ふむふむ
◇◇◇◇◇◇
息切れをするまでもなくといった感じで勇者達がランニングを終えた。
「足が速い割に城周りのランニングに思ったよりかかったな。」
「途中の曲がり角で少し…。」
その一言で、いろんな場所に突っ込んだんだんだな~と、推察できた。ただのランニングのはずなのに全員ズタボロと言うに相応しい姿だからな。
これが勇者相手ではなく友人達だったなら、笑いながら『どこの邪竜とやり合ってきた』くらいの皮肉はいえるのだけどね。
護衛騎士様の手前そんなセリフは言えない。
騎士様からも不敬な態度をとれば上に報告することもなく処分すると釘をさされている。
スラム育ちですから空気より軽いです。そういや、短距離走も最初の一歩ですっころんでヘッスラ(ベッドスライディング)かましてたな、運動会で張り切り過ぎて足がもつれるお父さんかお前さんらは。
さて、結果として、勇者とはまとも(・・・)なヒトは卒業してる者達の事をそう呼ぶのだと思われる。
はたしてこれに一兵士が闘いかたを教える必要あるのだろうか?
チラッと勇者の護衛騎士を見やれば唸っている。
多分慣れない力に戸惑う姿が理想としていた勇者の姿とあまりに違う姿だったからだろうが。
まぁ、現状くらいの身体能力ならば、まだまだ冒険者には上がいる。
騎士の中でも能力的低いとされる方々より多少マシくらいなのだが、ここが彼らのスタートラインだ。これだけの能力でありながらよちよちのヒヨコさまだというから末恐ろしい。
「先ずは着替えましょうか。」
城の周りの掘りは水を引き入れてある。
曲がり切れなかった彼らは予想した通り何度か水没なされたようだ。
水に濡れて透けるような服じゃないの勿体ないところだが女子共は確かに酷い有り様なのでそのままと言うわけにはいかないだろ?
そこにきて、護衛騎士の一人が着替えを取りに馬を走らせた。
…まぁ、そうなりますよね。
誰もこんなポロポロになるなんておもわないよねー。
それから、ないとは思うんですが、いくら城が近いからって着替えさせる侍女やら馬車はいらないですからね?
今日は服が汚れない程度に軽く流すくらいの予定でいたつもりだったんだ。
だから、俺は最初は軽くランニングから~と言ったんだ。
体力測定じゃないんだというのに、なぜ全力で走ろうとするのか。
前世というものがあるのなら、あなた方の前世はとてもすばらしい猛牛でございましょうね。
けどさ、スタートの合図で藪に突き刺さったのを見てなんとなく結果は見えていたからなぁ。
同じく不安に思ったのか護衛騎士がその後を付いて行ったんだが、彼は最後まで追いつく事は出来なかった(・・・・・・・・・)ようだ。
城の内掘りなんだが全周が四キロ位、一般人なら二・三十分かかるか?護衛騎士も申し訳なさそうに遅れて帰ってきたが、ほぼフルメイルで二十分で完走しているのを考えれば、それだけ走れたら十分人間辞めている部類に入るんじゃないかと思う。やはり護衛に抜擢されるだけあり兵士と騎士様では鍛えかたが違う。
息もすぐ整えたくらいだから全力だが、余裕の内で走ってきたんだろう。
最後のほうは、勇者達はゆっくりというより恐る恐る走って来たから多少は加減的な何かを学んだはずだ。…多分。
基礎体力は申し分ない。
俺などより上であるはずだと騎士様に伝えておこう。
勇者のスキルに経験値とやらがあるらしく新たな高みへ至るレベルアップ(限界点上昇)があるなら成長はなおさら速いはずだ。
一般人は限られた中で基礎体力を磨くだけしかできないが、勇者はいくらでも強くなれる。
だからこそ、単独で伝説的な魔物を倒せるようになり英雄として崇められる。
さ、それはいいが今後の方針をどうするかだ。
最初は俺たち兵士と同じ訓練をする予定だったけど、勇者達の能力が高いなら俺らがいつもやっている基礎メニューをやらせてもあまり意味がないんだよな。
今さらだけど、俺あんまり指導員に向いてないんだよな。
武器の握り方なんかやってもつまらないし。
せっかく広い場所にいるんだからスラムに伝わるごっこ遊びで時間つぶそうかな。
「より体の動かし方を覚えたほうがよさそうですね…。」
「はい。」「武器になれる意味合いも含めて、俺対勇者たちでチャンバラごっこでもやりますか?」
『いきなりソッチに行きますか。』
ハモるなよ。所詮はごっこだからお前らに危険はない。お前らが加減を間違えさえしなければ俺の命も無事だろ、もし怪我とか重傷になってもやはり兵士には無理か程度さ。他の人が指導につくだろうから俺的には問題ない。