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side雅~全部見せて

 寮の部屋に入った途端、靴を脱ぐひまもなく晴可先輩の腕が体に絡まる。

 寄せられるくちびる。

 交わりそうになる吐息。

 でもちょっと待って。

 このままなし崩しでは終われない。

 神田さんが体を張ってまで教えてくれたことを無駄にはできない。

 何とか落ちてくるくちづけをかわすが、代わりに顔中にキスの雨が降ってきた。

 ちょっとほんとに。


「晴可先輩!」


 寸でのところでなんとか両手で晴可先輩のくちびるを封じる。

 不思議そうな顔で見ないでください。

 手の平を舐めるのは反則です。

 

「ちょっとだけ、私の話を聞いてほしいの」


 そう言う私に少しだけ小首を傾げた晴可先輩は小さく頷いた。

 なんとか理性を取り戻してくれた晴可先輩に、ほっと息をついた途端、私の体はふわりと舞い上がった。


「ちょ……っ」


 突然の浮遊感に、私は思わず晴可先輩の体にしがみいた。

 いやこれはそういう意味じゃなくてこわいんだからねほんとに。

 上機嫌の晴可先輩にお姫様抱っこでリビングのソファーまで運ばれる。

 着地した場所が晴可先輩の膝の上だったのは、まあある意味想定内だ。

 話を聞いてくれるだけでも良しとしよう。

 私は間近で注がれる、熱を孕んだ視線を無視することにした。


「もう間違うのは、いやなの」


 私は晴可先輩の胸に頭をつけた。

 そうしていれば晴可先輩の視線からは逃れられるから。

 ほんの少し早い晴可先輩の鼓動を聞きながら、私は言葉を紡ぐ。

 さっき神田さんの言っていたように、言葉に出さなければ伝わらないのだ。

 耐えることは美徳。だが言うべきことを言わないのは怠慢。

 互いがどんなに大事に想い合っていたとしても、真意が伝わらなければ傷つけあうこともある。

 そのことが痛いほど分かったから、私は自分の中の想いを言葉にしなければならない。



「ずっと我慢すればいいと思って生きてきた。みんな、勝手なことを言うけれど、自分さえ我慢すればそれでいいんだって。晴可先輩は私が何も言ってくれないと言ったけれど、何もかもを話せば、きっと晴可先輩は何もかもを解決しようとしてくれるはずだから、これ以上重荷になりたくなくて言えなかった」


 晴可先輩の顎先が微かに揺れる。


「でもそうじゃない。解決してもらうためじゃなくて、理解してもらうために話さなきゃだめなんだって、やっと気が付いたの」


 そう言って私は晴可先輩の胸から頭を起こす。

 見つめる晴可先輩の目から甘さは消えていた。


「神田さんのことを衿香ちゃんって呼ぶ晴可先輩の声を聞くのが嫌だった。学園の中で一人になれる場所がないのも辛かった。あることないことで責められるのも腹が立った。何もしていないのに人に注目されるのは嫌い。行動を制限されるのも嫌。私のために傷つく晴可先輩を見たくない。私のことは馬鹿みたいに守ろうとするのに、晴可先輩は自分の事は何にも話してくれないのが淋しかった」

「雅ちゃん……」

「それでも私は晴可先輩のそばにいたい……」

「……」

「私が晴可先輩の隣にいる価値のある人間かどうかなんて分からない。例え、そんな価値のない人間だとしても、やっぱり私はあなたの隣にいたい。あなたのことを一番理解している人間でありたいの。だから何の取り柄もない、何もできない私だけど、嬉しいことも、悲しいことも、不安なことも、全部話して欲しい。晴可先輩と一緒に戦っていきたいの。傷つくなら二人で傷つきたい。何も知らされずに笑ってなんかいられないから」


 言いたい事が絡まって溢れだす。

 上手く言えずに、まるで駄々をこねているようだと思う。

 だけどこれが私の中の嘘のない気持ち。


 私はじっと晴可先輩の瞳を見つめた。

 眼鏡の向こうで揺れる晴可先輩の瞳は何を映しているんだろう。

 もっと知りたい。

 晴可先輩を。

 晴可先輩の考えていることを。



「……俺は弱いんや」


 ぽつりと晴可先輩がつぶやいた。


「こんな力持ってても、何の役にもたたへん。人を傷つけるだけの、無駄な力や。そやからいつも怖かった。泣きごとなんか言うたら、キリがない。いつかこんな俺に雅ちゃんは愛想を尽かしてしまうんやないかっていつも不安で一杯や。いつか雅ちゃんが俺の前から消えてしまいそうで、なんとか雅ちゃんの気持ちを繋ぎとめたくて、必死やった」


 晴可先輩の手がゆっくりと私の髪を撫でる。

 それは初めて聞く晴可先輩の泣きごとだった。

 いつも何があっても、大丈夫と、軽く笑ってくれた晴可先輩の心の中。

 不安にさせていたのは、私だった。


「私はずっと晴可先輩の隣にいます。もう迷わないから。だから安心して」

「こんな俺でもいいん?頼りなくて、泣きごとばっか言う俺でも、好きになってくれるん?」

「聞かせて。晴可先輩の泣きごと、聞きたい」

「……ほんま、雅ちゃんには参るわ」

「情けない晴可先輩も、どうしようもない晴可先輩も、全部知りたい」

「そんな煽らんといて」

「大好き」

「……もう」


 困ったように晴可先輩は笑う。

 つられて私も笑みをこぼす。

 寄せられたくちびるをもう避けようとは思わなかった。


「こんなに夢中にさせてどうするん」


 晴可先輩のつぶやきがくちびるを掠める。

 私は黙って晴可先輩の頭を引き寄せた。






「そういえば、気がついてた?」


 久しぶりのダブルベッドの中で晴可先輩の腕に包まれ眠りに落ちる寸前。


「ん?なに?」


 眠い目をこすりながら尋ねる。


「晴可先輩って呼んでたこと」

「……」

「ペナルティ、やったよな?」

「……」

「何回言うたかなあ。十回や二十回ではないよな」

「先輩?」

「ほらまた」

「……!!」

「何にしよかなあ。ペナルティは」

「あの」

「まずは、俺が満足するまで部屋から出さへんっていうのにしよっかな~」

「明日は学校……」

「ほら言うて?」

「は?」

「晴可って」

「あのそれは」

「普通に言うてたやん~。晴可さんって」

「~~~~~」


 私の恋人はちょっと意地悪だ……。



                               完 

まだまだ二人のお話は続いていくとは思いますが、ひとまず完結とさせていただきます。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

全ての読者さまに感謝の気持ちを捧げます。

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