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寒いので犬耳奴隷少女買って暖を取ることにした

作者: イカルガ

連載小説にしようかと思ったのですが、なかなか書き溜まらず、このままでは冬が終わりそうだったので短編にしました。

「あー、寒い」


 今日はこの月一番の寒さだそうだ。俺は朝から晩まで働いて、そして家に帰って寝る、そんな生活を繰り返すだけの毎日を送っていた。そう、昨日までは。


 俺がなぜこんな仕事第一に働いていたかというと、それは金を貯めるためだ。なんのために? そんなこと……奴隷を買うために決まっているでしょうが!


 自分で言っていて悲しくなるが、この世に生を受けてもう20年、俺は今まで女性と付き合った事が無い(男と付き合ったことも無い)。というか、女友達みたいな仲のいい女の子もいない。そもそも、女の子と触れ合う機会が無さ過ぎて、どう接していいのかもよく分からなくなっていると思う。ちょっと前まではそれでも別にかまわないと思っていた。ただ、この冬の寒さがきっかけだったのか、仕事終わりでクタクタになって帰った我が家が外以上に冷えて感じられたのかは知らないが、無性に人恋しくなったのだ。


 俺は悩んだ。とは言っても最初から女の子を口説こうなんて考えは浮かばなかった。そんな勇気を持っているならば、もうとっくに彼女の一人や二人できているだろう。「いかに彼女を作る努力をせずに彼女を作るか」について、俺は脳内自分会議を繰り広げた。その結果、「金で買う」というのが一番手っ取り早く、かつ確実であるという結論に行き着いた。こちらは金を払う、その見返りとして向こうは愛を与える。見事なまでのギブ&テイクではないか!


 買うといっても風俗へ行くのではないぞ、そんな売女なぞこちらから願い下げだ! 俺は体の関係を求めて女を買うのではない! 愛だ、愛の為なのだ! そうだ、俺は愛のために戦おう! と言う訳で、求めるべきは女奴隷だ。クックック、奴隷はいいぞ、なんたってご主人様たる俺には絶対順守、決して俺を裏切らず、暴言を吐かず、陰口も言わず、後ろ指を……おっと、話がそれてしまったようだ。つまり俺は今日、休日にもかかわらず、このクソ寒い昼間に出かけている理由は、奴隷商の元へ行くためなのだ。


 「キシシシ、待っていろよ。この俺の歪ん……純真な愛を受けるがいい……」





 「こちら、人間の女です」


 「そんなことは見れば分かる! いくらだ!?」


 俺は今、奴隷商の元で女奴隷を選んでいた。いやしかし、この「女奴隷を選ぶ」なんて官能的な言葉、まさに俺の非モテ人生20年の集大成ともいえる。ただこの時俺は奴隷の相場というものをよく分かっていなかった。ここ王都には奴隷商館が幾つかあるのだが、その中では今日来たこの奴隷商の店はまだ規模が小さい方だ。俺は開口一番「女奴隷が欲しい、見せてくれ」と緊張を悟られないよう手短に用件を伝えて店内を巡っているのだが、最初に見せられた奴隷が230万サキューしたことに度肝を抜かれ(確かに俺が今まで見た女の中で比べても相当に美人だった。こんな奴隷がいればどれほど幸せだろうとは思ったのだが)、自分の財布の中身を心配しながらの選別だった。


 「はい、彼女は78万サキューです。剣術に長け、魔法も多少は使えるので、冒険者としても使えますよ」


 「うーん……」


 やはり高い。俺の勝手な想像だが、風俗が一回数万サキュー程度らしいから、そこそこの女奴隷を買っても数十万サキューかなと思っていたのだが、現実はそう甘くなかった。


 「お客さん……金額は高いかもしれませんが、彼女だって能力を考えればお買い得ですよ。買う気あるんですか?」


 「買う気はある! そうだ、試しにもっと安い奴隷を見せてくれ、参考までにな!」


 まずい、奴隷商がため息をついている。俺は別に冷やかしに来たのではない、買う気はあるんだ、ただ値段がちょっと高いだけで……。


 「分かりました。地下へどうぞ」


 奴隷商に連れられて地下への階段を下る。どうやら、見栄えがいい奴隷だけ地上においておき、買い手が付きにくそうな奴隷は地下に置いておくシステムらしい。


 「私はここで待っているので、何かあれば声をかけてください」


 おのれこいつ! もはや案内もせぬと申すか! 仕方ないので俺は一人で地下を巡る。しかし、地上と違ってもはやここは牢獄だ。鉄格子と土壁で区切られたいくつかの部屋に数人の奴隷がまとめて入れられている。俺が歩けば奴隷たちは反応してこちらを見上げるが、中には動かない者もいる。そして地下全体が薄暗く、奴隷たちの活気もない。ここと比べると、地上はまだ明るくて、奴隷たちも「買ってくれ!」とある程度のアピールをしてきたので、ここの陰鬱さが知れる。よく見てみると、人間以外に獣人もいるじゃないか。獣人は人間と比べて地位が低く、劣悪な環境で働かされる奴隷は獣人が多い。


