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フレームガリバーと百万の死  作者: 新藤 愛巳
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通説

 鷹野由香里はクイーンオブ世間知らずだった。僕よりも上には上がいたわけで、気が楽になった。

 俺たちは先生にこっぴどく叱られた。ヨギはもっと自身を大切にしなさいと。

 結局、俺は大事を取って保健室に入院した。脳波検査、魂検査、こめかみの細胞再生。

 検査も終わり、廊下に出るとポケットに定期交信がきていた。アストリアだ。


『陛下、大人しくしていますか?』


「まあな」


『昨日は屋上で暴れたそうですね』


「情報が早いんだな」


 保険医の先生が皓人に連絡をしたのかもしれない。


『帰ったら、山登りトレーニングが、待っています。ヨギの務めです』


「ああ」


 俺は現在、アイギスで体力をつける訓練をしている。日常に戻るためだ。

 立体映像のアストリアは柔らかく目を閉じた。


『陛下は長谷川比奈子を口説いたそうですね』


「え?」


 俺は呆けた。


「別に……くどいていない」


『そう』


 彼女は静かに俺を見ている。


「どこから聞いた? そんな話」


『あなたは常に監視されています。言動には気をつけてください』


「ありがたくない話だ」


 彼女は掌に小さな黒い物を乗せていた。


『見てください。盗聴器です。皓人がくれました。あなたの事をよく知っておけと』


「監視しているのはお前かー!」


 アストリアは目をしばたいた。


『何か問題があるのですか?』


「あるんだよ。生活音、聞かれたくないんだよ!」


『そうですか』


 彼女はうなずいた。


『では、陛下。川に沈めてください。その制服を』


「ここの制服、高いんだぞ! どこに縫い込んだ! 今すぐ言え!」


『多すぎて忘れました』


「この馬鹿娘~! 俺のプライベートを丸聞きするとは心底、恥ずかしい……! トイレか、トイレの音も聞いたのか! 記憶を失え~!」


 その時、廊下の向こうから体操服姿の長谷川比奈子が現れた。


「やあやあ、名波くん、偶然ですな、暇かね~」


 もしや、聞かれた?

 俺は慌てて通信を切断した。制服の上着を笑顔で雑巾絞りしながら。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 夕暮れの学校。俺と比奈子は学校から延びる渡り廊下を通って、隣の建物に向かう。俺は彼女の後に続く。彼女は小柄だ。あどけなさが残る顔立ちが振り返る。


「比奈子どうしたの?」


 秋のフリを忘れてはならない。比奈子は静かに俺を見つめた。


「名波くん、忠告するね。この学校で、電話はご法度なんだよ。ルール違反なの」


「ごめん、忘れていて……」


「ルールを破る人は、嫌われちゃうよ……」


「もしかして、うるさかった?」


「うん、何を話しているかまでは聞こえなかったけど、体育館にまで響いていたから、名波くんの声」


「ごめん……」


 俺がすまなそうに謝ると比奈子はハムスターのように慌てた。柔らかそうな唇が震える。


「いやあ、責めているわけじゃないけど、私は名波くんがもっとみんなと仲良くなれたらいいと思って。私、みんなで言い争うとか、クラスで孤立した人が出るのは本当嫌で。私は名波くんのことなんて……よくも思ってないし悪くも思っていないの。いいね!」


「うん。わかったよ」


 比奈子はがっくりと肩を落とした。


「名波くんは素直だね。そうやっていつも気づかない」


「え……なに?」


 彼女は切なそうに溜息を吐くと勢いよく俺を見た。明るい笑顔になる。


「ねえ、名波くん。今からサウザードを見にいかない?」


 俺は比奈子の言葉に戸惑う。


「でも授業……」


「今は自習の時間なの。ヨギと魔人を仲良くさせるのはドクターの役目なのですぞ。いざ」


 俺は比奈子に引きずられるようにフレームガリバーのピットにたどり着いた。

 外は普通のオフィスビルなのに中は吹き抜けになっている。魔人は家ぐらいの大きさだが、質量は膨大のようで、そのビルには空に突きぬけた巨大な転送装置が付いている。


「すごい……」


「私も最初はびっくりしたよ。緊急事態にはフレームガリバーをここから転送させるの。いろんなドームの格納庫に」


「召喚はしないの? 召喚ならどこでもすぐに……」


「人間の験力は昔より、減ってしまったの。力が遺伝子しなかったのだよ。才能を鍛える霊山も減って……毎回、召喚していたら、へとへとで戦えなくなっちゃうよ~」


 皓人……! 俺は内心腹を立てながら歩く。誰がヘナチョコだー。みんな召喚したらヘロリンになるんじゃないかー。俺が最初にネルガルドのドームで償還した時嘘を言ったな。


「名波くん。サウザードはどんな魔人なの? 私は魔人が好きなのだよ。強くて、かっこよくって……楽しみだね。……あ、名波くんはもう会っているんだよね~」


 言えない。ライチだなんて言えない。フルーツの王様だなんて言えない。頼む、出てくるな。

俺の目の前にマシンからサウザードがこぼれ落ちる。


「わっほい、旦那~! 卵焼きくれでヤンス!」


 比奈子は絶句した。コロコロコロ……ライチは比奈子の足にへばりつく。すりすり。

 ああ……最悪のタイミングだ。比奈子はライチをつまんだ。


「……何これ、可愛い~。こんな可愛いのは初めてだよ……! おいで~」


 比奈子は嬉しそうにライチ抱きしめる。ヨヨヨーン。お腹の絆創膏を発見し、比奈子はマシンを見上げた。腹部が負傷している。


「うんうん。綺麗に治してあげるね~」


 比奈子は体操服の上に白衣を着こむ。ダブダブした感じが少し幼さを感じさせる。


「よっと」


 彼女は掌に次々と必要な工具を呼び出した。俺は絶句する。


「それ、なに?」


「ああ、これは転送の方陣なのだよ。みんなが持っている験力だよ」


 俺は言葉を失った。みんな持っているって……。ココミは俺にそんな話一言も。


「私は験力をこれしか持ってなくって、でもヨギはもっといろんな事が出来るんだよ」


 俺はアストリアの方陣を思い出した。


「ああ、腐食の方陣とか?」


 比奈子は下を向いた。俺の両肩を掴み、静かに震える声で囁く。


「名波くん、お願い。悪魔の話なんてしないで……!」


「え?」


「誰が聞いているかわからない所で悪魔の話はダメだよ……!」


「いやあ、ごめん。僕……まだ、良くわからなくて」


「その話、みんなの前で絶対しないで、お願いだから」


 比奈子は追加の注射器を呼び出す。俺は静かにフレームガリバーを見つめた。


「……悪魔って何なの?」


「フレームガリバーの部品。コアシステムで眠る人。未来を魔人に奉げた人。悪魔」


「未来を奉げるって、それって悪い事なの?」


「未来を魔人に支払って自分の望みを叶えた人、それが悪魔。奇跡の力を使って罰を受けた人」


「私利私欲か……独善ってわけか」


「代償に悪魔は人の心を失う。私は……私から大切な人を奪っていく悪魔が大嫌い! 悪魔の所為で心獣はここに来るって説もあるくらいだよ」

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