表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/177

第一章 八月二日①

 風が吹いている。痛いくらい体に当たっている。


 今は夏だというのに、冷たい風だった。


 ロウマ=アルバートは、一つの墓石の前にたたずんでいた。墓は完成してから、年月があまり経過していないので、ほとんど傷みが無い。


 ロウマの父親ジュリアス=アルバートの墓である。墓の前に献花したロウマは、頭を下げた。


「父さん、久し振りに来ました」


 ロウマはじっと墓を見つめた。当然の事であるが、墓から返答は無かった。


 ロウマは墓を見るたびに思い出す事があった。かつて父のジュリアスから受けた折檻の日々を。何発も頬を張られたし、時には外に放り出される事もあった。


 あのころはジュリアスが憎くて仕方なかった。なぜ自分がこんな目に遭うのか何度も考えた。しかし、そういう考えも次第に消えていった。


 気が付けば、言われた通りに動いていた。他者から見れば、つまらない奴だとしか思われないかもしれないが、それが生きるためのすべなのだ、と自分に言い聞かせて納得させていた。


 ジュリアスもいつの間にかロウマに厳しくすることは無くなった。その代わり、部屋にこもりがちになった。


 もしかしたらジュリアスは自分に対してやりすぎた、と後悔していたのかもしれない。だが、それは推測にすぎないしありえなかった。


 あのジュリアスが自分のことで後悔したら、それこそ国が混乱するだけである。用が済んだので立ち去ることにしたロウマは振り向いた。


 使用人のアリスが立っていた。手に花を持っているところから、彼女も墓参りに来たのだろう。


 ロウマはアリスから顔をそらした。先日、衝動的に彼女を襲ったのが、脳裏によみがえった。獣のように抱いた。あの時の自分は男ではなく完全におすだった。


 けれども、あの一件が自分の目を覚まさせた。後味の悪い目の覚め方である。


 あの一件でよかったことは、つぶれていた彼女の声が戻ったことだった。


 アリスは四年前に強盗に家族を殺された。彼女はその時、外出しており家にいなかった。


 家族の遺体は無惨な状態だったらしく、見てしまった彼女はショックのあまり、声を失った。その後ロウマと出会い、アリスはアルバート家に使用人として雇われた。


 声は少しずつ戻り始めていたが、先日ロウマが抱いたことで元に戻った。


 だが、分からなかった。


 どうして抱いたことで声が戻ったのだろうか。考えたが結局、その答えにたどり着くことはなかった。


 アリスは今でも自分の屋敷にいる。普通なら出て行ってもおかしくないのだが、居座りつづけていた。


 むしろ積極的に近寄ることが多くなり、最近は化粧もする事が多くなった。


「アリス、お前も墓参りか?」


「そうです。今日は死んだ弟の誕生日なので」


 アリスは、にこりと笑った。笑顔が似合う子だった。それはロウマも認めていた。この笑顔は人の心をいやす効果があるだろう。


「弟はどんな子だった?」


 尋ねてはいけないことだったが、うっかりしてしまった。


 顔色一つ変えることなく、アリスは口を開いた。


「とてもやんちゃな子でした。落ち着きがなくて、放っておくと、すぐどこかに行ってしまう困った子でしたよ」


「そうか。その気持は分かる。私も弟のノーチラスのおもりに苦労していたからな」


「ロウマ様でも、手こずることがあるのですか?」


「当たり前だろう。私だって人だ。完璧ではない」


「そうですよね。私も馬鹿なことを言いました」


「気にするな。大したことではない」


 完璧。


 その言葉はロウマにとって、一番痛かった。かつては完璧になろうとして頑張った時期もある。


 しかし、現実に打ちひしがれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