 そんなことを考えながら歩いていると、ある獣人の少女と目があった。体が小さくて、汚れていて、服も汚いので何歳かもよく分からない。とりあえず、子供だ。互いにボーッとした目でしばらく見つめあっていると、突然その子がせき込みだした。


 「おい、大丈夫か……?」


 つい声をかけた俺は、その子の手を見てきづいたのだが、吐血していた。


 「どうしました。お客さん?」


 俺の声を聞きつけたのか、奴隷商が面倒臭そうにやってきた。


 「いや、こいつ血ィ吐いてますよ!」


 慌てて言う俺に対して、奴隷商は至って冷静だった。


 「あー、じゃあ後で処分しときますんで、気にしないでください」


 「処分って……まさか殺すんですか?」


 「そりゃそうでしょ、獣人の子供なんか健康体でも誰が買うんだか……ちょっと私、報告しに上へ行ってきますんで」


 そういって立ち去ろうとする奴隷商の腕を掴んで、俺は言った。


 「じゃあ俺がこの子買います! どうせ殺すんだからタダでいいですよね!?」


 あの日見た奴隷商の冷めた目を俺はまだ忘れられない。




 俺はゴネた。ゴネにゴネた。奴隷商側としてもたとえ処分するとはいえタダで売るわけにもいかないらしい。ちなみに正規の値段は18万サキュー。ぶっちゃけると買えなくもない、というか予算の予想範囲内だったが、どうせ殺すなら……と思ったら欲が出た。なんか商館の責任者みたいな人も出てきたりしたけど、俺は一歩も引かなかった。


 「はぁ……分かりました。奴隷の代金は無料でいいです。でも奴隷契約費として1万サキューはいただきます」


 「……よし、分かった」


 勝った、俺は勝ったんだ。奴隷契約費とやらが悔しいが1万サキューで奴隷が買えたと思えば安いもんだ。


 「おい、その奴隷を連れてこい」


 責任者がさっきまで俺を案内していた奴隷商に言うと、そいつは「はい!」と返事した後駆け足で地下へ向かった。なんてキビキビした動きだろうか。その熱意をお客様にも向けてほしい。


 「しかしお客様、死にかけの奴隷を買ってどうするんですか?」


 責任者が意地の悪そうな笑みを浮かべて俺に問いかける。俺が答えようとしたとき、丁度さっきの奴隷商が少女を連れて帰ってきた。その獣人の少女は見るからに衰弱しており、本当にいつ死んでもおかしくないのではないかといった状態だ。


 「死にかけの奴隷を買ってどうするのか、と聞きましたよね。……こうするんです」


 俺はその子に近づき、右手をかざした。同時に俺の右手が白く輝き始めた。その柔らかな癒しの光はその子の全身を包み込み、目に見える汚れ、怪我そして負のものを浄化していった。俺は加減を見て右手を離し、その子を抱きかかえた。落ち着いた寝息をたてている。


 「まだ全快とはいきませんが、もう死にかけじゃあないでしょう?」


 「これはこれは、お客様は聖魔法使いの方でしたか」


 「ええ、王都第2診療所で医者をやってます」


 そう、俺の秘策はこの聖魔法だ。「お金が無い→目の前に死にかけの奴隷が!→あれ、タダで貰って治せばお得じゃね!?」作戦見事成功という訳だな。


 「お客さんが医者というのなら、無料で奴隷を渡すわけにはいかない!」


 おやおや、俺が聖魔法使いと知って奴隷商が吠えておるわ。


 「何を言っているんですかァー? もう奴隷売買誓約書は交わしたんですよォ?」


 俺はアヒル口でそう言った。実際もう契約は完了しているわけだし、後でとやかく言うのはお門違いだろう。


 「確かにそうです。もうこの契約は結ばれたものです」


 責任者のこの一言で、奴隷商はすっかり黙り込んでしまった。かくして俺は格安奴隷を手に入れることができたのであった。





 家への帰り道、俺は奴隷契約を結んだ先ほどの少女にフードをかぶせ、背負って歩いていた。この世界には大きく分けて4つの種族がいる。人間族、獣人族、魔族、妖精族だ。現状最も栄えているのが人間である。魔族、妖精族は個体の自体の力は高いが、個体数が少ない。獣人族も個体数が少ない上に、人間に比べ身体能力に長けるが魔法能力に劣るので、捕えられて肉体労働用奴隷に使われることが多い。


 まぁそんな事情もあり、獣人を他種族と比べて下に見る人も少なくない。俺がフードをかぶせているのも、念のためだ。


 そういえば女の子用の服とかって無いなぁ。いや待てよ、服いる? 裸でよくね? 裸に首輪だけつけてさ、鎖もつけてさ、引っ張って呼ぶんだよ。「おい、近こう寄れ」「ご、ご主人様ぁ……」みたいなさ、そ、そしてさ、たまにはさ、ゴクッ……、外へ散歩しに行くんだよ。外の寒さと恥ずかしさで真っ赤になってフルフル震えてる奴隷少女の首輪を引っ張って「んー、歩かんと終わらんぞォ?」とか言ってな、「は、はい、ご主人様」つって必死に前を隠しながら歩き出すんだが、俺は鞭を振るって「犬は四つん這いだろォが!」ってなもんで……


