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前へと逃げろっ!  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 逃走者たちの冒険 ――ハーベスト地方――
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第4話 自然保護区ハーベスト・フォレスト

 【自然保護区ハーベストフォレスト】


 テトラルシティから脱出を果たした俺たちは、明るく自然の道があるハーベストフォレストに到着した。ハーベストフォレストは豊かな自然に恵まれた森で、降水量の多さでも有名。よく雨が降る為、水溜りが多い。晴れた日には光が森の中に差し込み、美しき緑の王国となる。


「ハーベストフォレストか……。初めて来たな」

「私も初めてなんだ! ここ!」

「まぁ、迷う事はないよな」


 俺とケイレイトは一本の道を進み始める。うわっ、水たまりがっ!

 このハーベストフォレストを含むハーベスト地方は政府管理地域であった。自然保護区に指定され、定期的に人の手が加えられていた。


「うわッ! 水溜まりが!!」

「あははっ、早くしないと置いて行くよ!」

「お、おう、……うわッ」


 水溜りを避けながら進もうとするが、そもそもここは水溜りが多い。これを全て避けるのは至難の業だ。一方のケイレイトは水溜りなど気にせずに進む。彼女の黒いブーツは水が染込み、泥が付いていた。

 ハーベスト地方全域の警備を行うのはハーベスト地方大隊だ。遠く離れた政府首都グリードシティに本部を置く軍事総本部とハーベスト管理所の命令で魔物の討伐や警備を行っている。


「ええい、こうなったら水溜りなんか気にしないで行くッ!」

「最初っからそうすればいいんだよ」

「だってよ、汚れちまうじゃないか」


 俺はケイレイトに追いつく。いつの間にか、俺の装甲靴も彼女と同じように泥水で汚れていた。

 このハーベスト地方には、凶暴な魔物や強大な魔力を持つ魔物は生息していない。定期的にハーベスト地方軍によって討伐されているからだ。いても――


「キュォォ!」

「な、何だ!?」

「植物の魔物よ。ホラ、アレ!」


 ケイレイトの指差す方向には口の長い人型の生物がいた。その身体は緑を中心に赤や黄色の部分もあり、胴体は植物の茎のようだ。腕は蔓になっている。その蔓の先端は葉っぱになっていた。


「食人植物のプランツーか!」

「キュォォ!」


 プランツーはノロノロと近づいてくる。その口からは涎が出ていた。プランツーは弱小の魔物。人に管理された自然で生きる魔物はこういった弱い魔物ばかりであった。


「じゃ、頑張ってね!」

「俺一人かよ!」

「え~、涎出している敵を私が~?」

「レディーファーストとはいかないか?」

「キュォォ!」


 そう言っている間にも、プランツーは近づいて来る。その速度はかなり遅い。厳しい自然界じゃ、すぐにやられるだろう。この地方の魔物は、基本的に人の手によって生かされているような魔物なかりだった。


「よっし、俺のバトルを見学してな!」

「頑張れ!」


 俺はヘッドアーマーを被り、アサルトライフルの銃口をプランツーに向ける。そして、一気に倒そうと連射する。数発の弾がプランツーの胸を貫く。プランツーはフラフラと後方に下がっていく。2、3歩下がったところで、プランツーは草と苔の生える地面に倒れた。


「やったね!」

「へへ、楽勝だぜ」

「じゃ、次もよろしく!」

「ん?」


 俺は道の奥に目をやる。そこにはキノコのような魔物と、木の切り株のような魔物がいた。どちらも俺の身長の半分ほどしかない。キノコの方は“マッシュー”で、木の方は“ウッドロー”だ。マッシューは毒をもっている。回復薬はないから気を付けないとな。

 俺は再びアサルトライフルの銃口を前に向け、迎撃体勢をとる。まずウッドローに狙いを定め、射撃した。銃弾はウッドローに当たり、破片が飛び散る。ウッドローの身体は少し硬い。そのため、多くの銃弾を当てないと倒れない。まだ遠くにいるのにウッドローを先に狙ったのはそんな理由からだ。


「くァァァ!」


 ウッドローが相手に攻撃できる範囲に入った時、彼はその場に倒れ込んだ。だが、そのすぐ近くにはマッシューが迫っていた。


「おっと……」


 俺はアサルトライフルの銃口を向ける。……だが、少し遅かったらしい。マッシューは口から大量の粉を撒き散らす。辺りは黄土色の煙で何も見えなくなる。幸い俺は全身を装甲服で覆っていたのでダメージはなかったのだが、普通に喰らうと毒を受ける。


「こうなると煙幕だな……」


 俺は腰に装備していたアサルトソードを抜き取り、目の前にいるマッシューを斬りつける。マッシューは緑色の液体をまき散らしながら倒れた。

 アサルトライフルを使わなかったのは弾の節約という意味もあった。だがそれ以上に、今は目の前が見えないという状況だ。万が一別の方向に弾が飛び、ケイレイトに当たったら大ごとだ。だから、俺はアサルトソードを使った。


「お疲れ」

「こんな弱体化した野生の魔物なんか朝飯前だ」

「え? もうすぐ昼飯だけど? “昼飯前”じゃないの?」

「いや、そういう意味じゃ……」

「あ、草原が広がってる。行こう!」

「お、おう」


 ケイレイトは先に進む。俺もその後を慌てて追う。もう、水溜りは気にしなかった。キレイな水郷。水の音と小さな魔物の声ばかりが響いていた。

 もう、希望のない道じゃない。ここは死にゆく街でもない。なんとなく、幸せな時間だった。敵は魔物しかいない。



















































 この幸せが、そう長くは続かない事を、俺たちはまだ知らなかった――。

◆ハーベスト地方

 ◇テトラル地方の西に位置する自然保護区。

 ◇秋になると美しい紅葉がみられるため、人気の観光スポットでもある。

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