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前へと逃げろっ!  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 不思議な能力 ――クリハスト地方――
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第8話 魔法発生装置

 ブリザード大尉を緑と赤のベールが包み込む。戦闘開始と共に彼はスタンロッド型の“魔法発生装置”を使い、自らを強化するブリザード大尉。


「魔法発生装置か……」


 魔法発生装置とは、魔法を発生させる事が出来るすごい武器だ。彼が持つような白のスタンロッド型をしたヤツは、政府特殊軍の軍人のみが扱ってもよいものだった。一般の市民の所持・使用は法律で禁止されていた。

 この装置は手に持つ部分(=グリップ)に加工された魔法クリスタルを内臓していた。魔法クリスタルにある魔力マナを変換して、あらゆる魔法を使うことが出来る。それが魔法発生装置だった。

 魔法発生装置のエネルギーは無限ではない。電気エネルギーを使って魔力マナをあらゆる魔法に変換している。だから、定期的な充電が必要だった。

 この装置を使えば、火炎弾で火をつける事も出来れば、サンダーで電気を発生させることも出来る。また、攻撃魔法だけでなく、生き物を治癒する回復魔法や自身の身体能力を上げる攻撃強化魔法、攻撃によるダメージを大幅に軽減するシールド魔法などが使えた。


 魔法強化を終えた彼は持っていた槍を前に向け、俺たちの方向に向かって走ってきた。


「死ねッ!」

「それはこっちのセリフ!」


 ケイレイトは風を呼び起こす。一筋の斬撃がブリザード大尉を斬る。右肩から左のわき腹にかけてスッパリと(あれっ、ブーメランを投げてないぞ? 風魔法の“かまいたち”か??)。

 だが、ダメージはあまりないのか出血がほとんどない。これは最初から着ていた防御コートと魔法発生装置による魔法シールドがあるからだ。


「そんな……!」

「ほう、貴様も魔法発生装置を持っているのか」

「…………?」


 俺はブリザード大尉のセリフに疑問を抱く。本当にケイレイトは魔法発生装置を持っているのか? 少なくとも今まで彼女が風系魔法以外を使ったのは見たことがない。テトラルシティでもハーベスト地方でも風以外の魔法は使ってない。もし、仮に魔法発生装置を持っていたらあの傷は自分で治せただろう。“回復弾”とかで。


「…………」


 ケイレイトは無言で風を起こす。再び斬風でもするつもりだろうか?


「吹き飛ばせっ!」


 突然、小さな竜巻のような風が起こる。ブリザード大尉は空中に飛ばされ、下に勢いよく叩き付けられる。彼は物理・魔法耐久を上げているにもかかわらず口から血を吐き出す。今のは相当ダメージが大きかったらしい。

 この風魔法はかなり強力な魔法だ。風系魔法でもかなり強い。その分魔法発生装置のエネルギー消費も半端ではない。


「クソッ!」


 ブリザード大尉はスタンロッド型の魔法発生装置を振る。その途端、彼の体は蒼い光に包まれる。回復弾だ。負わされた傷をを回復していく。


「こうなれば、さっさと処分するのみ! さっきのでもう魔法発生装置は使えまい!!」


 ブリザード大尉は再び魔法発生装置を振る。すると、今度は赤い炎が一筋の線となってケイレイトを目がけて飛ぶ。強力な炎属性の魔法・火炎放射だ。

 そして、どうでもいいが、俺はなぜか状況を解説する人になってしまっている。


「…………」


 ケイレイトは無言で手を振る。その途端、強烈な風がブリザード大尉に向かって吹く。火炎放射は風に煽られブリザードを襲う。彼の体は炎に包まれる。

 だが、それだけでなく彼は風によって吹き飛ばされた。彼の飛ばされた先は、崖だった! 彼の体は暗い谷底へと消えていく。


「うわぁぁぁぁ!!」


 炎に包まれる彼の叫び声と共に風は止まり、敵はいなくなった。少しの間を置き、何かが落ちた音が響き渡った。ケイレイトは彼が落ちていった崖をぼんやりと見ていた。


「ケ、ケイレイト?」

「……なに?」

「お前、魔法発生装置を持っていたのか?」

「…………」


 彼女は視点を動かさない。蒼く不気味な結晶群を見たまま何も答えない。


「いや、別に俺はお前が魔法発生装置を持っててもいいんだ。ほら、お前は国際政府特殊軍の軍人だったんだし――」

「……魔法発生装置じゃないよ」

「ははっ、じゃさっきの風は……」

「ほっといてよ!」

「…………!」


 そう叫んだ彼女の目には涙が溜まり、敵意をも感じさせる。彼女と風は何かある。それを感じるのは容易な事であった。

 俺は何も言えなくなる。口を閉ざすしかなかった。これ以上の探索はお互いの仲を破滅に追いやるかも知れなかった。


「もう、いい。俺が悪かった……」

「…………」


 ケイレイトは無言のまま歩き始めた。来るときには美しく見えた氷の結晶群は、今やただの自然の造形物程度にしか俺には見えなかった。


 ケイレイトは魔法発生装置を持っていない。そう仮定すると、おかしなことになる。どう考えても、俺たち人間は魔法を使えない。

 ただ、人間の亜種である“サキュバス”は魔法を使える。もし、彼女が人間じゃないのだとしたら、サキュバスなのだとしたら、魔法が使えるのにも納得がいく。

 ただ、そうだとすると、やっぱりおかしなことになる。サキュバスなら回復魔法が使えるハズだ。なのに、ハーベスト地方で彼女は回復魔法を使わなかった。

 自分がサキュバスであることを隠しているだけなのだろうか。だが、それにしてはアサルトバウとの戦いでは本当にヤバそうだった。

 俺の中にあるケイレイトへの疑問は、増していくばかりだった。





 【クリハスト地方 北部】


 無言のまま、俺たちは北へ、北へと進む。北に進めば助かるという保障はないがテトラルシティ周辺にいたら必ず殺される。国際政府の威信と安定の為に。


「ごめん……」

「ん? どうした?」

「さっきはごめんね。私、もう怒ってないから」


 そう言ってケイレイトは俺に微笑む。


「ここを抜けたら……」

「ホープシティ」

「知ってんのか?」

「うん、詳しいんだ。そこに行ったらもう…… ううん、何でもない」


 そう言うと彼女は早足で進んで行く。地面は凍り。俺は滑るんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていた。


「あぶねーぞ!」

「平気、平気っ!」


 彼女は蒼い氷の地面を走り、どんどん先に進んで行く。俺は彼女の後を必死で追いかける。そんな俺たちの姿を、浮遊探査機の小さなカメラが捉えていた。俺たちは、それに全く気が付かなかった。

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