ち込んでても仕方ないですよね……。せっかく二人でいられるんですから元気だしましょう!」
「おう!そうだな!」
境夏に笑顔が戻るとたわいも無い会話が始まった。しかし、彼女が必死で笑顔をつくったのかと思うと自分を情けなく感じた。
12話くらいから登場はしていた境夏ですが意外と真と関係があります。どんな関係かはそのうちわかるとして。
読んでいただきありがうございました。
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