ハルバートン家⑧
ライナがロウマに近寄った。
ハルバートン家で良家の令嬢という風格が一番ただよっているのは、このライナだった。淑女という言葉は、この人物のためにあるのだろう。ライナは軽く咳払いをした。
「妹のシャリーが失礼をいたしました。シャリーは姉である私の言うことも聞こうとしません。いい子なのですが、鼻にかける性格が難点です。ですが、あなたのおかげで、あの子も目が覚めるかもしれません。ありがとうございました」
「私はただ、向き合っただけです」
「相手と向き合うということは、簡単なようで難しいことです。あなたはそれを簡単にやってみせました。すごいことだと思います」
「すごい……私が?」
意味が分からなかった。右宰相の仕事一つ満足にこなせないうえに、好意を寄せている女にすら相手にされなかった自分のどこがすごいのだろうか。
ロウマが悩んでいると、ライナはにこりと笑った。
「そんなに悩まなくてもいいですよ。自分のことが分からないのでしたら、それでも結構です。むしろ、分からない方がいいかもしれません」
「……はい」
「シャリーは、放っておいて大丈夫です。今はよく考えさせるべきでしょう。ところで、晩餐をご一緒しませんか?この二日間、私達はあなたと会話らしい会話をしていないので、晩餐で何か話でもしませんか?」
「私は面白い話はできません。つまらない男です」
「ロウマ、ライナ姉さんが折角誘っているのだから、行ったらどうだ?」
横からロバートが口を出した。行かないとただじゃ済まさないぞ、と目が物語っていた。
ロウマがちらりと、他の姉妹に目を移すとみんな同じだった。さすがに、これは行くしかなかった。
「それでは、お言葉に甘えて、ご一緒させていただきます」
「どうぞいらしてください」
ライナがまた、にこりと笑った。
***
この土地に来て、ロウマが最初に目を見張ったのは、食生活だった。
はっきり言って、見たことも聞いたこともない食べ物ばかりだった。小さな椀に、白い粒が盛ってあるのだが、これが何か見当がつかなかった。
「ここに来て二日もたつのだから、いい加減に慣れたらどうだ?」
ロバートがぼやいた。彼が言うには、白い粒は「米」と言うらしい。この土地で栽培しているものだった。




