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前へと逃げろっ!  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 殺される街 ――自然都市テトラルシティ――
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第1話 試練のカレー

 【自然都市テトラルシティ】


 静まり返った街。生き物の気配はない。あるのは壊れた戦車や戦闘機、ロボット。崩れかかった建物。そして、無数の死体――。


「もう、俺も死ぬのか……」


 廃墟と化した街――テトラルシティの市街地をフラフラと歩きながら俺は独り呟く。……気が付けば俺は独りだ。仲間は全員死んだ。

 空がうっすらと明るくなり始めている。日の出と共に、このテトラルシティは消される。組織と国はこの街を捨てた。


「俺たちは結局は使い捨ての道具か……」

 

 俺は「財閥連合」という組織に所属している。いや、“していた”、かもな。財閥連合の命令に従い、この街を占領した。その意図は、ただの兵士である俺たちが知る由もない。

 当然のことだが、国は――世界統治機構の「国際政府」は怒り、軍勢を差し向けてきた。激しい戦いになった。俺たちは命を捨て、必死に戦った。そして、仲間たちは死んでいった。

 だが、財閥連合執行部と国際政府上層部は途中で和解した。戦いは終わった。そして、俺たちは“捨てられた”。


――財閥連合も我々も事件が世に広まるのは困るのだ。


 和解。そして、保身。そのための隠蔽工作。証拠を一掃し、事件を後世に残さぬようにするため、国際政府と財閥連合はこの街を消すことにした。証拠には、俺のような人間も含まれる。この街と俺たちは、世界の安定のために消されることになった。


[ザザッ! ……特殊部隊……せよ……]


 俺の通信システムは壊れ、あらゆる通信が勝手に入る。財閥連合と国際政府の和解も、隠蔽工作のためにこの街が消されることも、この壊れた通信機のおかげで知った。


「もしもし? こちら特殊部隊のメタルメカ。誰か聞えてますか?」

[……生き残っている市民は街から逃げてください……警備軍は壊滅……]

「ダメか……」


 俺は死んだ市内を進んでいく。どこか遠くから銃撃音が聞こえてくる。まだ、誰か戦っているのだろう。財閥連合軍の生き残りと地元警備軍か……。

 俺はふと足を止める。ビルの前に誰かがうずくまっている。若い女性――少女だ。だが、その服装は国際政府軍の……。


「……君、大丈夫か?」

「…………。あなたは誰?」

「俺は……財閥連合軍特殊部隊の“メタルメカ”だ」


 名乗ってから思った。“メタルメカ”はコードネームだ。本当の名前じゃない。

 財閥連合の特殊部隊と名乗った途端、少女は眉を潜める。当然だろう。“現場”じゃ財閥連合と国際政府は敵同士。ここで殺し合いになっても何らおかしくはない。


「……私を殺す?」

「いや、もう俺はこの街から生きて出れたらそれでいい」


 俺は少女の汚れた手を取り、立ち上がらせる。

 ――生きて出る、か。理性はもう諦めているのにな。この街から出られるハズがない。もう間もなくこの街は死ぬ。そして、俺も、この少女も。


「道案内を頼んでもいいか?」


 バカか、俺は。もう死ぬんだぞ。何が道案内だ。


「フフフ、変わった人ね。敵である私に道案内を頼むなんて。いいよ、付いて来て」

「助かる。よし、護衛ならまかせておけ」


 少女は先に歩き始める。俺は後に続く。護衛か。ロボット兵器や人間兵士相手なら負ける気がしない。だが、もう間もなく飛んでくるミサイルからはこの娘を守れない。


「君の名前は?」

「……ケイレイト」


 その時、再び通信が入る。彼の壊れた通信機から。


[……テトラル~! 万歳~!]

「ん? どうしたの?」

「いや、また無線機から音声が流れてきただけだ」

「雑音が多いけど、壊れているの?」

「ああ、何度か落としたりしたからな」


 会話の最中にも通信は入り続ける。その音声は雑音が多く、正直、聞き取りにくかった。


[テトラルー! クリーンなテトラルーー!!]

「市長の声じゃない? まだ生きてたんだ」

「市長?」

「クリリテル市長よ」

[テトラル~! あっはっはっはっはっ……!]

「何爆笑している? テトラルって何か面白いのか?」

「たぶん、頭がおかしくなったんじゃない? 戦争の影響で」

「おう……」


 俺はため息をつきながら、誰もいない街を進み続ける。やがて、ケイレイトは一つのレストランに入る。明かりだけが点いたままのレストラン。中に人の気配はない。戦争が起きて従業員達は逃げ出したのだろう。


「秘密の抜け道か?」

「朝ご飯だけど?」

「マジか」


 ケイレイトは店内の厨房に行く。その間、俺は周りに目をやる。まだアチコチから煙が上がるテトラルシティ。建物の一部は赤く燃え上がり、赤い光が雲に反射している。

 しばらくして彼女はレストランの中から戻って来た。その手には鍋が。……俺はふと、異臭を嗅いだような気がした。


「何だそりゃ?」

「カレー」

「皿に入れようぜ?」

「やだ。めんどくさい」


 ケイレイトは鍋を道端に置き、蓋を取る。異臭が俺の鼻につく。ただ、どこかカレーの匂いもした。……気がする。


「せっかく見つけてきたんだから、食べてよ」

「…………」


 うっすらとカレーのニオイがする鍋。俺はケイレイトの持ってきたスプーンを手に取り、鍋の底の方にあるカレーを掬い取ると、ゆっくりと口に運ぶ。…………。俺は、苦しい笑みを浮かべながらに言った。


「もう行こうか」

「何でっ!?」

「このカレーの名称を思いついたぞ」

「なに?」

「“試練のカレー”だ」

「何それ?」


 ケイレイトは俺からスプーンを受け取って、鍋のカレー(と思われるモノ)を食べる。そしてニコリと笑って言った。


「朝ごはんはまたの機会にしよう」

「大賛成だ」

◆試練のカレー

 ◇EF2002年5月23日 ケイレイトがとあるレストランから見つけてきたカレー。

 ◇カレーが長らく放置された結果、生成された。

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