自己時間停止少女の事情 3
13時15分
「それじゃあ検査を始めるよ」
私と白い天井の間を機械が何度か往復する。何度も見慣れた光景だったがいつやってもワープホールがあるならこんな感じなのだろうか?などと考えてしまう。
「じゃあ、目を瞑ってくれ」
先生の声が壁についたのスピーカーから聞こえてきた。
【目を瞑る】この誰にでもできる行為が私にとっては成長期するために、そして生きるために必要なことなのだ。
目を瞑っている時だけは私の能力も対象外。私の時間は電池を得たおもちゃのように動き出す。つまり、体が成長していくのだ。
言われるがままに目を瞑った。
体の時間が流れ始めたという感覚はない。でも、いつもと違ってどこか体が火照るというか、弱火で熱せられてる感じがした。
……熱でもあるのかな?
16時28分
「検査はこれで終わりだよお疲れ様、逢莉ちゃん。結果はもう少し待ってくれ」
あの後、私の数倍ほどある大きさの機械につながれたり、色々な物を貼られたりと忙かった。精密検査も終わり、今は私の病室でゆったりとベットに腰を下ろしていた。
「あなたはこんなところにいてもいいの?」
「大丈夫、大丈夫、後は機械とかが勝手にやってくれるから」
先生は私に湯気のたったマグカップを渡してきた。私はそれを口元まで運び中身をすすった。
「げっ!なにこれコーヒーじゃない!」
「あ、ごめんごめん、まだ飲めなかったね」
慌てる先生に私はマグカップを返した。舌はまだまだ子供なのだ。コーヒーをグビグビ飲んでる大人は理解に苦しむ。
「そう言えばね、僕が診察したわけじゃないんだけど、さっき変な患者さんが来たらしいんだよ」
と言うと先生はグラスを渡した。今回のは色から言ってオレンジジュースだろう。
「スーツを着たポニーテールの女らしいんだけどね、右手に結構ひどい火傷を負っていてそれを診てもらいに来たらしいんだ」
それを聞いて蛍のことを思い出した。彼女も同じような見た目をしていた気がする。
「それでね、火傷を負った理由が変な話でさ「女の子の腕を掴んだら火傷した」って言ったらしいんだ。それを聞いた時は笑っちゃったよ。理由が言いたくないにしろもっとまともな嘘をつけよって話だよ」
言い終わると先生は声を出して笑い始めた。
火傷?蛍はあの時火傷なんてしていなかったが、その女が蛍と同一人物だとするなら女の子と言うのは……。
そんなことを考えているとふと蛍との会話を思い出した。
「先生、私はいつになったら退院できるの?」
質問をした瞬間に先生の笑い声はピタリと止んだ。
「外に出たいのかい?」
私は黙ってコクンと頷いた。
「そうだな…………」
その時、先生の白衣からピピピっとアラームが鳴った。
「おっと、ごめん。結果が出たみたいだ。そこで待っててくれ」
と言うと先生は病室を急ぎ足で出ていく。
病室には私1人だけになり小さくため息をついた。本当は退院なんて出来ないことは知っているのだ。今まで何人もの医者に同じ質問をしたが、みんな口を揃えて「もうすぐ出られる」と言うばかりだ。それが何年も続いている。もうすぐとはいったい何年後のことなんだろう。
部屋の外で子供達の和気あいあいとした声が聞こえた。あの子達はきっとどこまでもいけるのだろう。でも私はまだこの鳥籠から出ることすら出来ない。
「いいな……」
そんなことを考えていたせいか無意識のうちに出た本音。
「その願い私が叶えてあげましょう……」
何処からともなくうめくような声が聞こえた。
「だ、だれ!?」
フフフフと言う不気味な笑い声が聞こえた瞬間ベットの下から手が伸び、這い上がるように体を出した。
「ふう、さっきぶりですね、逢莉さん」
「ベットの下から出てくるとかトラウマになるじゃない!いつからいたのよ!?というか、なんでいるのよ!」
「まあまあ、落ち着いてください。それよりも逢莉さんは外の世界に行きたいんでしょ?なら私が連れて行ってあげますよ」
そう言うと彼女は包帯の巻かれた右手を差し伸べた。
「ふんっ!どうせ組長になれとか言うんでしょ?あたしには組長の能力とかはな……」
「あります!」
私の言葉は途中でかき消され、彼女が一寸の迷いもなく断言した。
「鳳京様は炎を自由自在に操りました。逢莉さんもまだ気づいていないだけで同じことができるはずです」
彼女はゆっくりと右手の包帯を取り始め、露になる右手の無残な火傷跡。私の中で朝のシーツのことや彼女の火傷、そして鳳京の能力が繋がり一つの確信が生まれた。
「…………でも、私でいいの?」
私の問に彼女はゆっくりと答えた。
「いいえ逢莉さん。あなたじゃないといけないんです」
私は彼女の差し出された手をとる。きっと激しい痛みがあるはずなのに全くそんな様子を見せずただ私を見つめていた。
この選択が間違っていたとしても今はただ…………彼女を信じたい。そう思えた。
16時45分
病院の白い廊下を逢莉から先生と呼ばれていた医者は早歩きで病室へと向かっていた。
「大変だ逢莉ちゃん!」
そう言いながら部屋に入ったが彼以外誰もいない。
ただ夕日が窓から差し込み、セミの声が部屋に響いていた。
23話連載して同じ2日間を繰り返していますが逢莉の話に区切りがついたら14日にいく予定です。あくまでも予定ですけどね
まだ名前の出ていないキャラもいますし早く書きたいです
感想等ございましたら気軽にお書きください。
読んでいただきありがとうございました。




