第5話 孤独な2人
【ハーベスト平原】
ハーベストフォレストの北にはハーベスト平原が広がっている。涼しい風が吹き、ここにも水溜りが無数にある。そしてやっぱり野生の魔物。
「うわぁ~! 広い平原だ」
「キュォォ!」
「うわッ! またプランツーじゃないか!!」
前方から4体のプランツーがやって来る。だが、この広い平原なら逃げる事も可能だった。別に魔物は倒さなければならない相手じゃない。ほっといても別に害にはならない。
それに、下手に全ての魔物を相手にして戦えば、体力も銃弾も消費してしまう。こんな自然では、休めば体力は回復できるが、アサルトライフルの銃弾なんて落ちているハズない。
「行くぞ! ケイレイト」
「うん!」
俺たちは曇り空の下を走る。前から吹く涼しい風は冷たく感じる。俺たちは人の手によって管理された草が生える地を走り続ける。その内、雨が降り始める。雷も鳴りはじめた。
「よし、あの大きな岩陰で雨宿りでもするか!」
俺の指差す方向には、大きな岩がたくさんある。あそこなら雨宿りが出来そうだ。ケイレイトは無言で頷く。
岩陰に着いた俺たちはようやく座ることができた。ここまで走り続けたせいでちょっと疲れた。それにテトラルシティからほとんど休まずここまで来た俺たちの体力はかなり浪費していた。
「大丈夫か?」
「私は走っただけだから大丈夫だよ。メタルメカこそどう? 魔物とも戦ったし……」
「俺は大丈夫だ……。体力を回復させる物でもあればいいんだがな」
「ごめん、何もない」
そう言ってケイレイトは空を見上げる。灰色の雲からはたくさんの水粒が落ちる。地面の水溜りは増えていた。
いくら人工の自然とはいっても自然は自然。街のようにレストランや宿屋があるワケでもない。自分で何かを見つけ、自分で何とかしなきゃならなかった。
「そういえばメシも尽きちまったな……。水には困らなくてすみそうだが」
俺はチラリと辺りを見渡す。水たまりがたくさんある。水には困る事はなさそうだ。飲んでお腹を壊すかどうかは別問題だが。
「もう少し北に行けば氷があるけどね」
「ハハっ、腹がダメになりそうだ」
ハーベスト草原の北、ハーベスト石林を越えればそこは氷の結晶群がある地。クリハスト地方がある。クリハスト地方は財閥連合の支部施設が置かれている氷覇山の西に当たる。きっとここよりも過酷な環境なのかも知れない。
「……私と一緒にいてくれてありがと」
「…………? どうしたんだ?」
「私はあの都市で死ぬつもりだった。仲間も部下もみんな死んだ。だからもう独りなんだ。あなたはこれからどうするの?」
「さぁな……。何も考えてない」
そう言って俺はケイレイトと並んで空を見上げる。落ちてくる水が少なくなってきた。もうすぐ止むのかもしれない。さっきよりも空が明るくなってきたような気もした。
さっき、ケイレイトは“仲間も部下もみんな死んだ”と言った。それは俺も同じだった。俺は財閥連合軍特殊部隊メタル分隊の隊長だった。
だが、仲間でもあった部下は全員死んだ。そして、組織に捨てられた俺は、ケイレイトと同じく独りだ。俺には家族だってもういない。俺が小さい頃に交通事故で死んでいる。
「この量なら大丈夫かな?」
「そろそろ、出発か?」
「うん、あなたがそれでいいなら……」
今度は俺が先に進み始める。ケイレイトが後を追う形になる。空は相変わらず灰色の曇り。雨の量が少し減った。水溜まりが増えたが、俺たちは全く気にせずに進んでいく。
「キュゥゥ!」
「ん? またプランツーか?」
「この声はアクアプランツーじゃないかな?」
ケイレイトはブーメランを取り出して言う(なんだこれは?)。彼女の目の先には半透明のプランツーが3体も立っていた。アクアプランツーは動物を食べずに動物の体液を吸い取って栄養を得る魔物だ。
「今度は私が戦う! 任せて!!」
「え? でもよ」
「大丈夫だから!」
そう言ってアクアプランツーの前に立ちはだかるケイレイト。彼女がアクアプランツーの前に立った途端、風がプランツーに向かって吹き始める。
「…………!」
この状況は前にもあった。あのテトラルシティで財閥連合兵と戦った時。その時も敵に向かって風が吹いていた。
「それッ!」
ケイレイトは2本のブーメランを投げる。それは素早く回転しながらアクアプランツーの体を斬る。僅か数秒でアクアプランツーは全て倒れた。その体からは透明の水があふれ出す。
「よし、完了ね」
「……あ、ああ。じゃ進もうか」
「うん」
俺は内心、彼女の戦闘……いや、その能力に興味があった。だが、今はそれよりも進む事に専念しよう。そう考えて彼は何も聞かない。でも、いつの日かそれを知りたい。あの風は何なのか?
岩陰で休んでいるとき、彼女は“仲間も部下もみんな死んだ”と言っていた。仲間は何となく分かる。だが、部下も死んだとは? 彼女には部下がいたのか? だとしたら、どれだけの部下がいたんだ?
彼女は国際政府軍の軍人だ。もし本当に部下がいたのなら、そこそこの階級の人間なのかも知れない。あの能力からして、決して低くはないだろう。何となくだが、俺はそう思った。




