自己時間停止少女の事情
その夜、空から一つの物体が落ちてきた。
それは、未知のウィルスを乗せた隕石でもなければ、地球を侵略するために来た宇宙船でもなく、はたまた世界の命運を握る少女でもなかった。
けれども、それらと同じ位に重要な物。
その物体は球体で手に収まる程度の大きさだった。
その物体は生物のように熱を持っていた。
その物体には生きんとする意志があった。
そして、ある病院の窓にユラユラと入っていく。
8月13日
カラフルな花が咲き乱れる丘で私は誰かと手をつないで歩いていた。何の花かは分からなかったけどとてもいい香りがした。手を繋いでいる人を私は見上げていたが顔はモヤがかかったように見えない。
これは夢なんだろうなと思った。なぜなら、こんな沢山の花が咲く場所に行ったこともなければ誰かと手をつないだことさえなかったから。
そう自覚した瞬間その人は私の手を離しどこかへと消えた。そして突然、胸の辺りが何本の針に刺されたように痛くなり、辺り一帯の花に火がともり轟々と燃え始める。
8月13日 7時31分
飛び上がるように起きると私は全身に汗をかき、目の前には何千回と見た病室の壁があった。
「逢莉さーん起きてくださーい」
看護師が病室の仕切りを開けて入ってくると何かに気付き驚愕の色をみせた。
「逢莉さん!?どうしたんですかこれ!?」
「は……?あ!?もしかして……?」
また漏らしたのかと思いゆっくりとシーツに目を向ける。けれども目の前にあったのはもっと奇天烈なもので……。
「病室で火遊びなんて考えられません!!」
そこにあったのは隅が黒くなり所々破れているシーツや布団だった。鼻を近づけると焦げ臭い。
「え!?私火遊びなんかしてないし、ライターすらもってないわよ!?」
「じゃあなんでシーツが焦げてるんですか?おかしいですよね?とりあえずシーツを取り替えるのでベットからちゃっちゃと降りてください」
これが患者に対する口の聞き方?冷たくない?ちょっと泣きそうになったわよ?だけど言い返す言葉もなく、私はベットから降りようと年の割には小さすぎる体を動かそうとした。が、その瞬間胸に激痛が走り反射的に手で押さえる。それを見て看護師も心配してか側にかけよってきた。
「大丈夫ですか!?もしかして持病の発作が!?」
「そんな持病もってないわよ……。ちょっと……みてくれる……?」
苦痛のあまりはっきりと話せない私を看護師は慌てながらもゆっくりと横にして服をたくし上げた。
胸にあるそれを見た看護師は驚きのあまり絶句し、私も首を曲げて自分の胸を見る。―――そこには全く凹みのない綺麗な円型を描いた火傷の跡だった。
「な、なんですかこれ……?つ、ついに自傷行為ですか?火傷なんてハードなことしますね……。これにはドン引きです……。自傷行為って言ったらやっぱりリストカットですよ?これがオススメです。こんな火傷が胸にあったらいざ本番となった時に男性萎えますからね?」
「お前の発言にドン引きだよ」
なんだこの看護師。ふつう患者にリストカットすすめる?
「今から朝の検査ですけど受けれますか?」
「まあ、大丈夫よ。驚いただけで今はそこまで痛くない」
そう言うと看護師は黙って私の服を整えて起き上がらせてくれた。
私はベットから降り、検査のために診察室へと向かった。
どういうことよ?私はただ寝てただけなのよ?それが起きたらシーツと布団は焦げてるし、私が火遊びしたことになってるし、謎の火傷跡がついてるし、今でも充分おかしな私の体がついに火でも吹き始めたわけ?
7時52分
私が診察室のドアを開けると中には白衣を着た若い男性がデスクに向かって座っていた。
その男は私に気づくと椅子をこちらに向けた。
「やあ、逢莉ちゃん。君が来るってことはそろそろ8時か」
「その通りよ先生」
私は先生と呼んだ男の前の椅子に腰をかける。
先生は私の顔を見てニヤニヤ笑っていた。
「なによ?人の顔がそんなに面白い?」
「いや?君の顔に見とれてたってのもあるけど、看護師さんから聞いたよ〜?この病院を燃やすためにシーツに火をつけたけどうまくいかずその腹いせに自傷行為にはしりメンヘラデビューしたらしいね」
「そんな事言うとまたロリコン呼ばわりされるわよ。あと真実は何一つ伝わってないことがわかったわ」
「それでも自分の体は大切にした方がいいよ?おばあちゃんになっても残るんだからね」
「それは私がおばあちゃんになれないことに対する皮肉かなにか?」
私の発言に先生が微笑む。相変わらずムカつく男だ。
「それじゃあ検査を始めるけど、なにか体調に変わったことは?」
「体調はいつも通りよ。でも、聞いてると思うけど…」
私は服を胸の辺りまで上げ先生に火傷跡を見せる。
「今日起きたらこんなものが出来てたわ」
先生は火傷跡に顔を近づけマジマジと見始めた。「医者が患者の胸の辺りに顔を近づける」これだけ聞くと一発で逮捕だろう。先生は顎に手を当てしばらく沈黙を続けた。
「うーん、逢莉ちゃん。本当にこの火傷は朝おきたらなっていたのかい?」
「そうだけど?寝る前まではなかったわよ?」
「でも、この火傷が昨日の夜なったとしたらここまでは治るはずがないよ。これはほぼ完全に治ってる。そう考えるとこれが火傷なのか怪しくなってきた」
「怪しいなんて言ったらシーツが焦げてたのもおかしな話じゃない」
「きっと、そのことと関係してるだろうね。いやそう考えるのが普通だろう。逢莉ちゃん、午後になったら精密検査をやろうと思うけどいいかい?」
「え、ええ。別に構わないわよ?」
「ならよかった。検査まで朝食なりとっててくれ」
そう言うと先生は机に向かい私の資料に何かを書き始めた。きっと精密検査のことを書いているのだろう。
「君の資料を見る度に同い年ということに驚かされるよ。見た目はまだ小学生なのに」
「うるさいわね。そういう能力なんだから仕方ないでしょ?私自身これが能力なんて思ったことは1度も無いわよ。ただの病気よ」
そう言い残して私は診察室から出ていった。
8時07分
私は朝食をとるために食堂へと向かっていた。
「食堂までは受付の前を通らないとね」
8時にもなると診察に来た人達で受付前の椅子はほぼいっぱいでとても混雑していた。
「なんで会わせてくれないんですか!」
受付の方から大声が聞こえた。毎日1人はこういう奴はいるものだ。そう思いながら私は声のした受付を見た。
スーツに身を包み髪型はポニーテールの女性が受付にむかって怒鳴っている。その声は辺り一帯まで響いていてほかの人達も迷惑そうだ。
触らぬ神に祟なしと思い、見なかったことにしてその場を立ち去ろうとした時その女性がこちらを見る。するとその女性は受付になにか言うとこちらに向かってきた。そして、私の前で立ち止まると片膝をつきこう言った。
「お会い出来て光栄です。そしてお迎えにあがりました。新組長」
題名で軽いネタバレがありましたが、逢莉の能力とか状況がイマイチわからないと思います。そこら辺は次回わかると思うので少々お待ちください。




