グレイス⑤
今日は横に見知らぬ女を同伴していた。軍議の間に女を連れて来るとは、ラジム二世も道楽が過ぎるなとゴルドーは溜息をついた。
「間諜隊の大隊長だ」
グレイスがゴルドーに耳打ちした。
「なんだって、嘘だろう!」
思わず大声が出てしまったので、女がゴルドーに目を向けた。
「そこのあなた」
「俺ですか?」
「私が間諜隊を仕切って、何か文句でもあるのですか?」
「いえ、別にありません。びっくりしてしまって……」
「こういう仕事は男よりも女の方が合っているのです。女だからといって何もできないと思ったら大間違いです」
そこまで言っていないとゴルドーは反論したかったが、グレイスに袖を引っ張られた。やめておけという意味だった。どうやらただ者ではないようだ。
溜息をついたゴルドーは、仕方なく閉口した。
「まあ言いたいことはいっぱいあるだろうが、今は大切な軍議がある。場に水を差すのはやめろ、アラリア」
「申し訳ありません、陛下」
アラリアと呼ばれた間諜隊の大隊長は頭を下げた。
ラジム二世はアラリアの謝罪を手で制すと、軍議を始めることにした。
「一同はすでに承知しているだろうが、この国に反乱の芽が出始めた。おそらくロウマがいなくなってからの政事姿勢に対する反動というものだろうと思われるが、諸君の意見はどうだろうか?」
真っ先に発言したのは、シャニスだった。
「その可能性はありえます。しかし、私が思いますところ、あの反乱軍は普通ではないです」
「シャニスか。確かお前は、反乱軍から直接攻撃を受けたな」
「不意打ちとはいえ、私の軍もそこそこ鍛えていた軍です。けれどもあそこまで破られたのは初めてです」
それは確かに言えていた。シャニスとキール、ゴルドーの軍はレストリウス王国内でも屈指の軍だった。彼らの軍は全てロウマの手によって調練を受けていた。
なのに、シャニスが兵を失うほどの事態になるとは、ラジム二世も周囲にいる人物達も夢にも思わなかった。
「ただの反乱軍ではないな、シャニス」
「その通りです、陛下。『賊』程度でしたら、不意打ちでも態勢を立て直して破ることができますが、あれは『軍』です。それ相応の調練をほどこしています」
面白いと思い、ラジム二世はほくそ笑んだ。
「アラリア、お前が調べたことを報告しろ」
ラジム二世は側に控えているアラリアに指示を促した。