side雅~溶
まるでテレビドラマを見ているような気分だった。
神田さんを取り囲む生徒会役員たち。
中でも剣呑な空気を隠そうとしない木田先輩と真田くん。
そんな空気の中でも神田さんは全く怯む様子はなかった。
厳しく冷たい言葉の応酬に、木田先輩の手が神田さんの細い首にかかった。
慌てて止めに入る幸田くん。
緊迫した空気の中、それでも私の心は凍ったままだった。
そんな中、神田さんは私を救いたかったと言いだした。
救う?
意味が分からず思わず聞き返す。
すると彼女は当然のように頷いた。
「そうです。苦しかったんでしょう?」
苦しかった?
そうかも知れない。
私のために何かをすり減らしていく晴可先輩を見るのが苦しかった。
私だって晴可先輩のために何かしたい。
なのに何も出来ない自分が情けなかった。
黙って守られていることさえ出来なくて。
私が傷つくと悲しそうな顔で謝る晴可先輩を見るのが辛かった。
なのに彼女は晴可先輩を責め立てた。
何ひとつ事情も知らない彼女は、ただ晴可先輩の出した結果だけを批判した。
「それで空いた席に座ろうって魂胆なんだろうが。綺麗事を言うんじゃねえ」
木田先輩の言葉に神田さんの眉が吊りあがる。
「だ~か~ら~。私は貴島さんのことなんて何とも思っていませんし、第一貴島さんには神田の未来を託せません。雅先輩の気持ち一つ理解できない貴島さんに私は何の価値も見出せません」
その言葉を聞いた時、私の中で何かが弾けた。
あなたに何が分かるというの?
私たちの間に起きた出来事を何も知らないくせに、何も知ろうとせずに、この子は何を勝手なことを言っているんだろう。
結果的に言えば私は傷つくことになったけど、晴可先輩だって傷ついている。
なのになぜこの子は晴可先輩を否定するの?否定できるの?
唸りを上げて巻き起こる感情の渦が私を呑みこむ。
気が付いたら私は生まれて初めて他人に手を上げていた。
左頬を押さえて驚いたように私を見つめる神田さんの目を、私はしっかりと見据えた。
突然湧き上がった怒りの感情で声が震える。
「何も知らないくせに、晴可先輩のことを悪く言わないで」
私はどうしてこの子に、晴可先輩のことを何も分かろうともしない子に、晴可先輩を託そうとしていたんだろう。
ただ上流階級に生まれたというだけの、ただ美しい容姿に恵まれたというだけの、この子の何に怯えていたんだろう。
晴可先輩のことを一番傍で見てきたのは私だ。
晴可先輩の心の一番近くにいたのも私。
なのに私は醜い嫉妬の感情に捕われて、全てを否定した。
私の持っていない、どんなに努力しても持つことの出来ないものを彼女が持っているというだけで、私は自分を否定したのだ。
晴可先輩が彼女に笑いかけるだけで、晴可先輩の心を奪われたような気がして。
不安で、怖くて。
失うのが怖くて背を向けられるのを待つくらいなら背を向けてしまおうと思った。
……悪いのは神田さんじゃない。
一番愚かなのは私だ。
何度繰り返せば気が済むんだろう。
一緒にいられるだけで幸せなんだと、分かったあの日から。
失くした温もりを、やっと取り戻せたあの日から。
失敗して後悔してやり直そうと思ったのに、やっぱり私は間違えてしまう。
あんまりにも自分が情けなくて涙が出そうになった。
もう、消えてなくなりたい。
そう思った時。
視界が真っ白に変わった。




