第五章 ハルバートン家①
相変わらずつまらない。
貴族の子息どもの笑い声、適当に行う調練。もう、うんざりしていた。
パリスは溜息をついた。今日も元帥のラスティ=レルクと一緒に練兵場を視察していた。
貴族の子息どもは、自分を見ると頭を下げるが、陰では成り上がり者と罵っているのを知っている。
その通りだった。自分は成り上がり者である。パリスはそこを否定するつもりはなかった。生まれは裕福な家ではなかった。一介の下級役人の家である。
父は力量も無いくせに、大望だけは抱くろくでもない男だった。母は覚えていない。自分が物心つく前に亡くなっていた。どうして亡くなったのかは知らないが、パリスは特に興味は無かった。
ある日、父は逮捕された。どうやら不正を働いていたことが露見したようだ。パリスは父が逮捕されても、なんとも思わなかった。
十人が聞けば十人、百人が聞けば百人とも自分の態度に首をかしげるだろう。だが、別に不思議とは思わない。
答えは最初から一つだけある。実に単純明快すぎることだった。興味が無かった。それだけである。
父は獄死した。面会には一度も行かなかった。
一人になると、生活のため軍に入った。軍に入って戦功でも挙げれば、昇進することができるだろうと考えていた。
結局、戦に出ることは無かったが、ラスティに出会い側近になった。どうやら運が向いて来たようだ、とパリスは内心ほくそ笑んだ。
だが、どうも仕事をしている感じがしなかった。ラスティの宴会に同行することが多かった。
いつしかラスティに対して、殺意がわいてきた。奴の命と引き換えに、元帥の座を奪ってやりたくなった。
しかし、それを決行するには引き金となるものが欲しかった。今の軍には肝心の引き金が無い。外から来てほしいとパリスは願った。不思議なことに願いが通じたのか、そいつが現れた。
セイウン=アドゥール。武術師範としてやって来た男だった。
セイウンは正義感の塊だった。ラスティが最も嫌悪するものだった。彼が言うには、正義というものは偽善者のかぶる仮面らしい。
要するにラスティは正義のヒーローを気取った輩が、全て胡散臭く見えるのである。好機だった。パリスは急いでセイウンに罪を着せて追い出した。
セイウンはその後、クルアン王国から逃げ出して、レストリウス王国の廃城に住み着いて反乱の準備を始めているようである。
ますます面白くなってきた。こっちもそろそろ始めよう。
兵士が一人やって来た。
「パリス将軍、門番のジュナイドを連れて来ました」
「ご苦労。彼だけ残して、お前は行っていいぞ」
兵士がいなくなると、ジュナイドがパリスの前にやって来て跪いた。まだ若い。二十の前半だろうか。
「門番のジュナイドです。何かご用でしょうか?」
ラスティの側近である自分を前にして、恐れというものを見せていなかった。どうやら当たりくじを選んだようである。
「お前を今日から将校に任命する。嫌とは言わせん。これは俺からの私的な命令だ」
「仰せのままに、パリス将軍」
ジュナイドは拝命した。
パリスは、にやりとほくそ笑んだ。




