第11話 死にゆく希望
※今回はケイレイト視点です。
「ぐぁッ!」
「……え? メタルメカ!?」
突然、聞こえたメタルメカの悲鳴。私は彼の方を振り返る。そこにいたのは1人の男。その男は瀕死のメタルメカにスタンガンを押し付け、彼を気絶させていたのだった。
私は国際政府特殊軍の人間だ。この男が誰なのかを知っている。その危険度も――。
「……医療チームを呼べ。これは政府代表の命令だ」
「イエッサー!」
「メタルメカッ!」
私は血相を変えて、“その男”に飛び掛る。だが、彼は簡単に私の首を掴んで行動を封じてしまう。そのまま私を持ち上げる。
「どうも、ケイレイト“准将”」
「お前、よくもメタルメカをッ!」
「ククッ、お前に会えて嬉しいよ」
そんなやりとりをしている間にも、精鋭兵が私たちを取り囲んでいく。また、メタルメカは白衣を着た特殊軍の医療チームによってタンカーに乗せられ、運ばれていく。
「メタルメカをどこにッ!」
「心配はいらんよ、ケイレイト准将。彼は我々の優秀な医療チームによって治されるのだ。肉体も“精神も”な」
「…………!!? 彼をどうする気だっ……!」
私は青ざめて言う。ナネットの言う“精神を治す”とは……?
「彼は政府代表の忠実な部下となるのだ……」
[ナネット総督閣下、“テトラルの生き残り”を旗艦プルディシアに護送完了しました]
「ああ、なら……」
私の中で何かが壊れていく。しっかりと残るのは人の命を簡単に消す国際政府に対する憎悪だけであった。 私はその場に座り込む。もう、希望はない。あるのは敵の希望だけ。
「……駆逐部隊も撤収しろ。政府代表及び政府総帥の命令により本日23時36分を持って“テトラル除去計画”は終了する。総員に告ぐ。テトラル除去計画は終了する。全兵及び全軍用兵器は旗艦プルディシアに撤収せよ」
ナネットが私に背を向けて歩き始める。その瞬間、私は顔を上げる。目からは涙が溢れていた。私が気づいた時には、私はナネットに向かって飛び掛っていた。右手に魔力を溜め、一気に数発のかまいたちを飛ばす。風魔法はナネットの背中を斬り付ける。
「ぐぁッ!」
ナネットの体はその広場に倒れこむ。もう、私の目には憎悪の炎しかないのだろう。国際政府、特殊軍、世界……。それら対する憎悪がナネットに向けられていた。
「うわぁぁッ!」
私は叫びながら風魔法を再び放つ。大型のかまいたちが飛ぶ。だが、ナネットはそれを軽々と避ける。床に大きな斬り込みが入る。
「やってくれるじゃないか、ケイレイト准将……」
ナネットは腕を捲し上げる。本気を出した証拠だ……!
「わたしも“パーフェクター”だということは知っているだろう?」
「…………」
パーフェクター……。この世界には極稀に人間でありながら、魔法を使うことが出来る人間がいる。ただ、何でも使えるワケじゃない。パーフェクターはそれぞれの分野に特化した魔法しか使えない。
また、パーフェクターは大きく2つ分けられる。一つはナネットのように体の質と形を変異させるタイプの物理型パーフェクター。彼は――
「わたしは体を鉄に変異させることが出来る“鉄のパーフェクター”だ。もちろん、知っているとは思うがね」
「…………!」
「そして君は、“風のパーフェクター”だ。鉄と風。どちらが戦闘向きか、考えたことはあるかね?」
パーフェクターの分類。もう一つは魔法発生装置と同じように、魔法を操ることの出来るタイプの魔法型パーフェクター。私は後者に分類される。
「私はメタルメカを絶対に助ける!」
私は再び大型のかまいたちを飛ばす。当たれば人間程度なら真っ二つになる。だが、ナネットの体はさっきとは違い、鋼の肌に変異していた。大きな金属音が鳴り響く。
「意気込みは素晴らしいが、希望はなさそうだな。ケイレイト准将」
何事もなかったかのような表情で言うナネット。かまいたちは彼を直撃した。なのに、傷すら付けれなかった。しかも、さっき大技を繰り出した為、魔力はほとんどなく私自身、限界だった。
「フフフ、わたしに風魔法は効かんぞ……」
ナネットは不気味に笑みを浮かべ、ゆっくりと近づいて来る。その両腕は銀色に光り、渦を巻いていた。これが物理型パーフェクターの特徴である形状変化なのだろう。
「テトラルシティ、ハーベスト地方、クリハスト地方、ホープ地方と、ちょっとイタズラが過ぎるぞ。ケイレイト准将!」
「…………!」
私は素早く接近して来たナネットによって腹部を軽く斬られる。そこから血が流れ出し、私の身体はその場に押し倒される。
「あの男に肩入れし過ぎだ。……ふふっ、惚れてるのか?」
「なっ、何をッ……!」
次第に遠ざかる私の意識。魔力を使い果たし、重症を負った私にもう抵抗する力も、気力も残されていなかった。
そして、脱出は失敗した。私たちは旗艦プルディシアに乗せられ、国際政府の首都グリードシティに連行された。
テトラルシティから脱出し、ハーベスト地方を越え、クリハスト地方で特殊軍の追撃を振り切った私たち。前に逃げ続けた。
[こちら旗艦プルディシア。これから全軍を率いてグリード軍事総本部に帰還します]
だが、逃げ込んだ先で私たちの逃亡は終焉を迎えた。全てはムダだったのだろうか? クリリテル市長、アサルトバウ、ブリザード大尉、大隊攻撃機フォボス、その他の兵士や魔物。それらと戦い得た勝利も全てムダだったんだろうか……?
[ええ、財閥連合のメタルメカ及び我が軍のケイレイト准将。命令通り確保しました。――――――。はい、政府代表。全てご命令通りに……]
今は亡き自然都市テトラルシティ。その地の市民は僅か数人を残して全て消された。国際政府の信頼と安定の為に。
私はテトラル除去計画に反対だった。何度もテトラルシティで反対意見を出した。そして、私がテトラルシティで戦っている間に、あの街にいた政府軍は全て撤退してしまった。私は捨てられていた。
信頼していた仲間と部下たちに捨てられたことを知ったのは、メタルメカからテトラル除去計画が間もなく始まるということを聞いたときだった。
その時には、もう何もかもが遅すぎた――。
◆ケイレイト
◇17歳女性。
◇国際政府特殊軍准将(強襲部隊所属)。
◇風のパーフェクター。
◇テトラル除去計画に反対したため、政府軍に捨てられた。