 「いや止めだ、我ながらゲスだな。さっき愛のために戦おうとか言ってたのに」


 そんなことを考えているうちに家に着いた。俺はベッドに少女を寝かせ、フードを取った。


 「しかし、かわいい犬耳だな。ちょっと失礼」


 俺は彼女の頭から生えている犬耳に触れた。おお、これはまた結構なもふもふ感ではありませんか。さすが天然毛皮、いつまでも撫でていたくなる。あー、これはいい、最高のさわり心地、癒され……


 「あの……」


 「ん?」


 気づいたら少女が目覚めていた。おや、頬をちょっと赤く染めている。この間も俺はモフっていた。


 「えっと……」


 なんだろうモジモジして。俺が耳を触るのに合わせて体をピクッと反応させるし


 「なるほど、目が覚めたらこんな状況だから戸惑っているんだね。簡単に説明すると、俺が君を買った。今日から俺が君の主だ」


 「あ、そうなんですか、んっ、みみ……」


 「耳?」


 俺が耳から手を放すと、顔を上気させて息も荒いが、身体の反応は止まったみたいだ。どうやら耳は弱いらしい。いいことを知った。


 「あふっ……えっと、これからよろしくおねがいします。ごしゅじんさま」

 「うん、こっちこそよろしく」




 「あ~ぬくぬく。心も体も」


 「……」


 少女を買った日から3日経った。あの後名前を聞いたのだが「なまえ?……“おまえ”とか“いぬ”とよばれていました」と涙腺を刺激することを言うので、俺が新たな名を授けてやった。奴隷少女改め「サラ」だ。理由は俺の故郷では冬のある区間のことをキサラギと言い、そこからもじってサラだ。


 そして今、俺はサラを抱きしめながらコタツに肩まで潜っている。ちなみにコタツというのは、この王都には元々ないものなのだが、東方の地域で使われているらしい暖房器具だ。4本足の机に布団を被せ、中に火魔法の魔石をセットして発動すれば、中がとっても暖かくなり、一度入ればもう出られない悪魔の箱になってしまう。


 「サラ、どうだ? ちなみに俺はとても幸せ」


 「ごしゅじんさまがしあわせならサラもしあわせ」


 「こいつ、嬉しいことを言いやがる!」


 「あうう~みみさわんないでぇ」


 俺は今までこのコタツに一人で入っていた。万が一彼女が出来たら自慢して二人で入ろうと思っていたが、いつまで経ってもその当てがなかった。確かにコタツは暖かい。身体はポカポカだ。しかし、心は、ハートは冷たいままだった。いくら身体を暖めても、心は満たされなかった。やはり一人ではだめなのだ。誰かがいないと、だめなのだ。


 「お前を買ってよかったと、心から思う。こんなに満たされた気持ちは久しぶりだ」


 サラもコタツが気に入ったようで、とろんと眠そうな目をしている。犬は寒くても外を走るイメージがあったが、あれは嘘のようだ。コタツの魔力は万国共通らしい。


 しかし、女の子を抱きしめてコタツで寝転がるなんて、わが生涯に一片の悔いなしだ。最初は俺も「獣人ってどうなの?」って思ってたが、いやぁいざやってみると、このもふもふ感、たまらんね。まず耳がもふもふ、犬耳もふもふ、あの後お風呂でしっかり洗ったら結構キレイな毛並みになった。もうねサラッサラ、サラの毛サラサラ、あと耳の内側とか特に弱いみたい、一度くすぐったらビクッと震えて涙目でこっち見たの、もうね、なんなの、かわいい。そして尻尾ももふもふ、ご機嫌になるとふりふり揺れるらしい。一方眠くなると垂れ下がるの、一回触ったらビクッと震えてキッと睨んだの。でも俺がご主人様だって思い出してアワアワしだしたの、もうね、かーっ、かわいい。


 「ごしゅじんさま」


 「んー?」


 「わたし、あそこでしぬんだとおもいました。いままでずっと、しにたいとおもってました。でもごしゅじんさまがかってくれて、げんきになって、ごはんくれて、わたし……ありがとうございます」


 たどたどしい言葉で、でもちゃんとお礼を言う。ヤバイ、涙腺が。今まで苦しかったのだろう、子供一人だけで牢屋で死にかけるなんて、何かしらの事情があったのだろう、そこで俺が「タダだ。ラッキー」なんて思わなけりゃ……。


 「ごしゅじんさま? ないてるの?」


 サラは俺の顔を覗き込んできた。おっといけない、ご主人様の威厳を保たねば。俺は素早く上を向いた。


 「んー? どうしたの?」


 「なんでもねェよ、てやんでぇ、バーロー、ちくしょ」


 「んー、ごしゅじんさまへんー」


 俺はとりあえずサラの頭を掴んで振っといた。



犬耳奴隷少女(少女とは言ってない)。

男の娘にしてもいいかなと思って書いてました。

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