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side雅~しるし

 次の日、のんびりと本家の周りを散歩してから私たちは帰路についた。

 助手席に座りゆっくりと背後に流れていく風景を眺めていると、なんとなく淋しく感じるくらいには私はここが好きになっていた。

 ここには晴可先輩を追いかける熱っぽい目もないし、隣にいる私に向けられる敵意もない。

 どちらかというと関わりたくないという空気すら感じる。

 それは屋敷の中だけではなく外でも同じだった。

 無関心がこれほど心地よいと感じたことはなかった。

 終始晴可先輩を始め木田先輩や生徒会のみんなに守られ、花嫁候補たちの視線に晒される学園での生活は、思ったより深く私の神経にダメージを与えていたようだ。


「疲れた?ごめんな。せっかくの休み、つき合わせて」


 そう言って空いている左手で私の右手を握る晴可先輩の方こそ疲れた顔をしている。

 しばらく走ると前方に一台のバスが停まっているのが見えた。

 バスから降りてくる人影に思わず目がいってしまったのは、片田舎の風景に似合わない派手な金髪のせいだった。

 あれ、この人。

 そう思った時、車がぐんとスピードを上げた。

 助手席のシートに押しつけられながら目の端に映ったその人は、どことなく晴可先輩に似た感じの学生風の男の子だった。


「ちょ……、怖い」


 ちゃんと舗装された田んぼの中を走る見晴らしのよい一本道とはいえ、片道一車線の道路を高速道路並みのスピードで走るのはどうかと思う。

 私の悲鳴が聞こえたのか、不意に車はスピードを落とした。

 緩やかにスピードを落とした車はそのまま路肩に停止した。

 一体なんなんだ?

 晴可先輩の手が伸びてきてハザードランプのスイッチを押した。

 故障?

 そう思って晴可先輩の顔を見上げたら、いつの間にかシートベルトを外していた晴可先輩が体ごと私に覆いかぶさってきた。


「!!!!?」


 性急に合わせられるくちびる。

 ここ、路上なんですけど。

 しかも周りはめちゃくちゃ見通しが良くて、眩しいほどお日様が輝いてるんですけど。

 もちろん、私の文句はすべて口の中に消えていった。

 



 

 やっと晴可先輩がくちびるを離してくれて、一息つく。

 奪うようなくちづけは、どこか縋りつかれているような気もして。

 私はそっと晴可先輩の頭を撫でた。


「どうしたの?」


 そう尋ねると晴可先輩は困ったような顔をして私を見た。


「ごめん」

「?」


 何を謝られているんだろう。

 いつもの癖で首を傾げると、突然、本当に突然首に噛みつかれた。


「いっ……!?」


 つねられたような強烈な痛みを感じたと思ったら、すぐにそこをぬるりと生温かい何かが這う。


「せ、せんぱい!!!???」


 生々しい感触に思わず両肩を押しやると、意外なほどあっさりと晴可先輩は離れていった。

 舐められたであろう首筋に手を当てて、助手席のドアにへばりつく。

 なんなのこのひと。

 訳が分からなさすぎる。

 ひきつった私の顔を見て、晴可先輩はなぜか吹き出した。


「ご、ごめん。もうしやへんから。そんな怯えんでも……」


 肩が震えてますよ。

 笑いをこらえながら謝られても、信用できません。

 ふくれる私の頭をくしゃくしゃと撫でてから、晴可先輩はシートベルトを締め直した。

 ゆっくりと車がスタートする。

 本当に一体何だったんだろう。


「あ~。はよ帰って雅ちゃんとゆっくりしたい」


 なんだか急にご機嫌になった晴可先輩が不穏な事を口にした。

 私の恋人は情緒不安定らしい。


 


 私の頭からさっき見た金髪の男の子のことは綺麗さっぱり消え去っていた。






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