第3話 財閥連合・氷覇支部にて
【財閥連合 氷覇支部】
テトラルシティの北に、氷覇山と呼ばれる山が存在する。白い雪で覆われた山々。その奥に財閥連合の支部が存在する。
ここで行われるのは研究・開発・製造。軍用兵器や生物兵器を量産するのだ。国際政府の許可は得ていない。これらは全て法律で禁止されていた。
「テトラルシティは消滅したか……」
わたしは施設内の廊下を歩きながら、財閥連合代表代行のコモットから報告を受けていた。
「国際政府とは無事に“密約”を結べたので何も問題はないかと思われますが……」
「だが、これでこちら側も大量の軍用兵器を失った」
我々財閥連合と国際政府は、テトラル除去計画の直前にとある密約を結んでいた。
――テトラルシティに攻め込ませた生物兵器・軍用兵器・傭兵・特殊部隊の撤退を禁止し、同市をリセット・ミサイルで消すことを黙認せよ。また今後、軍事力を増強させてはならない。それを認めるのであれば、今回引き起こした事件について財閥連合の責任は一切問わない。
この密約を我々、財閥連合は呑んだ。こうして、国際政府軍によってテトラル除去計画は実行されたのだった。
「それで、今後はどうします?」
「ひとまず、“パトフォー閣下”の指示を待つしかあるまい」
実は財閥連合には黒幕がいた。それがパトフォー。黒のローブを被り、決して姿を現さない彼はコマンド率いる財閥連合の黒幕であった。全てが謎に包まれた男であったが、極めて大きな謎があった。
「コマンド代表! パトフォー閣下より連絡が入っております!」
「なにっ!? すぐに向かおう!」
わたしとコモットは急ぎ足で最高司令室へと向かい、大型コンピューターを操作する。すると、大きなホログラムが投影され、フードを被り、サングラスをした男――パトフォーが現れる。
「お呼びに御座いましょうか、パトフォー閣下」
[コマンド代表、知ってると思うがテトラル除去計画は無事実行された]
「はい、パトフォー閣下。脱出させたのはお指図通り、“フィルド=ネスト”1名で御座います。他は全員死亡したハズです」
わたしはパトフォーの立体映像に向かって言う。フィルド=ネストとは国際政府の女性軍人だった。彼女はテトラルシティで激しい戦闘の果てに、財閥連合のヘリを奪って脱出を図った。
[……だが、実際には他にも数十人が市内から脱出しておる]
「な、何ですと!?」
わたしは驚き、つい大きな声を上げてしまう。戦争中、テトラルシティは完全に封鎖されていた。同市の外周エリアを封鎖していたのは財閥連合軍。その軍もテトラルシティと運命を共にした。つまり、跡形もなく完全に消え去った。
[封鎖が甘かったようだな]
「も、申し訳ありません! すぐに新たな部隊を動員して撲滅を図ります!」
わたしは額に汗を滲ませ、近くにいたコモットに手で合図する。彼は一礼すると、その場を去ろうとした。が、その前にパトフォー閣下の口が開いた。
[まぁ、待て。今下手に軍を動かせば国際政府に気付かれるであろう。お前たちは大人しくしておれ]
「し、しかし閣下、お言葉ですが万が一、テトラルの事が世間一般にバレれば我々は……」
「安心しろ。ここは国際政府の特殊軍に命じて生き残りを殲滅させよう」
パトフォー閣下はニヤリと笑って言う。彼の極めて大きな謎。それは彼は国際政府をも操れることだった。最初に密約とテトラル除去計画を提案したのもパトフォー。彼の提案から僅か数日で国際政府は我々、財閥連合に同じ内容のことを言って来たのだ。
パトフォー閣下が、何らかのカタチで国際政府総帥及び元老院議会・政府特殊軍を操っているのは明確だった。
「よ、宜しいのでしょうか……?」
[そうした方が俺の計画――『ラグナディス計画』は上手く運ぶのだ。お前たちは次の指令まで大人しくしておれ……]
「は、はい、閣下……」
わたしとコモットは深々と頭を下げる。それを見たパトフォー閣下のホログラムは消えていった。彼の姿が消えた後、コモットが言った。
「パトフォー閣下は何者でしょう……?」
「分からんが、敵に回せば命がない事は確かだ……」
わたしはゆっくりと歩き出す。内心、パトフォー閣下のことをわたしは恐れていた。彼に逆らえばどうなるか。確実に言えることは、間違いなく破滅が待っていることだけだった。
◆コマンド
◇財閥連合の代表。
◇パトフォーという男に逆らえない。
◆コモット
◇財閥連合の代表代行。




