表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

死神と「彼だけの天使」

作者: 上木 MOKA

人通りの少なくなったまち

街灯がいとうの上からほのかに道をらす蝋燭ろうそくの明かり

しん々と冷えゆく空気に、る粉雪

おさない死神の子供が、指を冷たさで薄紅色うすべにいろめていた。


・・・季節は「冬」・・・

幼い死神「モルス」は

「はぁ~」っと息を吐きかけ、手を温める

冬の仕事は、寒くて多くて辛い・・・

モルスの目には、涙が少しにじんでいた。


「仕事を放り出して、家に帰りたい」と、思っていても

無智むちから来る、持ち前の責任感のためにそんな事は出来ない


彼は、本来付くはずの大人の付きいも無く

一人きりで「死をむかえる者をしめ方位ほうい磁石じしゃく」をたよりに

仕事をすべき場所へ向かっていた。


その場所へ行く途中とちゅう・・・

死を管理する者にしか見えない目印めじるしを見付ける


クリスマスマーケットの片隅かたすみ、街灯のそばに置かれた木箱

人間達は見て見ぬ振りをして、通りぎて行く


「仕事だ」と確信し

モルスがそのボロイ木箱をのぞくと、中には・・・

命の炎が消え掛けた母猫と数匹の小さな子猫が入っていた。


猫達をくべき場所へ向かわせる為、モルスが手をかざすと・・・

『ネコニャン達を殺さないで!』と

同い年くらいの幼い天使に突き飛ばされてしまった。


・・・幼い天使「アンジェリカ」は・・・

『御願い!ネコニャン達を助けて!』と繰返す


死神を「殺して命をうばう者」と、信じて疑わない天使は・・・

泣きながら「猫の入った木箱」を抱え込み、渡してくれない


モルスは必死に考えた・・・

『君は天使だよね?奇跡きせきは起こせないのかい?』

モルスの言葉にアンジェリカはしょんぼりする


「神様は、信者しか救わない」そんな奇跡は起きないのだろう

まぁ「信じたから」と言って・・・

かならず救われるわけでもない現実が、この世にはあった。


それにしても・・・猫達には、時間が無かった

モルスは、仕方なく「死後、猫達をこの世に彷徨さまよわせない為」に

アンジェリカをだまして猫達のたましいを送る

彼女は「死」に「おどろき、恐怖きょうふし」天に帰ってしまった。


モルスは後悔こうかいした・・・

「引きとどめて、説明してあげればよかったか?」と

アンジェリカの泣き顔が、脳裏のうりぎり・・・

『さっきのが、トラウマにならなければいいけど』と、つぶやいた。


アンジェリカと出会ってから・・・

今まで、天使の男女の区別程度くべつていどしかできなかったモルスは

いつの間にか、天使の中で「アンジェリカだけ」を

見分けられる様になっていた。


死神を見るたびおびえるアンジェリカに・・・

モルスは、「あの時」時間が無くて「騙してしまった事」をあやま

死神に対する「誤解ごかい」をきたかったのだが


死神を見掛ける度に、天使達は「死神が嫌い」だと言いはな

「ゴミひろい的な役割の者達」だと揶揄やゆし、嘲笑あざわら

近付く事を許さなかった。


声を掛ける事すら、できないまま・・・

「謝る」には、時が経ちぎてしまったころ

「あの時の事」を後悔し続けていたモルスは

自責じせきねん」からアンジェリカを遠くから見守る様になっていた。


純粋じゅんすいに、心優しい娘に育つアンジェリカを見ていると


他の者の死を身近に感じ続ける「死神の仕事」のつかれが・・・

悲しく辛い仕事で作る心の傷が・・・

いやされる様な気がして、幸せな気持ちになる事に気が付いた。


アンジェリカが、冬の終わりの時期

・・・「春が近付く」と・・・

修道院しゅうどういんで育てられている「スノードロップ」の花畑に

必ず、うれしそうに舞い降りている事を知った時


「幸せな気持ちにしてくれた御礼おれいに」と

こっそり、彼女の好きな「その花」をおくりたかったのだが・・・


スノードロップの「逆境ぎゃっきょうの中の希望、なぐさめ、恋の最初の眼差まなざし」

と、言う花言葉が・・・

贈り物にすると「あなたの死をのぞみます」と、言う

意味になる事を知って断念だんねんした。


死神からの好意こういは受け付けていないと言う

「天からの啓示けいじ」なのかもしれないとモルスは思った。


時は流れる・・・

時をて、それぞれそれなりの成長をして・・・大人になった。


アンジェリカは、生まれて初めて・・・

大人になってから「謝ってもゆるしてもらえない事」と遭遇そうぐうする


彼女は純粋な優しさから、同情心どうじょうしんから、共感きょうかんから・・・


ふかく深く傷付けられ・・・恐怖きょうふ絶望ぜつぼうと例えようの無い苦痛くつう

