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フレームガリバーと百万の死  作者: 新藤 愛巳
21/29

劇団イモ洗い座

 こいつは昔、サーペントに毒を盛られすぎて馬鹿になったのかもしれない。

 俺は立ち止った。


「じゃあ、ウナギはどうなの?」


「ああ。ウナ重は食べられませんがなにか!」


 由香里が不思議そうに首をかしげる。


「あら、ウナ重ってなにかしら? カチュカバロかしら? 生ハムかしら」


 さりげなく贅沢だった……。


 俺なんかココミのプリンも自分で製造していたのに、高いから!

 比奈子が笑う。


「ふふふ。由香里ちゃんの疑問を解消するね! ウナギとは蛇のように長くておいしい生き物ですぞ」


 比奈子はとあるウナギ料理の写真を見せた。郷土料理ウザクだ。

 功士は白眼をむいて青ざめた。胸をかきむしってうずくまり、肩を震わせる。


「うお、毒を盛ったな。皓人さん……」


「功士、食べたのか? 食べてしまったんだな! ウナギ料理」


「そう言えば切ってあったんだよ。細かく切ってあったんだ。うう、目がかすんできた。圭吾、俺はもう駄目だ……」


 ほ、本当か?

 苦しみ方が尋常じゃない。


「功士、吐け、吐くんだ! 早く病院に!」


「無理だ。摂取したのは3日前だ。なぜ教えてくれなかった! 笑顔の皓人さん!」


(それ、わざとだ)


 俺たち三人は硬直した。立ち上がる。


「功士。3日前ならもう消化されているよ。血肉になっているよ」


「本当にね」


 由香里は功士を指でつつく。功士は力なく畑に転がった。


「死ぬ……死んじゃう……」


 見かねた比奈子が功士に手を伸ばす。


「功士くん、食べず嫌いだよね? 本当はとっても美味しかったんじゃない?」


「あ、比奈子さんの両手を握ったら、なんだかもう平気に!」


 気分の問題だった。俺たちは静かにイモ堀りスタンバイをした。

 功士がスコップを逆手に握る。


「よし、気を取り直して比奈子さんにいいところを見せるぞ!」


「どうやって?」


 もうなんだか色々台無しの気がするんだが。


「そう言えば圭吾、今日は悪魔女がいないですね」


「うん」


「あの部品は特別なのですか? 自分の意思で動く悪魔なんて……」


「そうかも。目を持っていたから……反応したのかも」


「目を。すっげー、一〇〇年に5人生まれるか生まれないかのレア人間か……。いる所にはいるんですね」


「目って、そんなにすごいの?」


「発現すると、神通力がほぼ底なしになって、魔人を逆位置にして戦えるほどすごいらしいですよ」


「それって、そんなにすごいの?」


「たりめぇです。逆位置の魔人は最強! どんな心獣でも蹴散らせる。でも、それ相応のリスクも生じる。それが地獄の燃料切れです」


「目が発現したらどうなるんだ?」


「目を使い果たしてしまったら人は悪魔になる。言い伝えです」


 功士はジャガイモを積み重ねた。


「そういえば、圭吾は前に裏切り者を探していると言っていましたよね」


「ああ」


「見つかりましたか?」


「ううん。まだわからない」


 俺は静かにイモを掘り起こす。


「良かった。クラスの中から追い出される人間を見るのは辛いですからね」


 功士はあちこち渡り歩いているくせに本当に辛いんだろうか?

 俺としてはクラスメート全員が敵に見えて、まだ話しかけられないのが現状なのだが。


「功士は人気者だね。男子に」


「どこかに、俺のファンの女子はいないですかね?」


「聞いた事もないよ」


 功士は遠く比奈子を見つめた。


「比奈子さんはいい人ですよね。俺が学校で迷っていると、案内してくれたんです。おかげで遅刻せずにすんで、校庭二〇周も免れて……」


 俺はこの前、さぼって走らされた二〇周を思い出した。死ぬかと思った。人間さぼるものじゃない。楽をするとしわ寄せがやってくる。知らないうちに、忍び寄ってくる。

 俺が眉を寄せていると功士が比奈子を指さした。

 彼女と由香里は遠くで楽しく笑い合っている。


「比奈子さんは、元走者候補だったそうです。」


 彼女が整備をしながらも魔人に関わりたいのはその辺の事情なんだろうか?


「比奈子はいい奴だね。僕の弟とも仲が良かったみたいで……」


「圭吾の弟も圭吾みたいな性格だったんですか? 俺様だったんですか?」


「俺よりも、もっとずっと、優しくて、いい奴だったよ」


 俺は力いっぱいスコップを土に沈める。


「功士は勝った方がいい。でないと、家族と男たちが悲しむ」


「せえいー」


 功士は俺の掘ったイモをボウリングのように転がした。


「その言い方は悲惨さ満載! 愛されてないから、ヒーローなだけだから。しかし、俺は必ず勝ちます! どんな局面でも! たとえイモ掘りでも!」


 三十一歳はノリもよかった。遠くで比奈子が手を振っている。


「やあやあ。私たちはもう2箱掘ったよ。イモ堀名人だよ~」


 由香里は泥だらけの頬で穏やかに微笑む。


「さあ、私たちとあなたたち、どちらが勝つのかしら。楽しみね」


 俺たちは沈黙した。


「すみません、負けました……」


「わっはっは、いさぎよいね。諸君たち」


 比奈子は嬉しそうにイモを掲げ、由香里は比奈子の前に優雅にひざまずく。

 変なミュージカルのようだった。俺は頭を抱える。


「ダメだ! 劇団イモ洗い座だ……!」


「素敵……やりたいわ、劇団イモ洗い座!」


 由香里の頬が赤く染まる。比奈子もうれしそうに両手を広げた。


「すごいね。オリオン座のような響きだね! ね、功士くん」


「オリオン座より、罰ゲーム3時間、正座の響きです! 比奈子さん!」


「僕たちは死んでもそれに参加したくないよ……」

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