客人⑦
ゴートは場所を羊皮紙に記した。驚いたことに、レストリウス王国の領内に存在していた。
信じられなかった。他国に逃げずに、反乱を起こした領地に踏みとどまるとは思わなかった。
「下手に遠くに逃げるより、近くにいた方がよいらしい。その証拠に、見事に隠れることに成功している」
「ありがとう、院長」
「わしがしてやれるのは、ここまでだ。後のことは、自分達でやってみせろ」
ゴートは帰ることにした。セイウンが見送ろうとしたが断った。代わりにセングンを指名した。
何か意図があるのだろうと悟ったセングンは、同行することにした。
廃城を出たところで、ゴートは振り向いた。
「セイウンをどう思う?」
「素質は持っています。ただし、今の状態ではまだ不十分です」
なんの素質なのか、セングンは言わなかった。頭領としてなのか、一人の指揮官としてなのか、これからじっくりと見定めることにしていた。
「性格は優しすぎるか?」
「はい。非情になれないところがあります。そこさえどうにかすれば、文句はありません」
正直言うと、ロウマのやったことは間違っていない。セイウンには言わなかったが、自分がロウマだったら同じことをしていたかもしれなかった。
一つの賊を滅ぼすために、一つの村を犠牲にすることは、指導者が下す決断としては重すぎる。ロウマも相当迷ったはずである。
それでも決行した。
おそらく、ロウマはもうあんな策を講じないだろう。セングンは、そう信じていた。
指導者というものは、時には非情にならなければならない。おかげで、孤独になる時もある。
セングンは、ロウマを初めて見た時、彼から「さびしさ」というものを感じ取っていた。
「セングン、お前はセイウンを非情にすることができるか?」
ゴートが尋ねた。
「できます」
「そうか……クリスト殿もセイウンと一緒で優しい人物だった。かつてのわしも、クリスト殿を非情にしようと頑張った。でも無理だった。なぜだと思う?」
「見当もつきません」
「彼の優しさが非情を上回ったからだ」
返す言葉も無かった。
セングンとゴートに向かって一礼して別れた。