side雅~本家
結局本家に着いたのは夜だった。
てっきり日帰りだと思っていたのに、車のトランクから私の分の荷物が出てきたところを見ると、晴可先輩は最初から泊るつもりだったようだ。
でもこんな時間に訪問するのはどうなんだろう。
その思いはむやみやたらと大きくて立派な門構えや、旅館のような広々とした玄関を目の当たりにして大きくなった。
けど晴可先輩はどうとも思ってないらしく玄関の式台の上にどさりと荷物を置くと大きな声で来訪を告げた。
「こんばんは~。今着いたで~」
何とも気の抜けるような挨拶だ。
しばらく待っていると奥の方から年配の女性が現れた。
「お帰りなさいませ。旦那様がお待ちです」
てっきりこの家の人かと思ったけれど、どうやら使用人の人らしい。
「ほな上がらせてもらうで」
さっさと靴を脱ぐ晴可先輩に倣って私もあわてて靴を脱ぐ。
出迎えに現れた女性にぺこりと頭を下げて晴可先輩の後を追おうとしたら、女性に呼び止められた。
「遠いところ、よお来てくれました。お荷物はお部屋に運んでおきます」
「あ、すみません」
ほんの少し胸によぎる違和感はなんだろう。
私は女性に荷物を渡しながら考えた。
「行くで?雅ちゃん」
気がつくと晴可先輩は廊下の先、曲がり角のところで私を待っていた。
慌ててもう一度女性に頭を下げ晴可先輩の後を追う。
「相変わらずやな~」
先を歩く晴可先輩がつぶやいた。
相変わらず?
何のことだろう。
晴可先輩は迷いのない足取りで廊下を進む。
時に右に曲がり、左に曲がり、まるで迷路のようだ。
絶対一人になったら迷子になる。
そう思って晴可先輩の背中を追っていると、それに気付いたのか晴可先輩が振り返って手を差し伸べてくれた。
大きな手を握ると晴可先輩がふっと表情を緩めた。
珍しく緊張しているんだろうか?
でも前を向いて歩きだした晴可先輩の表情はもう見えない。
「無駄に広い家やな~」
やっと目的の場所に着いたのか、晴可先輩は立ち止まって障子に手をかけた。
そこは八畳ほどの和室だった。
中央に置かれた座卓には誰も座っていない。
晴可先輩はそのまま部屋を横切ると奥のふすまをからりと開けた。
「じいさん、来たで」
「!!?」
その瞬間、息が詰まった。
ひゅっと音を立てて吸い込んだ息が吐き出せない。
指一本動かせない状態で私は晴可先輩の向こうに見える大柄な老人の顔を見つめていた。