嫌悪感けんおかんの中で生き続けねばならない「人の子」に

「幸せな永久とわねむり」をあたえてしまった。


如何いかなる場合も・・・

天使が「永久の眠り」を与える事は大罪だいざい


苦しみは「神からの試練しれん」として、えて受けねばならない物

それを勝手かって免除めんじょする事は「神への反逆はんぎゃく

「天使にあるまじき行為こうい」彼女は堕天だてんさせられてしまった。


・・・おかしたつみは、消える事が無い・・・


天使で無くなり堕天使だてんしになって・・・

アンジェリカは「もう、2度と帰れない」そらに「帰りたい」

と・・・のぞみ・願い・懇願こんがんする


そして、不条理ふじょうりぎる「人の子への仕打しうち」を・・・

すくいをもとめられ無視むし」した「神の怠惰たいだ」をなじった。


即座そくざに、てんからアンジェリカへの天罰てんばつくだ

モルスは・・・死神として、その一部始終いちぶしじゅうを見守っていた。


アンジェリカが「死神」を見付け・・・

そう、モルスに対して「そらに帰りたい」と懇願する


『あなた・・・死神でしょ?

死に逝く者の願いをかなえる事ができるのよね?』

すがり付くアンジェリカを悲しげに見詰め

モルスは溜息ためいききアンジェリカの手を取った。


きみは、さっきの人の子みたいな試練を受け続ける覚悟かくごはあるの?』

モルスのいにアンジェリカは・・・

『覚悟はあります!だから、そらに帰らせて』とこたえる

モルスは彼女にとって「見知らぬ死神」として

彼女の願いを叶える事にした。


土に帰らない彼女を、魂と一緒いっしょに無理やり土に帰し

彼女を支配しはいしていた「神」に見付けられない様に

世界中にいて隠してしまう


この世の中で・・・

彼女を苗床なえどこに植物が育つ、育った植物を動物が食べ

彼女の魂の欠片かけらが生き物の中に広がってく


違うモノにざった魂は・・・

違うモノと一緒に、少しづつ浄化じょうかされていく

モルスはこっそり、それを見守り続けた。


罪は必ずあばかれるモノ、犯した罪にはばつを・・・



モルスは「彼女の罪の罰」を一緒に受ける事となった。


アンジェリカが崇拝すうはいしていた神に、モルスは投獄とうごくされ

モルスの裏工作うらこうさくむなしく

不幸を運命付けられた、すべてのアンジェリカの欠片達・・・


何よりアンジェリカの不幸に、モルスは心を痛める


ていただけの他の神も、心を痛め・・・

モルスの「純愛じゅんあい」に感銘かんめいを受けた神の一人が・・・

慈悲じひと、わりの罰と、使命しめい」をモルスにあたえる事にした。


『何度も生まれ変わって浄化された「いとしき者の欠片」を

毎年、欠かさずに集め続けなさい

一年間集めた分で、小さな仮初かりそめの妖精ようせいを作って

その妖精と降誕節こうたんさいいわわせてあげましょう』


モルスは、それにしたがいアンジェリカの欠片を探し続け・・・

見付けては、目印の花飾はなかざりを贈り続け・・・

その命が終わる時を待ち続けた。


そして、気付く、アンジェリカの欠片から生まれた妖精は

アンジェリカと同じ嗜好しこうをしている事に・・

モルスは、クリスマス飾りの片づけを悲しげに眺める妖精の為・・・

クリスマスが大好きだったアンジェリカの為に・・・

彼女だけの為のクリスマスを集める様になった。


毎年、イヴの夜の夜明けが待ちどおしい

クリスマスせいなる夜明けとともに、モルスが集めた魂の中から

アンジェリカの欠片から生まれた妖精がモルスの前に姿をあらわ

降誕節だけが、アンジェリカと出会える時


続いて、公現祭こうげんさい「エピファニア」が彼女との御別れの日


一年間積もり積もった、ワルイモノをほうききよめる

魔女のベファーナが・・・

モルスが集めたモノを、アンジェリカを・・・

モルスが抱えた喪失感そうしつかんと共に、全て掃き去っていく


・・・終りのある使命・慈悲深じひぶかき替わりの罰・・・


アンジェリカの欠片を全て集めて切ってしまえば

もう2度と会えなくなるかもしれない中・・・

モルスは、アンジェリカの欠片を見付けるたび

彼女が好きだった「スノードロップの花」の花飾りを贈り続け

今も・・・1人で、アンジェリカの欠片を集め続けている。


遠い未来、アンジェリカの魂の全てが集まり・・・

地上から天使の欠片が消えた時・・・

神様がさらなる慈悲を与えるかどうかは、神が決める結末けつまつ


願わくば・・・

「彼だけの天使」が終焉しゅうえんの時、彼のもとに舞い降りる事を祈る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