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フレームガリバーと百万の死  作者: 新藤 愛巳
16/29

戦果

 俺は必死で走る。


「くそ。たどり着くまでに、ばてそうだ!」


 毒地を走っている気分だ。体力がどんどん減っていく。俺は疾走した。走って、走って、たどり着き、心獣に蹴りをかます。俺が蹴り飛ばした心獣がビルにぶつかり、建物ごと砕け散る。これで一匹。心獣は消し飛ぶ。

 皓人からの通信が入る。どうした? あがめたいのか?

 モニターに恨めしそうな憂鬱顔がアップになった。


『この破壊神、人類の英知を壊しましたね……新築代マイナス1億』


「ちょっと待て! 好きで壊したわけじゃあ……」


 次の『地獄の番犬』が襲いかかる。サウザードの装甲を食い破り、肩口に牙が届く。


『あーあ。今度は魔人を傷つけましたね。修繕費マイナス3百万』


「うう……」


 俺の肩から血が溢れる。冗談じゃない!

 俺は剣を逆手にかまえた。サウザードの肩から、長い牙を引き抜く。


「実戦なんてほぼ初めてなんだよ。皓人、お前も命懸けで戦ってみろ」


 皓人は口をゆがめ、俺を見つめた。


『ベテランの戦いをしばらく、見ていなさい。そのためにあの二人を呼んだんだ』


 俺に戦いを覚えさせるためにか? そんな風に聞こえるが。


『我々は君の悔しさを買っています』


 俺は静かに戦いを傍観した。敵は『地獄の番犬』の群れ。

 功士のガリューンは広い道路で心獣に突進した。その杖は稲妻を纏う。

 『地獄の番犬』をいなして、煙のように消し飛ばしていく。早い。


「皓人……あれはどうなっているんだ?」


『高速の験力。それが功士君の強み。直線なら負けナシです』


 将棋の飛車のようだ。無敵じゃないか。


『次は委員長を見てください』


 重く不格好な鉛の鎧を身につけたエリダバルドはのろのろと『地獄の番犬』を追う。

 防具など外せばいいのに。まるで将棋の金だ。由香里は瓦礫が重なる敷地に『地獄の番犬』たちを押し込めた。

 そのまま、壊れていた建物を元通りに組み上げる。出来上がった建物は『地獄の番犬』と一緒に爆発した。心獣たちは霧のように消えていく。何やったんだ?


『すごいでしょう。彼女の験力。アゲイン』


「どんな原理なんだ?」


『昔の戦闘で壊れた建物を治してそこに魔人を追い込み、元通りの時間を流す。彼女の秘奥義です。質量と質量のぶつかり合いで分子は塵になる。どうですか? クラッシャーの力です』


 ココミは俺に何も教えなかった。俺には験力が無い。


『恥じることはない。覚えておいてください。あなたには偉大なる目の加護が』


「目は絶対、開かない……こんな所、さっさとやめてやる!」


 俺は痛みを堪えて肩の血をぬぐう。皓人は憂欝そうに溜息を吐いた。


『うちの保険会社アイギスと、このドームを支配するマーキュリー社は黒い糸でつながっている。ここを出たら行く所なんてありませんよ』


「だから、国宝になる! 大活躍して一番の国宝になってとっととやめてやる! こっちから三行半押し付けてやる! 皓人! 俺に験力の使い方を教えろ」


 皓人はこめかみを押さえた。


『わかりました。まずは教育費を稼いでください。仕事を回します。2人が狩りそびれた『地獄の番犬』を始末してください。できるでしょう、ザコの掃除ぐらい』


 俺は剣を握った。とりあえず、建造物を壊さないように戦おう。

アストリアは静かに目を閉じる。


「焦らなくていいのです。ゆっくりでも、撃墜王にはなれるのですから」


 生きている限り。彼女の言葉は吐息のようだった。

四匹目を殴り、五匹目を吹き飛ばす。こうして俺の初陣は終わった。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 魔人を降りて安堵した。生きた心地がする。白衣を着た保健委員が俺の傷を調べる。


