第三章 ロウマのいなくなった後①
ひどい土地である。馬では通れない道も存在しており、自分で馬をひきずって歩くしかなかった。それを三日も続けた。
ロウマは一息ついた。
胸が痛かった。装着している甲冑が、黒であるため分かりにくいが、吐血はすでに二回しており血が多量に付着していた。
この土地がこんなに厳しいとは、知らなかった。さすが地図にも載っていない土地である。
向かっているのは、レストリウス王国よりさらに北にある異民族の土地だった。
名前は知らなかった。地図にも載っていないので己の感覚を頼りに進むしかなかった。
前から異民族の土地には興味があった。そこに行けば新しい発見ができるかもしれないと思っていたが、この苦難の道である。
まだ何も見えて来ない。あとどれくらい続くのだろうか。
ロウマは身震いした。レストリウス王国も十分寒い国であるが、ここはさらに上回っている。
今は夏だからいいが、冬は確実に凍死しているだろう。
「もう少し重装備で来ればよかったかな」
ロウマは、ぽつりと独り言を口にした。
突然、胸が痛んだ。
口中から赤い液体が噴き出た。またである。どうしても吐血がやまなかった。旅に出てから、悪化しているみたいだった。
『よう相棒、無理すんなよ。つらいなら、俺が交代してやる』
『僕でよければやるよ』
ラトクリフとベサリウスが、ロウマを気づかって声をかけた。
ありがたいが、その申し出を受けるわけにはいかなかった。ここで交代してしまったら、二人にも自分の苦しみを味あわせてしまう。
「ありがとう、二人とも。でも、大丈夫だ。ちょっと横になるから」
断ったロウマは、適当な寝床を探すことにした。うまい具合に、ほら穴を見つけた。
馬をつなぐと横になった。
懐をまさぐって何かを取り出した。
カチューシャだった。出発間際に、ナナーから無理を言ってもらったものである。今はこれが自分を支えている。持っているだけで体が温まるようだ。
眠気がすぐに、ロウマを襲った。