グレイス⑧
「ははは。ゴルドーには、そのうち余がよい女を見つけてやろうじゃないか」
「陛下、できれば早く頼みます」
「よいとも、よいとも。ところで、アラリア。セイウンの妻の名前はなんと言うのだ?」
「エレンです。セイウンと同じ孤児院で育ち、幼い日から、セイウンに好意を抱いていたようです」
「つまり両想いの結婚だったのかよ」
唇を尖らせながら、ゴルドーが不満気に呟いた。まったくもって面白くないという表情だった。
そんなゴルドーを見かねたシャニスが、肩に優しく手を添えた。
「ゴルドー、めげるな。そのうちよいことはある」
「お前も俺と一緒で、彼女いない歴=年齢だろう。お前に慰められると、余計に腹が立つんだよ、シャニス!」
「いい加減にしないか、ゴルドー!」
キールが横からたしなめた。
ゴルドーはうつむいたが、まだ何かぶつぶつと小声で文句をたれていた。
「アラリア、エレンについて何か判明したことはあるか?」
「彼女については調べるのにかなり時間をかけました。何しろ孤児ですので、情報が少ないのです。ですが、ようやく判明しました」
「それならば、聞かせてくれ」
「エレンは、クルアン王国のある家族の一人娘として生まれました。家は決して裕福ではなかったようですが、それでも幸せに暮らしていたみたいです。ですが母親が病で亡くなったのと同時に父親から暴力を振るわれるようになりました」
「随分とひどい話だな。母親が死んだら、どうして親父から暴力を振るわれるんだよ?」
ゴルドーがぼやいた。アラリアは、彼の疑問に対して淡々とした口調で説明した。
「エレンの父は自分の妻を、溺愛していたようです。なので妻が亡くなった途端、何もかもが崩壊してしまい、残った娘がわずらわしい存在に思えたようです。エレンはしばらくすると、父親の暴力に耐えられなくなり逃げました。そして、倒れていたところを通りかかったゴートに拾われたのです」
「逃げてよかったぜ。ずっと家にいたら、もっとひどい目に遭っていたかもな。なあ、おっさん」
ほっとして横のグレイスに顔を向けたゴルドーだった。しかし、目に入ったグレイスの表情にゴルドーは驚愕した。