「ヴィクトリー。戦果、十五匹。あはは。俺の勝ちです!」


 功士が有頂天で叫んでいる。留年馬鹿はのんきでいいよな。


「『地獄の番犬』ばかりだったわね。良かったわ。さっさと終わらせる事が出来て」


 由香里はハッチから飛び降り優雅にお辞儀をした。おっとりした可憐な頬笑み。

 相変わらず、女の子たちから姉様、姉様と、褒め称えられている。

 うらやましい事だ。俺は渡された領収書を見つめて低くうめいていた。


「何だ? これは……!」


 俺は皓人が転送した請求書を眺めて震えていた。幻覚が見える。ゼロが一つ多いぞ。


「ぼ、僕は逃げる敵に蹴りをかましただけなのに……」


 由香里は紙を覗き込む。


「圭吾くん。ビルを5つも壊してしまったら、請求書が来てしまうものなのよ。みんな避難していたからよかったけれど。先輩からの忠告。もっと周りを見なくてはダメよ」


「壊す前に言ってくれ!」


 功士は鼻歌を歌う。


「そんな素敵な忠告をしてくれる由香里は、初陣の時、ビルを一つたたき壊したのだ」


「功士くんは二つだったわよね。私、観戦モニターから見ていたの」


「要するにみんなが必ず通る道なのです」


「そうか……良かった……俺だけかと思った」


 俺はそこで息を止めた。


「そう言えば、エリダバルドの験力って……なんか……治してなかったか?」


「ええ、私の魔法はリフレイン。復元なの」


「由香里! 君がビル直せー!」


 俺が叫ぶと彼女は可憐に手を合わせた。


「復元には大量の魔力を消費するの。あらかじめマークしておいたものなら簡単に治せるけど、心獣はいつ来るかわからないから。全てを直すことはできないわ」


 験力にも法則があるようだ。

 バラバラと市役所でモニターを観戦していた学園のメンバーがピットに戻ってくる。


「功士さん、やっぱりすごいですね! カッコイイです!」


 功士は男子に囲まれて褒美のコーラを受け取っている。眼鏡の男が鋭く俺を見た。


「そういえば向こうのビルで人が大怪我したらしいぞ。名波が間に合わなかったって」


「恐さを覚えるとヨギはすぐダメになるよな」


「心配するな。どうせ、死んだらまた新しいのが来て守ってくれるよ」


 功士がこぶしを作って嫌な顔をした。俺は功士の肩を掴む。


「敵を作る必要はない」


「だけど」


 てめえらいい度胸だな。後で陰惨な方法で闇打ちしてやる。体力ないから!

 近寄ろうとしたら、そいつらの前に由香里が躍り出た。顔を怒らせている。


「どうして走者の事をそんな風に言うの! 私たちはいつも努力しているのよ!」


「大丈夫だ、鷹野。僕は気にしない」


 アストリアは涼しい顔でサウザードの隣に腰かけて歌っている。俺は彼女を見た。


「アストリア。君はこれからどうすればいいと思う」


「自分で考えてくださいね。考える事が陛下を強くします……」


 彼女は呟くと扉を開き、心臓の中に姿を消した。功士が震えている。


「しゃべった! 悪魔が、自分の意思でしゃべった! うわあぁぁぁ!」


「珍しいの?」


「俺の所はサポートだけで……。ううぅ、ありえない! 部品がしゃべるなんて!」


 由香里たちは神妙な顔でサウザードを見ている。俺の考える事か……。


「由香里。どうして走者同士は協力しないんだ?」


 個人プレイばかりでは能率が悪いと思うのだが。功士は勢いよく首を振った。


「世の中は早い者勝ち。世界は愛と金で出来ている。コーラが飲みたい者にはコーラが与えられる。もちろん、コーラを飲もうと一番、努力した人間に限られる……」


「そうね。私も、記念品が欲しいだけだし、協力はできないわ。圭吾くんは国宝になるんでしょう? 私たちはそれに協力できないわ。私だって時々はコーラが欲しいからよ」


 由香里は上品にミネラルウオーターを飲み干す。俺は煙の上がる街を見つめた。


「早く倒せば、もっと被害も減らせると思うんだけれど……」


「ガリューンの特性は突進。団体行動には向きません。無理、無理!」


「じゃあ、由香里は?」

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