ブランカ=カストリオ⑧
給仕の青年が運んで来たものを見たロウマは、目を丸くした。丸めた何かを串に刺しているのは分かる。
問題は丸い物体の色だった。
緑だった。まるで、草の汁をすり込んだような色をしている。
「どうぞ食べてください、師匠」
「シャリー、これはなんだ?」
「師匠はもしかして、団子を知らないのですか?」
「団子?知らないな」
「美味しいですよ。この色は野草の色です」
「やっぱり草だったのか……大丈夫なのか?」
「そんな疑いの目で見つめないでくださいよ。それに『草』はやめてください。『野草』ですよ。『野草』。草だったらその辺に生えている雑草と一緒ですよ。野草は食用の草です」
「どう違うのだ?」
「そんなことより食べてください。味は保証しますから」
ロウマはだまされたと思って、食べてみることにした。とりあえず、一つだけ口に含んだ。
だまされた。確かに美味かった。草をしみ込ませているとは思えぬ味、香り、何よりほどよい食感。
全てが素晴らしかった。
「草のくせに美味い」
「だから草ではありません!野草です!もういいですから、どんどん食べてください」
しばしの間、ロウマとシャリーは団子に夢中になった。久し振りに食べた珍味だったので、ロウマは大満足だった。
やがて腹もふくれたので、二人は店を出た。
ロウマは歩きながら、周囲を見渡した。異民族の土地であるが、街の様子はレストリウス王国と変わりなかった。なかなか発達している。ここが異民族の土地と言われる理由が分からなかった。
「師匠は恋人はいますか?」
突然、シャリーが尋ねてきた。
「急にどうしたのだ?」
「ごめんなさい。急に知りたくなったのです」
「知ってどうするのだ?」
「知りたいだけ。あなたを愛する女の人がいたのかどうかを」
「師匠」ではなく、「あなた」と言った。今は師弟関係ではなく、男女としての関係を強調していた。相変わらず勝手な奴だと思いながらも、ロウマはシャリーの気持が嫌というほど伝わった。
さっきの幕舎でのシャリーとは違うようだ。今はなぜか素直に答える気になってしまう。
「いない」
「そうですか」
シャリーの顔が、ほっとした。
「恋人はな」
「えっ?」
「婚約者がいた」
シャリーの顔が突如、驚愕と悲哀に満ちた。先ほどの安堵の表情が嘘のようである。婚約者は予想していなかったようだ。
ロウマは、そっとシャリーの肩に手を置いた。
「ただし、愛されていなかった。けなされ続けた。存在も道端の石ころ程度にしか、見られていなかった。いや、もしかしたら石ころ以下だったかもしれない」
「そんな……師匠は立派な人です。それなのに、けなすなんて……」
「シャリー、お前が思っているほど、私は立派な男ではない」
「そんなことありません。少なくとも、私は微塵も考えていません」
「こっちに来い」
ロウマはシャリーの手を握ると、人気の無い路地まで連れて行った。




